第陸ノ巻「再び聞こえるあの綺麗な声…」
「……なぁ、お前輝夜姫に言われた物持ってこれたか?」
「……いや、持ってこようとしても、いつもその持ち主にコテンパンにやられちまう……。」
「……私もだ……。」
「……我も我も。」
「……吾輩も吾輩も。」
「……だがな、俺は諦めねー。絶対に輝夜姫を、俺の嫁にして見せる……!」
「ふっ……私だって負けないさ……。……と、博麗神社が見えてきたぞ。」
「おーい輝夜様ー!あなたに言われたものは持ってこれなかったけど、俺やっぱりあなたのことが…。」
「ちょ、ちょっと待て!…誰かいないか…?」
「輝夜姫、僕と結婚してください…。」
「おい見ろ!あいつ輝夜姫に言われた物全部持って来てるぞ!」
「何?!…だったらもう、俺たちに勝ち目はないな…。」
「そうだな…。諦めて帰るか…。」
「………。」
「…みんな帰って言った…。どうやら上手く言ったみたいね!」
「よかった〜。でも、こんなあっさり行くとは思ってなかった(笑)」
「本当にありがとうございます!」
「いいのよ。あなたを失うわけにはいかないもの。だってあなたはもう家族なんだから!」
最初会った時の霊夢はあんなに奇妙そうな顔をしていたのに、今となっては凄く仲良くなっている。それはいいことなんだが、いいことだからこそ、真実を伝えることを躊躇ってしまう…。
「ねぇ、また誰か来たわよ。」
それは突然やってきた。その男は鳥居から僕たちのところまで一直線にやってきて、そしてこう言った。
「その娘、わしの嫁にしてやろう。」
その男は、人里で一番の権力を持った、50代くらいの大男だった。
「はぁ?何言ってんのよ。あんたみたいな偉そうな奴に輝夜は渡さないわ。さっきしつこい男どもを追っ払ったばっかだって言うのに、また面倒なことさせないでよね。」
「ふんっ!お前の意見は聞いておらん!ひっこんだいろ!」
その言葉とともに、鈍い音が響き渡った。霊夢が殴られたのだ…。幻想郷の平和を守っている博麗の巫女を怯ませるほどの力を、この男は持っていたのだ。そしてその男は輝夜の腕を掴み、強引に連れて行こうとしていた。
「やめろ…。」
こんな自分勝手なやり方は、絶対に許さない…。
そして、聞こえたんだ…。
「助けて…!」
自分が唯一覚えてる記憶、あの綺麗な声を…。その瞬間、自分の中にある力が、覚醒した…!
「やめろ…!輝夜を離せ…!貴様のような男に渡すわけにはいかないのだ…!」
「何だ様子が変わったな…。さっきまでビクビク怯えていたガキに何がで…。」
少年が手をかざす。すると輝夜が引き寄せられるようにこちらにやってくる。
「な、お前何をした…?」
男がそう言い終わる頃には、もう少年は彼の目の前にいた。そして…。
「今すぐ帰れ…。もう2度と我の目の前に現れるな…。」
そう少年が言うと、男は何かに操られたかのようにフラフラと神社から去っていった…。
「さっきはありがとう。」
「いや、自分でも何が何だか訳わかんなくてね…。」
夜、眠れずに外に立っていた僕に、霊夢が話しかけてきた。
「眠れないの?」
「ちょっと、引っかかることがあって…。」
「何?」
「輝夜があの男に連れ去られそうになった時、輝夜が"助けて"って言ったんだ…。それを聞いて力が覚醒したんだけど…。」
「助けて欲しかったから助けてって言ったんじゃないの?」
「僕ここに来る前、"助けて"って言葉が聞こえたんだ。僕はそれに"助けてやる"って答えた。それで気づいたらここにいたんだ。それが唯一覚えてる記憶で、その時の声がさっきの輝夜の声と全く同じだったんだ…。」
「…また不思議なもあるものね…。でも、結局助けられたんだったら、もう解決したんじゃないの?」
「いや、"あれ"じゃない気がする…。これから、もっと大変な、何かが起こる気がする…。」
「何よそれ。…まぁ、この幻想郷に危害をもたらすような奴がいれば、私が許さないわ。」
「ははっ、それは随分と心強いな。まぁ、あくまで僕の想像に過ぎないから、あまり気にしないでくれ。」
「えぇ、分かったわ。」
「…あと、一つ言わなきゃいけないことがあって…。物語の中ではかぐや姫は天界の人間で、いづれ月に帰ってしまうんだ…。そして、僕たちと一緒にいる輝夜も、月の世界の人間で、月に帰ってしまう…。最近、霊夢輝夜とすごく仲が良くて、最初は言うのを躊躇ってたんだけど…。」
「いえ、ありがとう言ってくれて…。…そうか、寂しくなるわね…。」
「うん…。」
「…もう寝ましょうか…。」
「…うん、おやすみ…。」
「おやすみなさい…。」
そうして僕らは眠りについた。輝夜の記憶が戻る時が、刻一刻と迫っていた…。




