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この物語はフィクションであり実在する個人、組織、団体等とは一切関係ありません。
――人外どもから偽りの人権を剥奪せよ
――我々人類の尊厳を取り戻せ
…またか、と僕は短く咳をしながら心の中で呟いた。しかし、今は先を急ぐ通学者にすぎない。
近頃、世界における人間の在り方はおおきく変化した。昔の人々は彼ら自身を中心において生きていた節があったが、いまでは構成員にすぎない。世間にAIやクローンという言葉が広まり始めた1世紀前では考えられなっかたことだろう。
「おはよう、ユウ。」
歩いている後ろから誰かが背中をつついた。振り返ると圭がいた。僕はおはよう、と短く返事をした。彼(浜坂圭)は同じ湊瑛高校に通っており、親友でもある。「一緒に行こうぜ。」と圭が言った。僕はおう、と答えた。高校は駅からそう遠くはない。
「最近、なんだか生きずらいな。」
しばらく黙って並んで歩いていると圭が唐突に言った。
「どうしたんだ、急に。」
「いや、さっきあいつら、“偽りの人権を剥奪せよ”って叫んでただろ。」
「ああ」
僕は頷いた。
「その、俺もユウの知ってる通り人間ではないからさ。」
「…」
ちょうど目の前の信号機が赤になった。僕らの前を車が行き交う。
…実は彼の言う通り、圭は純粋な人間ではない。サイボーグなのだ。おそらく、このことを学校で知っているやつはそう多くない。
「…」
「…」
僕は信号機のなかの人の青いシルエットをただ見ていた。…彼は人間の僕のことをどう思ってるんだろう。
前を行き交っていた車が静止した。
「なんかごめんな。突然変なこと言って。」
「…そんなことないよ。圭は悪くない、絶対。」
僕はそう言った。
信号が青に変わる。
横断歩道を渡り終えた後、彼は少し安堵して呟くように「ありがとな」と言った。