負けヒロインの恋は実らない
「べっ別にアンタの事好きな訳じゃないからね!」
いつも通りの彼女だ。腰に手を当て上から目線で身長差から見上げる形になって、指をビシッと相手に刺す。最高に可愛いポイントなのが、目がウルウル濡れてきている所だが、理解者は居なくて僕は寂しい。
「そっそれならそれっぽい事言うなよ!」
相手方も慣れていないのか、顔が赤く染まっている。男はどうでもいいっちゃどうでもいいが、観察することは大切だろう。
ほぼほぼ惚れた感じだろう。腹立たしいがな。
中肉中背、細身に見えて筋張った身体、細マッチョと形容されるオーソドックス主人公ボディにそこそこな顔。僕は彼のことを熱血系ハーレム主人公と呼ぼう。
「アンタから!変なこと言ってきたんじゃない!
まぁアンタが私のこと好きなら別に私は別にい」
「どうした?後半聞きづらいんだけど?」
上方修正、熱血系鈍感ハーレム主人公だった。僕なら絶対に今のは聞き逃さない。モニョモニョしやすい彼女ために毎日の耳掃除は欠かさずやっている。イヤホンヘッドホンの使用も極力控えている。
僕ならレッツゴーベットゴーだ!クソ野郎!
ふぅ、一旦落ち着け。どうせ真っ赤になっている彼女を見て心を落ち着かせないと。
精神安定剤だなぁ彼女は。血が上っていた頭が瞬間クールになっていく感じ、どんな精神安定剤よりも優れているそんな存在。
単純無欠な可愛さ。最強だろう。
「べっ別に何でもない!私もう帰るから!」
何で毎回一回どもるんですかね?真面目に可愛すぎません?
見てみんな!アレがヒロインちゃんだ!最高!
「もう暗くなったから送ってくよ。
今日はなんかごめんな。」
そんな道理は通らないぞ。甘えるな。お前が決めないのが悪い。彼女を送っていけるのは僕だけだ。
そこに入ってきたら殺してやる。絶対に許さない!
「わっ私友達待たせてるから!大丈夫。
私もなんか怒っちゃってごめんね。またね!」
ぐぅ、彼女から友達って呼ばれた!!最高!お前との関係と違って僕との関係は名前があるんだぞ!友情最高!
でも彼女笑顔見れるなんて許されない。ちょっと不幸にしてやらねばならない。道理はある。
さて、教室でヒマしてる感じを出さねば。
教室で今日の日記を書き留めていると、ぴょこぴょこと彼女ツインテールがドアの陰で揺れているのが見えた。驚かせる気が満々なんだろうか。可愛らしい。やけに大きいツインテールだから隠密には向いてはいない。分かりやすい。可愛い。
グドンよろしく彼女をここでムシャムシャ食べるのも手だがそれをしたら人を辞めねばならない。まだ、彼女と喋っていたい。忍耐力は有象無象の者どもと違い鍛えている。大丈夫だ。
我慢が大切だ。
ここでため息をつき、退屈そうにして彼女を申し訳なくするのも一つの手だろうか。彼女の困り顔は被虐心をそそり最高なのだが少しの間、口を聞いてもらえなくなる。非常に辛いが!
んー悩ましい!
そうこうしていると彼女は近くに来ていた。
「ゆーちゃん、遅くなってごめんね。帰ろっか」
ゆーちゃん!供給過多で殺す気か?美少女過剰摂取でアレルギーになってしまうよ!最高かよ!
「僕は全然大丈夫だよ。大丈夫だった?」
「何もなかったよ、うん、ほんと何もなかった」
あーしぇい!嘘吐いたからかちょっと辛そうにしているの本当可愛いとしか言いようがない。言葉が足りない!!彼女の可愛らしさを讃える言葉が足りない世界が憎い!
それ以上に頭が足りない自分が憎いぞ!!
「そう?なんかあったって顔に書いてあるよ?」
意地悪を吐くな!お前は悪魔か!ほら見ろ!彼女の顔真っ赤になってんぞ!謝れ!Sな僕は要らないんだぞ!
「なっ何もなかったよ。本当に。ほんとだから!」
あーしぇい!可愛い。そのルート大正解!
イグザクトリー!!僕にツンを見せるのはやばい。アレがアレしてアレだから!ヤッベェ。
全てが組み合わさり最高の存在に昇華された。
元から最高だったわ。神の上って何?ヤバイ神?
「この話終わり!帰ろっ」
クルリと身を回し彼女の頭から甘い匂いが振りまかれ、まるで絵画の一枚のような、夕暮れに煌めく彼女の全てはここで切り取って永遠に保存したい程だ。
そんな、彼女だけのアルバムを作り上げたいと何度も何度も考えた。
一瞬一瞬で変わっていく彼女は僕の手の中にだけ存在してほしいと何度も何度も考えた。
何度も何度も考えたんだ。
それでも、
「うん、帰ろっか。忘れ物ないかい?」
それでも彼女は僕のモノには絶対にならない。何度愛を伝えようと、どんな素晴らしい言葉で告白しようとも、この心中をさらけ出したとしても彼女は絶対に僕の愛を受け入れてはくれない
こんなにも美しいヒロインは僕のモノではない。
僕は主人公ではないから?
何度世界を憎んだことか、
何度常識を恨んだことか、
何度人間を嫌ったことか、
何度自分を殺そうとしたことか、
何度彼女を殺しそうになったか。
「大丈夫!早く帰ろ!雨降りそう!」
このヒロインには手が届かない。
それでも僕はヒロインを愛し続けるだろう。
どうせこの残念なヒロインちゃんは、この先ずうっと負け続ける。そんな卑屈な考えは絶対に曲げない。曲げなくていい道理はある。あってもいいよな。
だから僕は彼女を愛し続けられるだろう。
「待ってくれ!今いくよ!」
だから僕は永遠にこの心は、君には見せない。