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「ゆうくん、先にお風呂入っちゃうね。」
姉が対面キッチンのリビング側から乗り出すようにして言った。
「うん、いいよ。」
僕は夕食に使った茶碗を洗いながら言った。
「姉ちゃん、ゆっくり入ってても大丈夫だからね。」
「はーい、…でも、それってつまりお姉ちゃんと一緒に入りたいってことなのかな?」
姉がからかってきたから僕はなんでそうなるの?という表情を浮かべて無言で答える。
「お姉ちゃんが一人で入るの怖いって言ったら?」
「入りません。」
「ゆうくんが小さいときは一緒にお風呂入ってくれたのに?」
「入りません。」
「もう、ゆうくんったらつれないんだから。」
姉は顔をぷくっと膨らませるとしぶしぶお風呂に入っていった――と思ったら、今度はキッチンを覗くように姉がひょいと正面下から顔を出してきた。
「ゆうくん…怒ってる?」
「ん、おこってないよ。」
「ふふっ♪よかった。」
姉はそういうと浴室の方へ向かっていった。
皿洗いが終わってリビングのソワァに腰をかっけると、ちょうど机にある僕の通話機が鳴った。見ると非通知となっていたので僕は少し不審に思いつつ手に取る。
「もしもし、」
「こんばんは、水野祐クン。」
少し低めの男の声だったが、聞き覚えはなかった。
「こんばんは、えっと、どちら様でしょう?」
僕の名前を知っていることに違和感を感じた。
「ああ、失敬。申し遅れました。私はヤバシラというものです。」
「…ご用件は?」
「ああ、では、いったん画面を見てください。」
「?」
男の言う通り通話機の画面を見るとそこにはライブ動画が映っている。…そこには、同じ高校の制服を着たふたりの――!?いや、八代さんの友達の豊川さんと平瀬さんが縄で縛られて拘束されていた。ふたりは怯えた様子でうっすらと涙を浮かべてこちらを見つめている。
「…このふたりは?」
「ああ、今日の爆破の際に連れ去ったのですよ。」
「なぜ、こんなことをした?」
「今はお答えはできません、ただこのままでは彼女達はどうなるのでしょうかね?」
「…要求はなんだ。」
「話が早くて助かるよ。では、要求を言う。それは君の能力だ。」
「――っ!?」
「では、明日の早朝3時に東古桐4丁目の廃工場で待っている。緑色の屋根が目印だ。それと、他に誰かを連れてこないように、連れてきたらここにいる二人を殺す。」
「…分かった。誰も連れてこない。」
「よろしい。では待っている。」
男が電話を切った。僕は通話機をテーブルに置きソワァにドサッともたれる。時計に目をやると9時をまわっていた。