1-6 歓迎される不幸少年
「さ、これで全員揃いましたね!
フジくん、改めてようこそ幸福部へ!
わたしたちはあなたを歓迎します!」
タカミは大勢の前で演説をするような動きと、大きな声でフジに伝えた。
言葉のあとにフジは大きな拍手に包まれた。
(ホントに手厚い歓迎をされたよ……)
そう思いながら乾いた笑いをしながら、フジはそう思った。
「みんな幸福部の部員なんだよね?」
「そうですよ!」
「同じ部活なのにみんな違うことをしてるみたいだ」
タカミは風水、ナスナがアロマ、センが宗教、ケントが手相。
同じ部活とは思えないほど分野が違っている。
ポジションやフォームなどに違いはあっても、基本的にひとつの目標に向かっているものだとフジは思っていた。
「この部活は、幸せになれる方法をそれぞれ模索、研究する部活なんです!
週に一回、成果や研究を発表する時間を設けてるだけで、それ以外は基本自由行動ですね!」
この部の目標というのは『幸せになる』ということであり、そのための方法は各自好きに模索できる。
自由度が高い部活なのだとフジは解釈して軽く頷く。
「今日はその成果報告もあるんですが、フジくんに紹介したくて集まってもらいました!」
タカミがそういうと皆笑顔でフジを見つめる。
「なんか僕のために、ごめんなさい」
「なんで謝るんですか?」
「だって、みんなそれぞれしたいことがあるんでしょう?
それなのに部活に入るかどうかも分からない僕のために時間を使っちゃって」
「いいんですよ!
人生に無駄な時間はありません!」
「わたくしはぁ、こうしてお話をしにきてくださっただけでも、十分ですよぉ」
「――それに勧誘は……大切」
「俺は手相を見せてもらった。むしろ来てくれたことに感謝しているよっ」
タカミ、ナスナ、セン、ケントが口々に優しい声で言う。
自分なんかのために時間を惜しまないだけでなく、それを無駄ではなく必要なことだと言い切れる。
そんな幸福部の部員たちがすごい。
そのことにフジは心打たれるような感覚がして、むず痒い気分を味わっているような顔になる。
「どうですか? わたしたちと一緒に幸せになれる方法を探しませんか!?」
「でも僕と一緒にいると不幸になるかもしれないよ」
フジは今までそう思って友達を作らないようにしてきた。
自分は周りから見てもあからさまに不幸に見えるだろう。
そんな人間に近寄ったら不幸になる。
自分は貧乏神のような存在だとフジは自身を認識していた。
「大丈夫ですよ! むしろわたしたちが幸せにしてみせます!」
タカミはとても強さと自信を感じる声で言いながら、その大きな胸を叩いた。
だがフジにはその根拠が全く分からないので、すぐに返事を出来ず眉をひそめたままだ。
「それに不幸の原因も分かるかもしれませんよぉ?」
「――私の宗教も勧めたい」
「俺の手相占いで、幸せにしてやることもできる。ぜひ部に入ってほしいっ」
ナスナ、セン、ケントがずいずいと距離を詰めてくる。
三人とも『ぜひともほしい人材だ』と言わんばかりのスカウトのような目をしていた。
「あ、えっと」
フジとしては、どうして自分なんかを幸福部に入部させたいのかが分からない。
手相、匂い、宗教と自分とはまったく関わりのなかった分野の人間たちだ。
他人に誇れるような特技もなければ、異性にモテる要素もない、もちろん自信があるわけがない。
首を引いてどうしようか考えていると、
「まあまあ皆さん、フジくんも考える時間が必要ですよ!
他に入りたい部活があるかもしれないですし」
「いや、ないけど」
「わたしたちの学校は帰宅部も認められてます!
ですから、ここはフジくんの考えを尊重したいです!」
そう言ってタカミは自由を許す女神のように笑った。
「タカミさんの言うとおりですわぁ」
「――神を信じるか否かは……個人の考え」
「そうだね。失礼したよっ」
ナスナ、セン、ケントもタカミという女神の声を聞いて、口々に肯定する。
どうして自分の分野に一直線な三人を、タカミは簡単にまとめられるのだろうと疑問にも感じた。
だがそれ以上にどうしてタカミはこんなに自分に優しいのか疑問だった。
自分にはひとに注目されるような価値はない。
だからこんなにも幸福部に必要とされている理由が分からず、フジは恐怖にも近い感情をいだき始めた。
「き、今日はこれで失礼するよ……。
あまり遅いとお母さんたちが、またなにかあったんじゃないかって心配するし」
「はい! 分かりました。わたしたちはいつでも歓迎ですからね」
逃げるように部室を出るが、それでも幸福部の部員たちは笑っていた。