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帰りの途中で起きた爆破事件の後、圭の指示で僕たち3人は現場から離れて鳥谷親水公園に避難していた。この公園は高校周辺の避難場所に指定されており、公民館や警察署が隣接している。警察署からは職員やパトカーが忙しなく出入りしており、今回の事件の深刻さを物語っている。爆破現場の方角からは相変わらず黒煙が空高く覆っている。しばらくはこの状況が続くのだろうか…。
圭と八代さんは皆の無事を確認して少し安堵している様子だった。
「水野君と浜坂君も無事で、本当に良かった…。」
八代さんはうつむき気味にそう呟いた。よほど怖かったのだろう。彼女の瞳は涙ぐんでおり身体が少し震えている。僕と圭は彼女の座っているベンチの両側にそれぞれ座った。そして、かえって彼女が気を遣わないように落ち着くまでそっと見守った。
しばらく時間がたって、避難してきた大勢の人で公園が賑わってきた。彼女も落ち着きを取り戻したようだ。いつものようなはつらつとした明るさはないが表情が幾分柔らかくなった。
「――水野君、ありがと。…そばにいてくれて。」
八代さんは少しだけ俯きながら言った。
「こちらこそ、八代さんが無事でよかった。」
「うん、あの時ふたりが冷静に指示をしてくれたからだよ。」
ふと、肌寒い風が二人にふれる。もう4月の半ばとはいえ、まだ日が傾き始めると気温が下がってくる。
「とよっちと、なぎさちゃん大丈夫だったかな…。」
彼女の目線の先をたどると、何事もなかったかのように小さな子供たちが遊具で遊んでいる。《とっよち》とは豊川恵さんのことで《なぎさちゃん》とは平瀬渚さんのことだ。二人とも同じクラスメイトで彼女の友達である。
「豊川さんと平瀬さんなら無事じゃないかな、メールは繋がらないの?」
「うん、繋がらないの。でも水野君の言う通りあのふたりならきっと大丈夫だよね、…きっと。」
八代さんは自分に言い聞かせるように言った。
「はい、ふたりとも。」
八代さんと僕のためにお茶を買いに行った圭が帰ってきた。僕と八代さんは彼に「ありがとう。」とお礼を言って労った。
「八代さん、楽になった?」
圭が心配そうに言った。
「うん、ありがとう。おかげさまで少し落ち着いた。」
「そうか、でも無理はしないでね。」
「うん、ありがと。」
少し時間が経ち、僕たちはお茶を飲みながらこれからの予定について話し始めた。
「――圭、帰りはどうしようか?」
「電車動いてなさそうだしね。」
「それなら問題ないよ。」
圭が少し得意げに言った。
「さっき飲み物を買いに行ったときに、親に電話して車で迎えに来てほしいって頼んだから。ふたりとも一緒に車で帰らないか?」
「いいの?」
「ああ、それにふたりとも家の最寄りはいかる台駅だったよね?」
「うん、そうだけど…。」
八代さんが言った。僕もそうだよ、と頷く。
「それなら大丈夫だ。俺の最寄りはもう一つ先の駅だから。」
「じゃあ、お言葉に甘えてお願いしちゃうね。」
八代さんがそういうと圭は「もちろん、いいよ。」と言った。
「圭、ありがとな。」
「こちらこそ、いつも祐には助けられてるしなお安い御用だよ。」
圭はそういうと、ゆっくりと伸びをした。