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「じゃあ、帰りのホームルームを終わりにするぞ。」
我ら2組の担任である福部先生が少しけだるそうに言った。クラスメイト達はようやく授業から解放されるので、皆喜んでいる。それを察してか委員長の児島さんは早々と通った声で「起立」と言った。すると、呼応するかのようにみんな一斉に立ち上がる。しかし、彼女がさようなら、という前に福部先生が「ちょっと待って」と割って入った。
「みんな、忙しいだろうけどごめんな。ひとこと言い忘れてた。」
クラスメイト達は「え~」とわざと不満げに抗議するが、何だかんだ先生を信頼しているのでみんな先生の話に耳を傾ける。
「ごめん、ごめん。すぐおわるから。…えっと、さっき職員会議で話し合ったことなんだが、電車で最寄りの鳥谷駅から来た子は知っていると思うけど、最近、過激な活動をしている輩がいるのを知っているか?」
「せんせ、知ってるよ。」とやんちゃな男子生徒が言った。今日の通勤時間帯にもやっていたからみんなも知っている様子だった。
「それでな、その中でもさらに危ない奴が君たち若者を中心にあちこちで声を掛けたり脅したりしているらしい。それで、うちの学校の生徒もすでに何件か被害にあっている。」
先生がそういうと、クラスが大きくどよめいた。隣の八代さんは僕に珍しく神妙な面持ちで「ちょっと、怖いよね。」と言った。僕はコクリと頷く。
「みんな静かに」
少し抜けがちな福部先生が、いつになく真剣な面持ちでクラスを正す。先生の様子ですぐにクラスは静かになった。
「今の話を聞いてみんな動揺しただろうが、警察にも被害届を出しているし、今日からしばらくは学校周辺を先生達や地域の人で警戒にあたることになった。それにより、今日は大事をとって学校で君たちが放課後残ることを禁止することになった。もちろん、部活動もだ。」
再びみんなからどよめきが起きる。
「…いいか、みんな聞いてくれ。だから今日はなるべく固まって早く帰るように。先生からの話は以上だ。」
先生の話しが終わり、児島さんの号令で帰りのホームルームがお開きとなった。その直後、後ろのドアから圭がやってきた。それを見て、八代さんは「あっ、浜坂君だ。」と手を振る。
「こんにちは、八代さん。」
「こんにちはっ!」
八代さんは嬉しそうにはつらつと答える。
「ところで、圭、どうしたんだ?」
「ああ、今日はもう一斉下校だろ。だから祐、一緒に帰らないか?」
「もちろん。…よっかたら八代さんも途中までどう?」
八代さんがもどかしそうにしていたから誘ってみた。圭も「うん、それがいい」と言った。
「ほんとっ?」
八代さんは顔をほころばせる。
「おう、八代さんが迷惑じゃないなら。」
「ううん、全然迷惑じゃないよ。」
「それなら3人で帰ろう。…じゃあ祐、荷物取りに行くから正門で集合な、八代さんも。」
「ああ。」「うん。」
そう言うと圭が教室をでた。すると、八代さんは僕に「誘ってくれてありがとっ、水野君。」と笑顔で言った。僕がおう、と短く返す。
「もしかして、私が一緒に帰りたがってたのバレバレだった?」
「バレバレだった。」
「いや~、水野君には敵わないな。」
そう言うと、八代さんは照れくさそうに笑った。