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第九十八話 ヴィオレット

 ヴィオレットと再会を果たしたルチア。

 ルチアは、喜びをかみしめている。

 当然であろう。

 会いたかったヴィオレットと再会したのだ。

 だが、ヴィオレットは、体を震わせていた。

 それも、なぜか、魔剣を手にして。


「な、なぜだ……。なぜ……」


 ヴィオレットは、動揺している。

 なぜ、ルチアが、ここにいるのか、理解していないからだ。 

 自分が、ルチアを刺したというのに。

 殺したはずのルチアがいるはずがないと思っているのだろう。


「ヴィオレット、会いたかった……」


「来るな!!」


 ルチアは、ヴィオレットの元へと歩み寄ろうとする。

 だが、ヴィオレットは、声を荒げ、ルチアは、思わず、立ち止まってしまった。

 まるで、ヴィオレットは、ルチアを拒絶しているようだ。


「私は、信じない。ルチアは……私が……」


 ヴィオレットは、首を横に振る。

 信じられないようだ。

 ルチアが、生きているなど。

 幻を見ているのだ。

 幻惑の魔法をかけられているのだと、思い込んでいるのかもしれない。

 当然であろう。

 ヴィオレットは、ルチアを刺したのだから。

 自分が、殺したと思い込んでいるのだから。

 ルチアは、ヴィオレットの心情を察した。


「うん。でもね、私、生きてたの。聖剣を持ってたから、助かったんだよ」


 ルチアは、ヴィオレットに、語りかける。 

 確かに、ルチアは、ヴィオレットに魔剣で刺された。

 だが、聖剣を手にしていた為、助かったのだ。

 嘘ではない。

 そして、目の前にいる自分は、幻でもない。

 ルチアは、ヴィオレットにわかって欲しかった。


「だが、私は……」


「ヴィオレット。信じて」


 それでも、ヴィオレットは、ルチアを拒絶した。

 信じられるはずがないのだろう。

 だが、ルチアは、ヴィオレットに懇願した。

 自分を信じてほしいと。

 ヴィオレットは、恐る恐るルチアの方へと視線を向ける。

 ルチアは、真剣な眼差しで、ヴィオレットを見ていた。


「本当に、ルチア、なのか?」


「うん」


 ヴィオレットは、確認するようにルチアに問う。 

 幻ではない事を確認したいのだろう。 

 ルチアは、強くなずいた。

 それを聞いたヴィオレットは、息を吐く。

 心を落ち着かせるために。

 その時だ。

 ヴィオレットの瞳から、涙があふれ出した。


「ずっと、謝りたかった……。私……ルチアに、ひどい事を……」


「怒ってないよ。だから、泣かないで……」


 ヴィオレットは、ルチアに謝罪した。

 魔剣のせいとはいえ、ルチアを刺してしまったのだ。

 ずっと、自分を責め続けたのだろう。

 だが、ルチアは、ヴィオレットを咎めるつもりなど毛頭ない。

 ヴィオレットが、意図的に自分を刺したなど、思っているはずがないのだから。


「私こそ、ごめんなさい」


「え?」


 ルチアは、ヴィオレットに謝罪し、ヴィオレットは、驚愕した。

 なぜ、自分は、謝られているのか、見当もつかないのだろう。


「私、二年前に、記憶を失って、ヴィオレットの事、忘れてたの。大事な思い出も……」


「いいんだ。自分を責めるな」


 ルチアは、ヴィオレットの事を忘れてしまった事を悔いているのだ。

 大事な思い出さえも。

 ヴィオレットの事を姉のように慕い、親友として苦楽を共にしてきた。

 それなのに、全てを忘れてしまった事を後悔していたのだ。

 ヴィオレットは、涙を流しながら、首を横に振った。

 ルチアの事を責めているわけではない。

 自分を責めないでほしかったのだ。

 

「私、会いたかった……。会って話がしたかった……」


「ルチア……」


 ルチアは、自分の想いを打ち明ける。

 ヴィオレットを思いだした時から、ずっと、会いたがっていたのだ。

 会って話がしたい。

 それゆえに、危険だとわかっていても、帝国に乗り込んだのであった。


「帰ろう。一緒に。ルーニ島に帰ろう。クロスとクロウも、ここに来てるの。ヴィオレットを迎えに来たんだよ」


 ルチアは、ヴィオレットに手を差し伸べる。

 ヴィオレットを連れて帰ろうとしているのだ。

 帝国で何があったのかは、わからない。

 それでも、ルチアは、ヴィオレットを受け入れるつもりだ。

 クロスとクロウも、ここに来ている事も、話す。

 皆、ヴィオレットを迎えに来たのだと。

 だが、ヴィオレットは、首を横に振った。


「……駄目だ。私は、帰れない」


「どうして?」


 ヴィオレットは、帰れないと拒む。

 なぜ、拒むのだろうか。

 ルチアは、見当もつかず、問いかけた。


「私は、帝国兵を殺した。ヴァルキュリアも。帝国を滅ぼそうとしたんだ」


「え?」


 ヴィオレットは、真実を明かす。

 帝国兵を殺したと。

 しかも、他のヴァルキュリア達もだ。

 同じ仲間をヴィオレットは、殺したというのだ。

 これには、さすがのルチアも、驚きを隠せなかった。


「そうしなければ、島は救えなかった。だから、私は、罪人だ」


 ヴィオレットは、説明する。

 帝国兵や他のヴァルキュリア達を殺さなければ、エデニア諸島を救えなかったという。

 致し方ないとは言わない。

 自分は、罪人だ。

 ヴィオレットは、そうやって、自分を責めているのだろう。 

 エデニア諸島の為とは言え、帝国兵や仲間を殺した事は、罪が重いと。


「なら、私もだよ」


「どういう事だ?」


 ヴィオレットが、罪人と言うなら、自分もだと打ち明かすルチア。

 それを聞いたヴィオレットは、理解できなかった。

 なぜ、ルチアは、自分の事を罪人だというのか。


「私、妖魔を倒した。でも、妖魔は、帝国の民のなれの果てだったの」


「……知ってしまったんだな」


「うん」


 ルチアは、妖魔の真実を打ち明ける。

 妖魔の正体は、帝国の民のなれの果てだったのだと。

 ヴィオレットは、察したようだ。

 ルチアは、真実を知ってしまったのだと。

 どうやら、ヴィオレットも、知っていたようだ。

 だからこそ、帝国兵を殺したのだろうか。


「だから、私も、罪人だよ」


 ルチアは、真実を明かしたうえで、罪人だと語る。

 その罪は、重いのだと知りながら。


「それでも、私は、一緒に行けない。私は、生きていては、いけないんだ」


「どうして、そんなこと言うの?私のせい?」


 ヴィオレットは、たとえ、ルチアが、自分の事を罪人だと明かしても、決して、ルチアの元に駆け寄ろうとしなかった。

 自分は、生きてはいけないのだと告げて。

 ルチアには、理解できなかった。

 なぜ、そのような事を言うのだろうか。

 自分を刺した事を、ヴィオレットは、責めているのだろうか。

 ルチアは、不安に駆られ、ヴィオレットに尋ねるが、ヴィオレットは、首を横に振った。


「違う、ルチアは、悪くない。何も、悪くないんだ」


 ヴィオレットは、ルチアは悪くないと答える。

 ルチアのせいではないと。

 ヴィオレットは、涙を流しながら、魔剣を自分の腹に向けた。


「やめて、ヴィオレット!!」


「来るな!!」


 ルチアは、ヴィオレットの元へと駆け寄ろうとする。

 それでも、ヴィオレットは、拒絶した。

 ルチアは、思わず、立ち止まってしまう。

 驚いてしまって。


「さようなら、最後に、会えてよかった」


 ヴィオレットは、心情を明かす。 

 ルチアに、会えてよかったと。

 それも、微笑みながら。

 ヴィオレットは、柄を高く掲げる。

 自分を刺し殺すつもりだ。


「やめてええええええっ!!!」


 ルチアは、叫びながら、手を伸ばす。

 ヴィオレットを止めようとして。

 だが、時すでに遅し。

 ヴィオレットは、自分の腹を剣で貫いた。

 ヴィオレットの腹から、血しぶきが飛ぶ。

 ルチアは、急いで、ヴィオレットの元へ駆け寄ろうとするが、ヴィオレットは、目を閉じ、仰向けになって倒れた。

 一筋の涙を流しながら。


「うそ、なんで、どうして……」


 ルチアは、膝をつき、呆然としていた。

 なぜ、ヴィオレットは、自分を刺したのか、理解できず。


「ねぇ、ヴィオレット、目を開けてよ。ヴィオレット……」


 ルチアは、ヴィオレットの体を揺さぶり、呼びかける。

 だが、ヴィオレットは、目を開けようとしない。

 本当に、死んでしまったのだ。

 ルチアは、涙を流した。

 自分が、立ち止まらずに、止めていれば、ヴィオレットは死ぬ事はなかったのではないかと、後悔して。

 その時だ。

 クロスとクロウが、女帝の間に入ってきた。


「ルチア……」


「何があったんだ……」


 クロスは、ルチアの様子を目にして、察した。

 何かがあったのだと。

 クロウは、ルチアに問いかける。

 すると、ルチアは、ゆっくりと、振り向いた。

 涙を流したまま。


「ヴィオレットが、死んじゃった……」


 ルチアは、ヴィオレットが、死んだことを話す。

 これには、クロスとクロウも、驚いているようだ。

 一体、何があったのだろうか。

 ルチアに、聞きたいところであったが、ルチアは、ただただ、泣くばかりだ。

 ヴィオレットの死を目の当たりにしたのだろう。

 クロスとクロウは、静かに、ルチアの元へと歩み寄る。

 泣き続けるルチアを目にして、心が痛んだ。

 ルチアは、ただ、泣くばかりであった。

 だが、その時であった。


「いいえ、まだ、死んでいません」


「え?」


 どこから、女性の声が聞こえる。

 懐かしい声だ。

 ルチアは、彼女の声を知っていた。

 知っていたからこそ、驚いたのだ。

 なぜ、彼女がここにいるのか。

 なぜ、ヴィオレットは、死んでいないと告げたのか。

 ルチア達は、あたりを見回すが、女帝の間には、誰もいなかった。


「ここだよ。私達は、ここにいる」


 今度は、男性の声が聞こえた。

 それも背後から。

 知らない声だ。

 いったい誰なのだろうか。

 だが、クロスとクロウは知っているようで、反応した。

 ルチア達は、ゆっくりと、振り向く。

 ルチア達の背後には、ボロボロの黒い布をかぶった金髪の女性と男性が立っていた。


「あなたは……」


「お久しぶりですね。ルチア」


 ルチアは、女性を見て、驚く。

 どうやら、知っているようだ。

 女性も、ルチアに語りかけた。

 しかも、穏やかな表情で。


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