あらすじ
元いた世界で死んでしまったことは覚えているが、死因も死に至った理由もわからない異世界転生者・上野勇一。
彼は転生先で遭難しかけたところを、何故か最初から敵対的な態度を取る竜人のガルク・フォーナーに保護される。
その翌日、ガルクの父親である村長のファーラークにできる限り正直に経緯を話すと、しばらくは彼を「客人」として扱い、監視付きで村で過ごす事を許されるのだった。
その監視に名乗りをあげたのがファーラークの娘、後に勇一と恋仲になるサラマだった。彼女は外界から隔絶された竜人の村を退屈に感じており、外から来たと言う勇一に監視という体裁で接触をはかる。彼女は彼の世界に、また勇一も知らない文化を目の前にして互いに興味を持ち、種族を超えて惹かれあって行く。
そんな時、勇一に異変が訪れた。連日彼を苛む悪夢である。ファーラークに相談したところ、彼はジズから「勇一はなにか大きな力」を持っていると聞いたことを話し、それが関係しているのではと言う。
しかし根本的な解決に至らず、更に村を危機が襲う。何もない空間が突然ひび割れ、そこから大量のゴブリンどもが現れたのだ。この世界の人たちはそれを「亀裂」と呼んでいた。人里近くには現れない、と言うこと以外は何もわかっていないこの現象に立ち向かう竜人たちと勇一。協力するどころか足手まといになってしまったことを悔やむ彼に、ジズは「客人以上の振る舞いはするな」と注意する。馴染むために長い間村に留まっていた彼は、これからは村の一員として過ごしたい旨を伝えると、ジズはファーラークから入れ墨をしてもらうことでこの村の成人として暮らせるようになるだろうと提案した。
ガルクは成人として受け入れられた勇一をみて複雑だった。彼が村のために色々やっていることは知っているが、今更態度を改めるのも格好悪いと思っていた。そこで彼が考えたのが「決闘」という手段だった。不器用なりに納得できるというガルクの提案を、勇一は受け入れる。結果は相打ちだったがこれを機にガルクも彼の事を認め、ぎこちないながらも二人の友情が始まろうとしていた。
勇一はジズの言う「大きな力」とやらの正体を探しに、この村から旅立つことにした。出発の前夜、竜人の村で過ごした日々をサラマと語らい、恋人として共に旅を始めようと互いに意気込む。しかし二人を突然襲ったのは、村の直上に現れた巨大な亀裂だった。
村人たちを次々と食い殺し、なおも亀裂から現れ続けるゴブリン。ジズは勇一に手製の剣「マナン」を託して死に、ファーラークは彼が逃げる時間を稼いで死んだ。必死に逃げた先で彼を待っていたのは、「亀裂を開いた」と話す謎の男だった。襲われた勇一は、託された剣で辛くも男の右腕を切断し撃退する。
村から脱出を図る勇一、サラマ、ガルク。しかし無秩序に広がり続けるゴブリンの群れは、遂に三人に追いついた。サラマは勇一をガルクに託し、炎の魔法によって壁を作り戦った。最期に彼女は自らの身体を炎で包み自爆すると、衝撃波によって勇一とガルクは濁流へと流されてしまう。溺れるガルクを必死に岸にあげようとするが、ガルクは最後の力を振り絞り勇一を岸に放り投げる。力尽きたガルクは水中へ沈み、そのまま大瀑布へと消えていった。
竜人の村最後の生き残りは、上野勇一ただ一人となってしまった。短剣「マナン」とサラマが別れ際に渡した金の首飾りを握りしめ、彼は亀裂を開いた仮面の男への報復に燃える。そして男が詠唱の中で言った「北へ」という言葉を頼りに旅立つのだった。




