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3話の続きです。
圭と八代さん、そして僕の3人は鳥谷駅に向かうまっすぐの一本道を歩いている。大通りの植え込みの桜並木はすでに見頃を過ぎ葉桜も終わりを迎えている。今日は例外的に一斉下校のため、他の大勢の生徒たちも行列をなして、ぞろぞろと駅を目指し歩いている。
「浜坂君と水野君って仲が良いけど、普段は一緒に帰ったりするの?」
ふと、学校から2つ目の横断歩道を渡り終えた後、八代さんは興味津々といった様子で僕らに質問した。
「俺は陸上部で平日は毎日練習だから、一緒に帰るのは土曜日と祐の部活がある水曜日くらいかな。」
「そうなんだ。…たしか、水野君って写真部だよね。」
「ああ、そうだけど。」
「陸上部と写真部ってちょっと不思議な組み合わせだけど、ふたりって一年生の時も違うクラスだったよね。」
「それがどうしたの?」
「いや、接点が少なさそうなふたりがどうして友達になったのかなって。」
「まあ、いろいろあってね。」
彼女の問いかけに圭があいまいに答える。互いの接点がないかといえば、そういうわけではない。ただ、それを話すと面倒になるだろう。
「いろいろ?」
「いろいろ。」
「ふ~ん。」
八代さんはそれ以上深入りはしなかった。それから2、3秒たって前方の交差点の信号が赤になる。もう少しで鳥谷駅に到着する。駅付近のこの大通りは普段からバスや自動車の往来、それから行き交う人々で賑わっている。
――ふと、僕は反対側の離れた路上に止まっている黒色のワゴン車を見て本能的な違和感を感じた。
「それはそうとし―――」「みんな、伏せてっ」
「――っ!?」
八代さんの話しを遮って僕は叫んだ。周りの人々が何事かと思った刹那、その黒いワゴン車が突然、ゴゴゴ―という鈍い地響きのような炸裂音を巻き込み爆発した。反対側の通りに面する店々のショーウインドウのガラスが破裂音をたてて飛び散る。
「キャー」という甲高い叫びがいたるところから聞こえる。爆発したワゴン車はすでに大破しており、どんよりとした大きな黒煙が噴き出ている。
僕は辺りを見回した。――不審な奴はいるまいか…。しかし、辺りは騒然としており実行犯を見つけるのは困難だろう。…そもそもここにはいないかもしれない。
僕はふと、こちら側に面する7階建てのビルの屋上を見上げた。そこにはフードを深く被った男が炎上しているワゴン車を見つめている。僕はその男を注意深く見ていると突然目が合った。すると、男は獣のような鋭い目でこちらをにらんだ後、不気味な笑みを浮かべた。彼が何か関わっている、そう感じた。
僕は急いで建物の屋上へ向かおうとしたとき、現実を思い出した。ここには圭と八代さんがいる。さっきはとっさに伏せろ、と言ってしまった。それに、ここで不自然な行動をしたら僕の真の正体がばれてしまうかもしれない。
「祐、なに突っ立ってんだ、早く避難するぞ。」
圭が少し離れた先で叫んだ。僕は急いで二人のもとへ走る。
「水野君、大丈夫?」
「ああ、待たせて悪い。」
「祐、八代さん、とりあえずここから離れよう。しばらくは電車は動かないだろうし。」
「ああ、」「うん。」
圭の冷静な判断により、3人でここから離れた場所へ一時的に避難することにした。
再び建物の屋上を見上げると、すでに男は消えていた。さっきまでの青空はすでにどんよりとした黒煙で覆われかけていた。