5-4 今日の報告会とその帰り
日が傾いてきた頃、一行は喫茶店へと入った。
タカミとナスナはフラッペを、ケントとセンは珈琲を、フジはジュースを頼む。
タカミがクーポンアプリとスタンプを使っていたあたり、常連なのだろうとフジは考えてながら席へとつく。
「今日の幸せ報告をしましょう!」
「えっ!? また成果報告会?」
「今日の報告ですよ!
フジくん、今日はいいことありましたか!?」
「う~ん、分からない」
今日起こったとと言えば、転けそうになったところをタカミに助けてもらった。
自分の服を皆が選んでくれることになった。そうしたら女装させられた。
皆の着せ替え人形になってしまったことは不幸ではないにしても、幸福とも言えないだろう。
フジはマゾではないと自覚している。
「なんでもいいんですよ!
ひとによってはくだらないと言われてしまう発見や出来事だって、自身にとっては大きなことなんです!
わたしなんて昨日好きなお菓子が安売りしてて、これをたくさん買うことができたんです。
これくらいでもいいんです!」
「う~ん」
そうなると一番は、タカミに転びそうになったところを助けてもらったということになる。
だがこのトラブルは、自分の体が小さくて軽いことがより分かってしまったトラブルであり、やはり幸福とはいいがたい。
「じゃあ皆さんの報告を聞いてからにしましょう!
ナスナちゃんから!」
「わたしはぁ、フジくんに合いそうな良い香水を見つけちゃいましたぁ。
男性用の香水もなかなかいいなって思いましたよぉ」
「素敵な発見ですね! センさんは?」
「――新たな世界を見つけた。
これは神からの新たな試練……。
わたしの成長には欠かせないと神は言っている……」
「試練がんばってください!
きっと神様のセンさんの成長を望んでいます!
次はケントくん、お願いします!」
「今の研究が少し煮詰まっていてねっ。
今日は目の保養に――もといいい気分転換になったよっ」
「それはよかったです! 研究がんばってくださいね!」
(目の保養って……いやまさかね)
「では改めてフジくんの報告を聞かせてください!」
フジがケントの言葉に引っかかりを覚えていると、再度発表の順番がフジに回ってきた。
皆は部室での報告会のような下準備の居ることは話していない。
本当に些細なことを、良かったこと、幸せだったこととして発表した。
歩けば見えない棒に当たり、それに釣り合ういいことなんてなにも起こらないと思っている。
そんなフジにとっては些細でも良いことがあるというのは幸せに見えた。
そこで思った。なにも起こらなかったといういいことがある。
「えっと、今日折り畳み傘を持ってくるのを忘れたのに一日晴れだった……でいいかな」
今日は慌てて家を出たため、折り畳み傘を忘れていたのに今気がついた。
そんな日に限って天気予報も見忘れており、雨に当てられることが多い。
今日一日幸福部と一緒に行動していたせいか、雨は降らなかった。
だがそんなことはみんな当たり前。
天気予報で折り畳み傘が必要と言われない限りはみんな持ち歩かない道具のはず。
それを幸運なこと、良かったこととして発表するのは、いい笑いものにされるかもしれない。
フジはそこに気がついてからうつむいた。
「素敵です!
備えあれば憂いなしと言いますが、備えをしなくてもなにもないことに越したことはありません!」
「いいの?」
「いいですよ! フジくんにとっての幸せは、フジくんの幸せです!」
皆が頷く。
「最後にわたしの幸せ報告です!
今日、みんなが楽しそうに、怪我もなく休日の活動を終えることができたことがなによりの幸せです!
以上で第七回幸福部幸せ探し探検を終わります。お疲れ様でした!」
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報告会が終わり、解散したころにはすっかり影が伸びていた。
車通りの少ない道を、フジとタカミは日が傾く方向へと影を並べて歩いている。
「フジくん元気そうですね!」
タカミの言うとおりだ。フジの足取りは軽く、こんな気分で道を歩くのは初めてだとすら思っている。
「たくさんの友達と一緒に遊んだからかも。こんな休日を過ごしたのは初めてだし」
「それはよかったです!
でも、それを報告会で言っていくれてもよかったんですよ!」
「……そうかもね」
まだまだ人前で喋ること離れそうにない。そう思ってフジは涼しい顔で笑った。
「どうですか?
幸せになれそうですか?」
「ん~、まだちょっと分からないな……。
楽しいことは楽しいけど、これを幸せにするかどうかは分からないし。
未だにタカミさんといないときはトラブルばかりだし」
「でもフジくんは、なにがあってもひとのせいにしないじゃないですか!」
「不幸は僕のせいだからね」
「そんな優しくて素敵なフジくんが、幸せになれないはずないんですよ!」
(素敵……)
最上級の褒め言葉を使われ、フジの顔は夕日と同じように赤くなってく。
そのまま歩いていくと絵に描いたような古びた家があった。
地震が起こったら倒壊間違いなしということがフジにも感じられる木造の平屋。
フジはあまりにも目立つこの家を道を覚える目印に使っていた。
その前でタカミが足を止めた。
「タカミさん?」
見たことのない表情だった。
いつもの幸せオーラは全く感じさせない硬い顔。
金運の高そうな黄色い目も、汚れで濁ってしまったようだ。
もしこの表情ですれ違ってもタカミだと分からないかもしれない。
それほど別人の顔のようだとフジは感じた。
「なにかあったの?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと今日が楽しすぎて、終わっちゃうのが惜しいなぁって!」
タカミは慌てて笑顔を作り、フジに返事をした。
「そう……僕はしばらく服屋さんはいいかな」
「わたしはいいと思いましたよ? また見てみたいです!」
子供が親に強請るような表情でタカミはフジを見つめる。
「いくらタカミさんのお願いでも、遠慮したい、かな」
タカミは歩きだして曲がり角でくるりと体を回して、
「では、わたしはこっちなので」
夕日よりも眩しい笑顔をフジに見せた。
「うん、今日はありがとね」
「こちらこそ、ありがとうございます! ではまた学校で!」
「また……」
分かれ道で元気に手を振るタカミに、フジは名残惜しさを感じながら手を降った。
(あれ、タカミさん今日こっちから来たっけ?)
そう思っているとパラパラと空から水滴が振ってくる。
「あ、雨だ……」
空を見ると、夕日に照らされた真っ赤な空ではなくなっていた。
灰色の空と黒い雲がそらを包み込み、冷たい水を容赦なく降らしてくる。
フジは本降りになる前にと思い走り出す。
だが雨は容赦なく降り注ぎ、その勢いを増していく。
「やっぱり不幸だああああ!」
その声は雨音にかき消されていった。




