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21 冴えたヤりかた-2

 サラマは何かを考えるように、頭を抱え顔を背けた。


「……」


 また沈黙。

 わずかな間サラマは表情を隠すようにしていたが、何かを決心したような表情で向き直ると勇一の両肩をその大きな手で掴んだ。


「あ、あのねっ!」


「え?……ごふっ!」


 ガッチリと捕まれ、頭だけそこに置いていかれるかと思うほどの力で押し倒される。

 背中を(したた)かに打ち付け、込み上げたものをなんとか飲み込む。完全に押し倒された形の勇一は、次に腹部への強烈な圧迫を感じた。押し倒したサラマが一瞬で彼に跨がったのだ。


「お……」


 ――女の子に「重い」とは言えない!


 体格差がある以上、勇一が下になるのは仕方がない。だが所謂「そういう経験」がない故に、二人は自分のことで精一杯で互いを気遣う所までは頭が回らない。サラマは全体重を勇一の腹部にかけ、勇一は遠回しにそれを伝える言葉を持っていなかった。

 頭が一杯なサラマは苦しそうな彼の表情に気付かず、口を開け顔を近付けた。開いた口内にズラリと並ぶ鋭い牙が勇一の顔面に接近する。


「……こ」


 ――女の子に「怖い」とも言えない!


 凄まじい力で両肩を押さえられて身動きができず、端から見ればそれはまるで頭から補食されようとしている男子高校生にしかみえない。勇一は思わず目を閉じてしまったのだが、サラマは中々次の行動に移そうとしない。


「ジズさんに聞いたけど……。ユウはここを出ていくんでしょ……?」


「……?」


 耳元でささやく声。

 目を閉じてこの後に何が起きても受け入れる覚悟をしていた勇一は、唐突な質問に拍子抜けする。


「あ、ああ。まあ。そのつもり……だけど。もしかしてみんな知ってる?」


「うん。みんな知ってる」


 別に秘密にしておきたかった訳ではないが、それにしたって広まるの早すぎだろう。それを話した儀式の日から何日も経ってないのに……と、勇一は溜め息をついた。

 サラマは何かを決めかねているのか複雑な表情で目が泳ぎ、そこで話が途切れてしまう。

 少しして、勇一が彼女を傷つけずに退いてもらうにはどうしたら良いか思案し始めたときだった。


「わ、私も!……私も連れていって欲しいの!」


 勇一は彼女が外の世界に興味を持っていることは、普段の会話から知っていた。もしかしたら何か切っ掛けがあれば彼女は旅に出る決心がつくかもしれないとも思っていた。しかし本当に外に出ようと考えていたとは、正直な話勇一も思っていなかった。


「一緒に?ガルクはどうするのさ」


「ガルクは次の長だから……。元々私、ガルクが長になったら旅に出ようって思ってたの」


 最初から外の世界に旅立つつもりだった。それが勇一の登場で少しだけ早まっただけだとサラマは言う。

 そしてどうせなら好きな人と一緒に旅をして、世界を見てみたいと。この村は好きだが、それ以上に自分の世界を広めたいと彼女は言った。


「それなら、ファーラークさんに言わないと」


「もう言ってある。いいよって」


「こ、行動が早いことで……」


 サラマの行動力に思わず舌を巻く。しかしそれならば、彼には断る理由など存在しなかった。

 しかし竜人に比べて明らかに自分は弱い。ついてきてくれるのは嬉しいが、彼女の足手まといにはなりたくなかった。


「その、俺が一緒でいいの?」


「ユウじゃなきゃダメ」


 勇一は自分の口角が吊り上がるのを止められなかった。女の子から「あなたでなければダメ」なんて言われて嬉しくない男なんてほとんどいないだろう。

 結局彼は、二つ返事で了解した。


「じゃあ……、よろしくね」


「うん!じゃあ早速……」


 ――早速?


 勇一の困惑をよそに、サラマはニコニコしながらいそいそと彼の服を脱がしにかかる。

 片手で彼の両手首をまとめて掴み、カギ爪を器用に服に引っ掛けグイと頭の方に引っ張ると、およそ半年に及ぶ竜人たちとの生活ですっかり引き締まった身体が露わになった。


「……ちょちょちょっと待って!なんで!?そんな雰囲気だった!?」


「えー?ジズさんは『男なんて強く当たって、後は流れでヤればいいのさ』って」


「そ、そんなことある訳……っ」


 ない!と言い切れないのが男という生き物の悲しい性だ。事実勇一の下半身は、腹部にサラマという重しが乗っているにもかかわらず、さっきからまるで別人が操作しているようにみなぎっている。

 ああ、まさかこんな雰囲気もへったくれもない状況で自分の初体験が終わるなんて……!と彼が天幕の屋根を見つめた時だった。


「おう居るか?ちょっとお前に話し、が……」


 天幕の外から一言も声を掛けずに入ってきた黒い影。それは自分の要件を言う前に二人の様子を見て固まった。

 さっきまで暑かった気温が急激に氷点下まで落ちていく感覚に、勇一は心臓のあたりが冷たくなるような気がした。


「ね、姉さん何やっ「フン!」……ギャアア!!」


 サラマは咄嗟に勇一の矢筒から一本引き抜くと、ガルクの眉間に向かって投げつけた。

 角度のついた眉間の鱗は元々矢程度は貫通させない硬度があるものの、当たった矢が砕け散る程の衝撃はガルクの脳を揺らし足をふらつかせる。


「ぐお……おお、お前!ね、姉さんをたぶらかしやがったな!?」


「ガルク!この状況見てどうしてそんな結論が出てくるの!?あといきなり入ってこないでよ!」


「姉さんこっちに来い!」


「いや!私はユウと一緒にいるって決めたの!」


 二人が言い合う姿を見るのはいつぶりだろうか……勇一はまるで傍観者のようにこの場を見ていた。こうしてガルクがわざわざ自分の所に来るのも、最初の頃なら考えられなかった事だ。自分も最初はガルクから向けられる敵意に満ちた眼に辟易していたが、最近はそんな感情を向けられることもなくなった……気がする。

 話しかければ答えてくれるし、用事があれば向こうから来る。勇一はいつの間にかガルクの事をそれなりに仲のいい友人と思いつつあった。


 ――そう思うのは流石に迷惑かな。


 そして勇一はいつしか、ガルクに認めてもらいたいという思いを持つようになった。彼は勇敢で、強くて、少し空回りする事があるものの、懸命に自分の役割を果たそうとしている。だがガルクが自分を認めるには、彼自身の何かが邪魔をしているというのも何となく察していた。

 ガルクは彼の母親が言う「考え、理解し、決断する」教えを守ろうとしている。おそらく「決断する」には、彼の矜持というかわだかたまりのようなものが引っかかっているのかもしれない。


「そういえばガルク、俺に用があるって?」


 勇一は立ち上がって衣服を着なおし、ガルクに近づいた。勇一がサラマとの間に割って入ったことに思う所があったのか、ガルクは僅かに動揺した様子を見せると一度咳ばらいをして答えた。


「おう、そうだった。……上野勇一、お前に決闘を申し込む。真剣じゃねぇ木刀だ。準備は十日間。十一日目に村の中央だ。いいな」


「け、決闘!?」


「そうだ。こいつはオレの……頭というか胸というか、とにかくごちゃごちゃした何かを取っ払いたいんだ!そのために、一度お前と白黒つけなきゃならねぇ」


「お、俺と!?」


「思えばお前がここに来た時からごちゃごちゃがあったんだ!お前はよくやってる、それはわかる。だがオレの中の何かがお前を認めるのを邪魔しやがる。だから一度、本気でやりあおうってな!」


 ガルクはガルクなりに考えがあって、その解決方法も彼らしいものだった。いっそ清々しい決闘の申し込みに、何故か勇一は熱くなるものを感じた。ガルクはせめて公平に戦おうと、自分は魔法を使わないと言う。正に己の力同士のぶつけあいで戦おうと。

 正直まともにやりあってガルクに勝つ光景が全く浮かばないが……ガルクの事だ、そこらへんも織り込み済みだろう。


「話はジズさんにしてある。どんな手でも使ってこい。だから姉さん!」


「えっ、えっ?」


「それまで村を出ていくのを待ってくれ。勝っても負けても、スパッと送り出してやるからよ」


 大声で捲し立て終わるとガルクは瞬時にきびすを返し、ドカドカと足音を響かせ帰っていった。

 十日後、ガルクと戦う。

 それはここでの生活に、一区切りをつけるのに最適な行事のように思えた。武者震いのする手を組み、深呼吸する。


「サラマ、俺は大丈夫。やっぱり男は、冷めてちゃあ駄目だよな……」


 解いた手でサラマの手を握ると、返事の代わりにキュッと優しく握り返された。

連続で投稿します

少年漫画みたいな展開は好きです。

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