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「ゆうくん、私先に寝てるよ。」
「うん、わかった。」
姉はさっきまでテレビを見ていたがどうやら眠たくなったようだ。ふと時計に目をやればすでに11時をまわっていた。
「おやすみ、姉ちゃん。」
「ええ、おやすみなさい。…ゆうくん、さっきから熱心そうに画面見てるけど、何をしているの?」
「んと、調べもの。」
「ふ~ん。」
ところで、姉は重度の機械音痴だ。だから、リビングでパソコンをいじっていても何も言ってこない。しかし、しびれを切らすと時々こうやって尋ねてくる。姉のかまってほしいサインだ。僕はキーボードを打ちながらそっと、隣に座っている姉を見る。すると、姉はうずうずと両手を重ねて膝においていた。
「姉ちゃん、今週の日曜日にさ、どっか一緒に出掛けよう?」
「えっ?」
突然の提案に驚いたようだ。久しく二人で出かけてなかったから、申し訳なく思って誘ってみた。
「一緒にって、わたしと?」
「うん、」
「ってことは、ゆうくんとデート?」
「んー、姉ちゃん、お出掛けかな。」
「ふふ、私はどっちでもウェルカムよ♪」
「それならよかった。じゃあ、明日どこ行くか決めよう、もう遅いし。」
「ふふっ、そうね。じゃあ、ゆうくんおやすみなさい。」
「うん、おやすみ。」
姉は嬉しそうに歌を口ずさみながら彼女の部屋へ向かっていた。
しばらくして、家の中で僕がキーワードを打つ音しか聞こえなくなった。そのことを確認すると、僕はおもむろにある人に電話を掛けた。
「…もしもし。」
「もしもし、水野です。夜分遅くにすみません。」
「やあ水野君、心配しなくて大丈夫だよ。俺夜行性だし、…それはそうとしてさっきよこしてくれた件だよな?」
「はい、そうです。」
「俺もさっき君がくれた情報を見て驚いたよ。」
「はい、…それで計画は示した通りでよいでしょうか?」
「おお、いいよ。時間になったら俺たちも現場で君の指示があるまで待機しているよ。」
「ありがとうございます。」
「こちらこそ、それにこの状況では俺たちが動くのも当然だしな。じゃあ、俺たちも準備を進めるから失礼するよ。」
「はい、では失礼します。」
そう言って電話を切ると、再びソワァにゆったりともたれかかる。…何としても、ふたりを助けなくては…僕は姉に淹れてもらっていた飲みかけのココアをグイッと飲み干した。