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16 銀の怨恨ヨル

ガルクの眼に映る火球は、逼迫(ひっぱく) した今の状況に全く不釣り合いなほどにゆっくりと空を進んでいた。月の魔法によって歪められた意志が、滅びを目的に打ち出された悪意。

ガルクは地上を走る。彼の力では、打ち出された後の火球をどうすることもできない。

しかし走る。

そこに留まってしまえば、できたかもしれない「何か」すらできない。


「――クソッ!!」


腕に抱いたアイリーンも忘れて、彼は悪態を漏らす。

月の女神に操られた者たちによって、望まない戦争が始まろうとしているのだ。そこに意志や理由などない。彼はそんな馬鹿げた事態を止めると言った……その気持ちに嘘はない。力が無くとも、やるしかない。

怒りと焦りが彼の頭の中で渦を巻いて、滝のような汗となって噴き出る。岩を蹴り、木々をなぎ倒しながら、平原へと猛然と突入した。直進すれば、そこは両軍がちょうどぶつかり合う場所だ。


「ううっ!」


開けた視界に、絶望が飛び込んできた。


(火球が、もう落下し始めている!)


あれが着弾してしまえば終わりだ。二つの勢力はどちらかが滅びるまで戦う。そうして満身創痍で残った方を、ゴルガリアの引き入れたエルフ族が滅ぼす。

そんなふざけた未来があってたまるか! 土煙を上げ、憤ったガルクの速度は一層増す。


「ガルク! ガルク!!」


自分の名を呼ぶ声に、前にだけ向いていたガルクの意識は声の方へ傾く。彼はようやく、自らの腕に抱いたアイリーンの存在を思い出した。走るたびに激しく揺れるせいで、彼女の銀髪は嵐に荒らされた草原のようになっている。

ガルクの腕から抜け出したアイリーンは軽やかな動作で彼の右肩に乗ると、前方を指さした。


「私を飛ばせ!」


「飛ばしてどうする!」


焦るガルクは怒鳴りつけるように意図を問う。アイリーンはそんな気迫を真っ二つに割るような声で答えた。


「私に考えがある。貴方は全力で走って、止まらずに拳を突き出すんだ! 早く!」


「お、おう」


少女の背丈は竜人族の半分にも満たない。だが金色の眼から迸る殺気とも言える気配はガルクを突き動かした。彼はアイリーンを肩に乗せたまま、再び走り出す。最高速に達した彼が、今度は槍を投げる要領で拳を突き出そうと力を溜めた。

その瞬間、肩に乗っていたアイリーンがふわりと飛ぶ。今まさに突き出されようとしている拳にとりついたのだ。


「やれ!」


「……ぬおおおっ!」


伸びきったガルクの腕が、アイリーンを空高く射出した。矢のような速度を得た彼女が風の魔力を纏うと、その速度はさらに増す。火球が人々を焼くまであと十秒も無い。


「風を!」


纏っていた風の力を拡大し、自分を中心にして大きく丸を描くようにして風を流す。すると風が渦を描き、気流がうねりとなって火球を引いた。 。竜巻が地表へ到達しないように、アイリーンは慎重に風を操る。そうして彼女の狙い通り、気流に釣られた火球がその軌道を変えた。


「う…………おおおおっ!」


強烈な竜巻を上空で制御し、放たれたいくつもの火球を引き寄せる。アイリーンは視線を下に向けた。とりあえず火球が着弾する心配はない。しかし操られた兵士たちの歩みは止まらないのだ。

そこで彼女は、自分を周回する火球を引き寄せ始めた。火球は徐々に互いの距離を縮めて行き、アイリーンの遥か上空で一つになった。

大陸中を探しても、五つの属性を操る魔法使いはアイリーンしかいない。奇跡とは彼女のことを言う。しかしそれでも、彼女の能力は切り替えなければ発動できない。彼女自身それは認識していた。とはいえ、ゴルガリアにたった一度戦っただけで露見した事実は、彼女に重くのしかかっている。


「だめだ…………!」


風を操り、火球を一つにまとめる所まではうまくいった。しかしその先へ行くには彼女の「切り替え」が足かせとなる。このままでは巨大な一つの火球が制御を失い、地表に落下するだろう。


「アイリーン、離れろ!!」


ガルクの咆哮。彼は既にアイリーンの直下まで移動していた。目の前で強力な魔法と、その影響力を見せつけられても、彼の心は落ち着いている。これから彼が成そうとしている事に比べたら、火球が一つになって小さな太陽のようになった程度では驚かない。

上空のアイリーンがやろうとしている事、それに手間取っていることを瞬時に理解した彼は、両手を巨大な火球に向けた。


「ガルク、私は――」


「わかってる!」


ガルクは火球に向かって思い描いた。彼が受け継いだ太陽の魔法――回復の力は、生命力を増幅させて傷を癒すだけではない。本来の状態に戻そうとする「復元する力」を増幅させもする。彼はその力を、上空の火球に向かって放った。巨大な一塊となった火球は一瞬で縮小する。

そして赤々とした光があと少しで空に消えようとした時、彼は太陽の力を解き放った!


「うっ……」


行き場を失っていた火球のエネルギーが、一気に解放される。上空で放たれた凄まじい閃光は赤から白へ、最後に青白く輝いた。


「目をやられるぞ、オレの後ろにいろ」


閃光は平原を覆い、あまねく兵士たちの目に光をさした。爆音は耳をつんざき、衝撃波は全身を震わせた。月の魔法による幻惑が、太陽の力によって生まれた真実に照らされる。平原に展開する全ての兵士たちは正気に戻ったのだ。彼らは互いに顔を合わせ、今の状況に戸惑っている。

地を打つ行進の音が止み、代わりに混乱のどよめきが平原を覆った。そんな気配を感じ取ったガルクとアイリーンは確信した。


「良かった…………」


「ああ…………ああ、やったんだ。オレたちは、やったんだ!」


力を合わせた二人で得た最高の結果に、二人は同時に歓喜した。およそ十万の兵士たちが一人の死者も出さず ……戦争を、回避できたのだ。

しばらくして……二人の身元確認の為の人員が、双方の軍から現れた。彼らは二人が本物であると確認するや、恐る恐る事情を尋ねる。ガルクはこの機会を逃すまいと思った。

彼はアイリーンを大きな手で抱き寄せると、彼女に耳打ちした。


「アイリーン。お前の風の魔法を使って、オレの声をこの平原にいる全員に届けてほしい」


軍の衝突は回避されたとしても、もう一つ問題が残っている。アイリーンは平原の北へ目を移した。平原と丘の境に現れた巨大な亀裂は沈黙を続けている。しかし亀裂の向こう側からは、依然として巨大な目がこちらを覗いているのだ。


「ええ、まだ終わっていないものね」


彼女は亀裂を睨みつけると、再び風を操る。魔力に乗せて声を運ぶのだ。


「聞け! 勇敢なるヴィヴァルニアの勇士たち、そして我らが同胞の同盟軍の戦士たち! オレ…………いや、我は大陸戦争の英雄ファーラーク・フォーナーが息子、ガルク・フォーナーである――」



***



ヴァルカン・ヴォルカニクは同盟軍の先頭で腕を組み、ガルクの声に耳を傾けた。そのすぐ後ろでは、強烈な光と音による前後不覚から復帰したヴァルカン隊の者たちが、声のする方向へぼんやりとした顔を向けている。


――今、我らを謀り、破滅へ導かんとした者どもの術は解けた! 我らが殺し合い、土地、家、家族を血に染める未来は避けられたのだ!


「ヴァルカン様……ありゃあ、本当ですか?」


――この未曾有の危機を避けられたのは、我だけの力ではない。ここにいるヴィヴァルニア()() 、アイリーン・ハウィッツァーの力添えもあっての事。


ヴィヴァルニア軍からどよめきが起こった。アークツルス王亡き今、王位にいるのは妃であるベテルのはずだ。アイリーンの側にいる者たちも、ガルクの言葉に動揺を隠せないでいる。


――平原の全ての勇士たちよ、私がヴィヴァルニア女王アイリーン・ハウィッツァーである。陛下の後を継いだ我が母ベテルは、先ほど崩御された。慕う主を二度も失う皆の辛さは、察するに余りある。私も同じだ。


アイリーンの言葉の後、石のような沈黙が漂う。

大地さえ支えられそうなガルクの力強い声とうってかわり、彼女の声はよく透き通り、聞く者の心に沁みる。今二つの軍は、風に運ばれた二人の声に聞き入っていた。


「ふん」


ヴァルカンは蟲人族の土地でのことを思い出した。出会った時のガルクは、足りない経験と若さゆえの情熱という咬み合わせの悪い要素を抱えて突き進む未熟者だった。その結果、アぺレジーナの死という、望まない結末がもたらされる。放っておけば、彼はそのまま死ぬまであそこにいただろう。

……二人の演説は続いている。


(何故我輩は、あの時声をかけたのだ)


演説を聞きながら、ヴァルカンは考えた。彼は自分ではない全てに興味が無い。極めて自己中心的で、彼は自分が手を下すまでも無いからこの世に人々が繁栄しているのだと本気で思っていた。そんな彼が、何故わざわざアぺレジーナの側からガルクを引き剥がしたのか……何故ユウと言う男の尋問に同席したがったのか。彼は自らに問うた。


――その手に持つ剣は、無意味な戦いに振るわれるべきではない。お前たちの後ろにいる、戦う術を持たない者たちを守るためのものだ!


――今私たちが成すべきは協力し、あの亀裂に対処することでしょう。見て、あの亀裂から覗く禍々しい眼を。あれこそが私たちの敵。共通の、忌むべき亀裂。


ヴァルカンは一瞬、自らの目を疑った。堂々と立つガルクの姿に、かつての戦友が重なったのだ。そうして初めて、自分の感情の一端が理解できた。


「影を追っているのは我輩だったか」


「え?」


「あれは正にファーラークの息子よ。胸の印といい、あの出で立ちといい」


今、世の中が変わろうとしている。このままヴィヴァルニアと同盟が手を組めば、良い方向に大陸は変わるかもしれない。ヴァルカンは、不思議と悪い気はしなかった。


「ヴァルカン様、あいつが来てから変わりましたねぇ」


「……」


「ひっ」


うっかり軽口を叩いた男の背に、つららが突きささったかのような寒気が走る。彼は本能的に頭を覆って地面に這いつくばった。ヴァルカンが彼を見たのはほんの数秒にすぎない。それでも彼の呼吸は止まり、その時間は不自然に長く伸びたように思えた。


「北へ向かえ。先頭を譲るな」


「は……はい」


ヴァルカンは同盟軍が纏う気配を感じ取った。正面にいるヴィヴァルニア軍と事を構えるよりも、いくら殺しても後腐れのないゴブリンどもを相手取った方がずっと良い。そんな考えが同盟軍に広まっている。


(おそらく向こう(ヴィヴァルニア軍)も同じだろう)


ヴィヴァルニア軍と同盟軍で共に亀裂へ対処する。ヴァルカンの考え通りガルクとアイリーンの演説も共闘を呼び掛ける内容だ。話が終わった直後に亀裂へ吶喊するため、北へ向き直ったヴァルカンの背に言葉が響く。

その言葉に、二つの軍は再びどよめいた。


――そして我は誓う。あの亀裂を滅した暁には、我とアイリーン女王は太陽の加護の元、一つとなって導き合うと。大陸は一つとなり、きたる外敵を打ち払うと!


――そう、私は……ちょっと待って。


誰もが息を呑む中、風に乗った声が唐突に軽くなる。 それは文字通り若い男女の初々しさがあふれるやり取りだ。


――アイリーン、この際だからはっきり言っておこう。お前に惚れたんだ。触れたら割れそうな銀髪、全てがお前の視線を欲しがるだろう瞳。お前と見つめ合って(戦って) いた時だけ、この世に二人しかいないようだった。それがたまらなく愛おしい!


――あの、待って。今風の力を切るから……。


――いいやこの際だ、ここにいる全員に聞いてもらう。いいか、打算的な話は一切ない。互いに会って間もないが、既にオレは彼女の虜なんだ。この感情は、三女神にも止められはしないだろう。


――あ、あまり軽々しくそんなこと言わないで。なんて言ったら、いいのかわからなくなる……から。


当然、声は風に乗って平原にいる全員に届けられている。巨大な亀裂を前にしているとは思えない。赤面した女性の表情を誰もが想像した。二人の若人のやり取りに、多くの兵たちの間から笑いが漏れる。

彼らは兵士だ。命令には従うし、そのために剣を振るうことは誇りでもある。しかし大義すらない戦いに、操られるまま戦場に置かれ、本人の意思とは関係なく敵と刺し違えるなど不幸でしかない話だ。

が、先に矛を収めるなど、軍としても面子は立たない。このままでは、双方死ぬまでにらみ合いが続くだろう。

――そこへ現れた僥倖。ヴィヴァルニアの女王と同盟の英雄の息子が夫婦となる……らしいと兵士たちは理解した。そして向かいあう二つの軍と北の巨大な亀裂は、ちょうど三角をなしている。この状況をみて、ほとんどの兵士たちはこう思った。


(相手の軍と事を構えるよりも、共闘して亀裂に対処した方が良いのでは?)


双方の面子を保ちつつ、建前上でも敵対しない。突然現れた新女王と英雄の息子も共闘を呼び掛けている。今この場に、それを否定する者などいなかった。若干の戸惑いを残しつつも、兵士たちは司令官の指示を待つ。現場の雰囲気と一連の報告を受けた双方の司令官も、自軍の方向転換を指示しようとした。

その時だった。


――ガルク、亀裂が!


風に流れてきた新女王の叫びの直後、巨大な氷を砕くような凄まじい破壊音に遮られた。内側から現れた巨大な爪が、穴を広げるようと亀裂を破壊し始めたのだ。同時に、亀裂の向こう側から凄まじい数のゴブリンやコボルト、オークが現れる。後方の兵士には、それが堤に生じた亀裂から溢れる濁流のように見えた。

その巨大な何かが通れるようになるのは時間の問題だ。平原にいる誰もがそう思った。

十万の軍隊を方向転換させるのは容易ではない。そうしている間に亀裂はどんどんと広がっていき、それに比例してあふれ出る魔物どもの量も増えて行く。その数は十万などあっという間に超え、平原を覆う強烈な悪臭と死の気配に兵士たちは表情を強張らせた。そんな緊張が走る兵士たちを尻目に、ヴァルカン隊は意気揚々と最前線へ向かう。

そして遂に、最大の恐怖が亀裂の向こうから現れた。



***



巨大な金の瞳の主が、亀裂の向こうからその姿を現した。全身を銀の鱗に包んだ巨竜だ。山のような巨躯が動くと、それだけで空気が振動する。一度放ったその咆哮は、音というよりも衝撃波だった。

その場にいた全てが、息をのんだ。


「ガルク、あれがヨル?」


「そうだ。『銀の怨恨』ヨル。五人の竜王がどこかに封じたと伝えられていたが……」


銀の怨恨ヨル。その名は様々な種族の伝承に登場し「銀怒竜ヨル 」や「ヨル・アル=シルヴェイン 」とも。いずれも「翼を奪った女神たちに怒り、地上を掃滅しようとしたドラゴン」であると伝えられている。

その封じられていた太古の伝説が、目の前に現れたのだ。


「こんなにデカいとは」


「じゃあ、どうする」


「決まってるだろう」


景色を塗りつぶす巨体を前にして、ガルクとアイリーンは一歩も引かなかった。ここで狼狽れば二人の言葉が無駄になる。歴戦の者たちは内なる怯えを表に出さない。ましてや大陸を一つにしようなどと言ってのける者が、恐怖を表に出してよいわけがない。


「聞け!」


兵たちの表情が引き締まる。


「矛を北に向けよ! あれこそが我らの敵……古に伝わるヨルである! 女神の宿敵たるヨルを、二振りの剣にて討つ!」


東の同盟軍が咆哮する。


「ヴィヴァルニア女王として、亀裂の対処を命じる。 同盟と共闘し、我らの敵を滅しなさい!」


西のヴィヴァルニア軍が一斉に槍を掲げる。

鎧が擦れ、高揚の声がそこかしこから上がる。かくして、共闘が始まった。双方から火球がゴブリンどもへ飛び、焼き尽くす。黒く染まった大地を赤で撫で、死体の焼ける臭いが平原を覆った。

亀裂より現れたものどもに、戦略や作戦などというものはない。ただ圧倒的な物量をもって全てを押しつぶし、喰らうだけである。それだけならば、対亀裂の作戦をもって容易に終わる。

しかし今回は数が違い過ぎる。同盟側が過去に行った掃討戦が成功したのは、入念な準備と徹底的な漸減作戦の結果だ。今回巨大な亀裂から現れたゴブリンどもの数は、同盟軍とヴィヴァルニア軍を合わせた数よりも多い。さらに、ヨルが出現した亀裂からなおもあふれ続けているのだ。圧倒的な物量差は明らかだ。


「見て、ガルク」


「ああ」


「ゴブリンどもは両軍合わせた数よりも多く、ヨルは今にも動き出しそう」


ヨルは咆哮の後に沈黙している。サンブリア大陸の何処から破壊するか、考えてるように見えた。


「だが、誰も怖気づいていない」


「ええ。自分たちが穴を開けたら、奴らは人の営みを全て食い尽くす。ゴブリンどもを前にして、一度引くことはあってはならない」


「だが……全力の火球を打ち込んでも一向に減る気配がねぇ。いくら精強な軍隊とはいえ、このままじゃあ――」


陣の後方には火球の着弾を観測するするために、簡易的な櫓が立てられている。その兵士は、俯瞰した戦場を見て歯噛みした。戦場の殆どを見渡すことができる彼らは、あまりにも圧倒的な物量差をまざまざと見せつけられるのだ。

ゴブリンどもはヨルが現れた巨大な亀裂から溢れるようにして出現している。その勢いたるや、火球が広範囲を燃やしても、あとからやってくるゴブリンどもがその体で消化してしまう程だ。そして焼けた同族の亡骸を踏み越えて、新たに奴らがやってくる。これではいくら撃ち込んだところで…………。

しかし、平原にいる全ての者は諦めない。ゴブリンどもから人々の営みを守る……その気持ちは、種族の垣根を越えて一致していたのだ。

そしてその思いに呼応するように、新たな存在が出現した。


「ガルク!」


自分の影が北へ伸びた事に違和感を覚え、振り返ったガルク。彼は己に目に映った光景に驚愕した。軍を亀裂と挟むようにして、平原の南に巨大な光の柱が現れたのだ。それも一つだけではなく、間隔を置いて五本並んでいる。いずれも雲を貫くほどの大きさだ。


「一体あれは何?」


「あれは……勇一だ」


ガルクはすぐにわかった。丁度中央に存在する柱の根元辺りは、先ほど勇一と別れた場所だ。切り立った崖が見える。


「じゃあ、ユウは……」


「行くな。アイツの行いと、オレたちに託されたものを忘れるな」


ヨルの名を聞いた時、勇一は何か閃いたようだったことをガルクは思い出した。あの光の柱は五つの属性のどれにも当てはまらない。であれば、勇一の女神魔法だろうと合点がいく。

しかし女神魔法は、使用者に代償を払わせる。あの規模ならば、それは勇一の命を終わらせてしまうだろうことは容易に想像がついた。

あの光の下で、友の命が終わってしまうのだ。しかしガルクとアイリーンは涙を堪え、北へ向き直った。二人の胸が内側から焼けるように痛んだ。

銀の怨恨ヨルについては、一章の最後にあります。

「五人の竜王のおはなし」

https://ncode.syosetu.com/n4348fh/27

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