13 頼りないつながり
多分、百年か……それくらい前、戦争があった。発端はよく知らん…、ホラクトの圧政に苦しんだブラキア達が各地で反乱を起こしたとか、確かそんな話だったと思う。
ブラキアとホラクトの戦争は、それ以外の少数部族たちをも巻き込んだ。私たち竜人も例外ではない。多くの敵と戦ったが、所詮多勢に無勢、抵抗するのも限界がある。
だから我々を含む少数の種族達は同盟を組んだ。ブラキアとホラクトの侵攻に抵抗するためには、そうするしかなかったのだ。
その戦争は、後に「大陸戦争」と呼ばれるようになったらしい。
私もこの戦争に参加してな、たくさんのホラクト達を殺した。中央平原の攻防はまさに一進一退でな、もう少し私の到着が遅れていれば……
「あー、親父。昔の話をするのもいいけどさ、要点をだな……」
ああ、すまないね。年を取ると昔が懐かしくてな。まぁ、タバサは後方で看護婦をしていてな、そこで知り合った。お互い、一目惚れだったとおもう。
私は、ことあるごとに彼女の所へ行ってな、彼女も何度も私に手紙をくれた。私が彼女の黒曜石のような輝きをした鱗がすきだと言った次の日など、彼女は全身の鱗を磨いて私に会いに来たこともあった。ははは……
「親父」
んん?
「……いや、いいんだ。続けてくれ」
……ふむ?まあそれで、ある日私はタバサの不思議な力を知った。彼女が傷に手をかざすと、そこがたちまちのうちに治ってしまうのだ。だが戦場でそんな力を持っていると知れれば、当然皆が彼女のもとに向かうだろう。だから彼女はばれないように、最早どうしようもない傷にだけその力を使っていた。
「あ、あの。俺は以前、ジズさんから『傷を癒す魔法なんてない』って聞きましたけど…」
そんなことを言っていたのかジズは…ふうむ、まぁ、まずは最後まで聞いておくれ。
お互い、知れば知るほど燃えた。私は戦争が終わったら、彼女に結婚を申し込むつもりでいた、そのつもりでいた……そしてある夜、見てしまったのだ。彼女が吐血する姿をな。
その時は少量ではあったが、私は居てもたってもいられなくなってな。彼女に事情をきくことにした。
彼女は言った。幼少の頃からいつの間にか使えたこの力は、使った分だけ自分の命を削っていくのだと。
もともと何の魔法も使えなかった自分がこの力を授かったのは、何かをやり遂げなさいと女神様がくれたのでは、と言っていたな。
しかし、戦闘が長引くにつれ徐々に体調を崩していく彼女を私は見ていられなかった。だから私は同じ部隊のジズやドウルを説得し、そして……
軍を抜けた。所謂、脱走兵というやつだな。更に、タバサも連れて行った。いや、誘拐したといった方が正しいか。
愛する人ができたとたん、私は戦うことが怖くなった。何よりも死ぬことを恐れるようになってしまったのだ……
戦場は私の居場所だったはずだ、だが目の前で死んだホラクトを見て「もしかしたらこの兵士にも、愛する人や家族がいたのかもしれない」と考えるようになってしまった。
脱走してからは逃げて逃げて、どこまでも逃げて、そうしてここにたどり着いた。疲れはてた私たちは、この場所を終の住処にしようと決めた。
やがて各地に散らばった、戦いに疲れた竜人たちをここに呼び寄せ、ちょっとした村になった。タバサの状態も安定し…ちょうどその時にサラマ、そのあとにガルクが産まれた。
商人というのは鼻が利くいきものでな、すぐにここをかぎつけて商売を始めたがった。私はここの場所を口外しないことを条件として、取引などを自由にさせたよ。
あるとき、商人の一人が重症を負って村に来た。道中に襲われた彼はもう手の施しようがなく、痛みを和らげる薬草くらいしか役に立つものがなかった。そこに、タバサがやってきて商人を救ったのだ。
「そうだ……、そのブラキアの商人がお袋の話を外で話しやがった、それで病人のブラキアが馬車にたくさん乗ってやってきたんだろう」
……違う。違うぞガルク。
「なら他に何があるってんだよ!」
彼らは、タバサが商人に頼んだのだ。馬車に目貼りして、病人に目隠しをさせて連れてきてくれと。そうしたら、自分が治癒しましょう、と。
「そ、んな……バカな!」
病の治療を受けられない彼らは一縷の望みをかけてやってくる、運んでくる商人に払う輸送のお金だけで精一杯だろうからと、金も受け取らなかった。
そして病人がする目隠しは絶対に取らせなかった、自分の姿を見たらきっと驚きます…タバサはそう言って、病人を治療し続けた。事実末期の彼女は完全に眼が閉じ、立つことすらできなくなった。美しかった黒曜石の輝きをもつ鱗は剥げ落ち、出血が止まらなかった。
「なんで!なんで親父は止めなかったんだよ!」
「ガルク……」
止められなかったのだ。軍から脱走するときに、彼女は私に言った。
「愛する貴方の勝手に、私は付き合います。だから、私の勝手を止めないで下さいね」
とな。
「だからって……!」
タバサはやると言ったら必ずやり抜く人だった。だから、みずからの力を人々に役立てようと軍に入った。私がそれを邪魔してしまったから……、止める権利などない。
タバサは強い人だった。病人やけが人を治療し、お前たちも育てた。私は戦い方と狩りの方法を教えた。タバサは知識を教えただろう。とても寿命幾ばくも無い女性とは思えなかった。
タバサは、大切な三つのことをちゃんとお前たちに教えたと言っていたぞ。それはなんだった?言ってみろ
「『考えなさい』」
「……『理解しなさい』」
「「『決断しなさい』」」
知らないものや人に対しては常にそうであれ、というのがタバサの教えだったはずだ。勇一君が来てからサラマはともかく…ガルク
「……」
何も考えずに相手を責めて、自分の態度も決めかねて、相手の身の上を無視していないか?
「……」
まぁ、今話す事じゃなかったな。
お前が見られなかったタバサの最期、それは多分どうしてもお前に伝えたかったことのはずだ。強い思いが勇一君に夢を見せたのか。それとも彼を通してお前に伝えたか…それはわからん。だがそれを聞いた以上、お前は自分なりに『理解』し『決断』しなければならんな。
「……誰も憎むな、か。たしかにそれは俺に向けた言葉だと思う。だけど、今まで憎んできた相手を憎むな、なんて……そう簡単には…………
……クソッ、もう少し……考えさせてくれ」
時間はたくさんある。ガルク……『考えなさい』
……さて、勇一君。治癒の力なんだがね……実をいうとな、私も彼女と出会うまでは存在すら知らなかった。本来、この世界の魔法は火-水-土-風-木の五属性による「精霊魔法」から成り立っているはずだ。だが彼女の力はそのどれにも当てはまらない。
そこで商人たちに依頼して情報を集めさせた。すると「精霊魔法」とは違う「女神魔法」というものがこの世に存在することを知ったのだ。だが「女神魔法」がどういった魔法なのかは遂にわからんかった。
聞くところによると、この力は遥か昔から数えるほどしか世に出ておらん。それもうわさ程度で、いづれもタバサの力と「女神魔法」なるものを結ぶ決定的なものはなかった。
仮に、使うほどに寿命を縮める魔法が「女神魔法」なのだとしたら……そんなもの、私は認めない。自分を犠牲にする魔法など……。
だがもしそうなら……勇一君、君の言葉の力がもしその女神魔法の力の一旦なのだとしたら、君は誰かと話すたびに寿命を縮めていくことになる。
「そ、そんな無茶苦茶な……」
そう、無茶苦茶だ。しかし君はここにきて少し経つが、体の不調や老けていく様子は見えない……悪夢はあったがね、逆に言えばその程度だ。だからおそらく女神魔法ではない。
だがそうするとその力は誰が?古代ドラゴン語まで理解する言葉の力を君に与えたのは一体誰なのだ……?
ジズは、君には何か強大な力があるといっていた。彼女は眼帯をしているだろう?それをしている方の眼に意識を集中すると、何となく相手の魔力が身を包む影のように見えるんだと。今まで見たことのない強い魔力を君に見たようだ。
力の中身はわからないが、な。
……私が知っていることはこれくらいだ。私は、タバサの力と君の境遇に何か……つながりがあるような気がしてならんのだ。
もっともそれは、どちらも不思議な力だという、吹けば飛ぶようなつながりだがな……。
***
ファーラークを墓前に残し、三人は森を出た。
結局、自分の不思議な力が何なのかはわからないままだったが……「女神魔法」という言葉を彼は知った。ファーラークが言うところの「強大な力」が自分にあるというなら、それを調べるための足掛かりとなるだろう。
勇一は、一つ外の世界に出る理由ができた……と思った。
村への帰り道ふと空を見やると、村の方角に上空から白く光る糸のようなものが垂れ下がっているのを見つけた。それはジグザグに折れ曲がりながら木々の中に降りており、大きさがわからないので距離もわからなかったが、勇一は何となく嫌な感じがした。「何が」ではなく、とにかく嫌なのだ。
「なあ……二人とも」
「なに?ユウ」
「あれ、なんだろう」
勇一が指さした先にサラマとガルクも視線をうつす。光る糸を認めると二人の表情がこわばる。その場の空気が張り詰めるのとドウルの声が聞こえたのはほぼ同時だった。
「いた!おぉい!三人とも!」
「ドウルさん!キレツが!」
「ああ!それを知らせに来たんだ!ジズはもう何人か連れて向かった!」
「姉さん!」
「ガルク、私たちも行こう!……ドウルさんはこのまま父さまの所に!」
「ああ!」
「ユウ!」
「え?あ、ああ」
三人がとにかく焦っていた様子だったので、邪魔しないように声を掛けないでおいたのだが……突然の指名になんとも間抜けな声で答えてしまう。
「ユウは村に戻って。安全なところにいて!」
勝手に進む話に追いつけず、返事ができない勇一。サラマたちは彼の返事を待たずに村の方へと駆け出す。我に返り、悪いとは思いながらもサラマを呼び止めてしまった。
「ちょっ、ちょっと待ってくれサラマ!いきなりなんだよ!あの光る糸がどうしたのさ!」
サラマは足を止め、振り返ってまっすぐに勇一の眼を見る。ガルクはひとり土煙をあげながら、凄まじい速さで村に走って行ってしまった。
「ユウ、あれは糸じゃない……ひびなの。あれが地上に届くと、ひびは亀裂となる。亀裂ができると……出てくるのよ、やつらが」
「やつら……?」
「ええ……小鬼共が」
読んでいただき、ありがとうございます
新しい単語が出てくるとワクワクするのは私だけでしょうか?
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