第九十三話 舞うように
「私を倒すか、面白い事を言うね」
倒すとルチアに宣言されたアレクシア。
鼻で笑いながら、ルチアへと視線を向ける。
まるで、見下しているようだ。
「本気で言っているのかな?」
「私は、いつでも、本気だけど?」
アレクシアは、ルチアに問うと、ルチアは、返答する。
ルチアの目は、本気だ。
本気で、アレクシアを倒そうとしている。
アレクシアも、察したようだ。
「なら、遠慮はしないよ」
アレクシアは、構える。
しかも、笑みを浮かべながら。
この状況を楽しんでいるかのようだ。
ルチアとアレクシアは、同時に地面を蹴った。
アレクシアは、魔技・スパーク・インパクトとシャドウ・インパクトを発動する。
雷と闇のオーラが、ルチアの目の前で爆発を引き起こそうとしていた。
「えいっ!!」
「っ!!」
ルチアは、舞を踊るかのように、薙ぎ払う。
すると、ルチアの手から花びらが放たれ、アレクシアの魔技を消し去った。
それも、いとも簡単に。
アレクシアは、驚愕する。
予想もしていなかったのだろう。
まさか、自分の発動した魔技が、一気に消されるとは。
――うまくいってる!これなら、倒せるかも!!
ルチアは、手ごたえを感じた。
ウィザード・モードを駆使すれば、アレクシアに対抗することはできるのではないかと。
ルチアは、魔法・ブロッサム・スパイラルを発動する。
範囲は、以前とは違い、拡大され、すぐさま、アレクシアを巻き込もうとしていた。
「ちっ」
アレクシアは、舌打ちをしながら、魔法・アース・スパイラルを発動する。
相殺するためであろう。
だが、ルチアの魔法をかき消すことはできず、逆に自分の魔法をかき消されてしまった。
アレクシアは、ギリギリのところで回避し、難を逃れた。
「本当、その力は、厄介だね。だったら……」
アレクシアは、舌を巻く。
初めて、追い詰められた気分になっているのだろう。
ゆえに、苛立ちを隠せなかった。
アレクシアは、魔法・フォトン・ショット、バーニング・ショット、ストーム・ショットの三つの属性の魔法を発動した。
ルチアは、回避するべく逃げるが、弾は、起動を変え、四方八方からルチアへと迫っていく。
これには、ルチアも、逃げ道を失った状態であった。
「逃がさないよ!!」
アレクシアは、不敵な笑みを浮かべる。
自分の勝ちだと確信したのだろう。
だが、ルチアは、ここで、舞を踊るかのように、弾を薙ぎ払う。
しかも、全て。
手から花びらが生み出され、ルチアを守りきった。
それでも、アレクシアは、魔法を連発する。
ルチアを追い込もうとして。
だが、ルチアは、魔技・ブロッサム・アローを発動して、全ての弾を消し去り、オーラの矢は、アレクシアの方へと軌道を変えた。
「しまっ!!」
アレクシアは、あっけにとられる。
自分の魔法が、全てかき消され、その上、ルチアの発動したオーラの矢が、起動を変えるとは思ってもみなかったのだ。
そのため、反応が遅れ、アレクシアは、とっさに、魔法・アース・スパイラルを発動するが、時すでに遅し。
矢は、完全に消滅できず、アレクシアの肩や腕に刺さった。
「これは参ったね。まさか、ほんろうされるなんて」
「私も、一か八かの賭けだったからね」
アレクシアは、ルチアをにらみながら、矢を引き抜く。
抜いたところから血が出るが、アレクシアは、痛みよりも、怒りの方が上回っているようだ。
それでも、ルチアは、平然とした様子で、アレクシアへと視線を向ける。
もちろん、ここまで、うまくいくとは、思わなかった。
一か八かの賭けだったのだ。
これは、ルチアにとっても、アレクシアにとっても、予想外であった。
「なら、私も、本気と行こうか」
アレクシアは、そう言い、全属性のオーラの矢を発動する。
しかも、同時に。
オーラの矢は、ルチアに向かっていく。
ルチアは、回避しようとするが、矢は、四方八方から、放たれる。
これでは、回避する事は不可能であった。
――全部の力を、発動できるんだね。
内心、舌を巻くルチア。
アレクシアは、全ての属性を同時に発動できるのではないかと、懸念していたが、その予感は、的中してしまったからだ。
こうなっては、逃げることもできず、ルチアは、舞を踊るかのように、矢を薙ぎ払っていく。
だが、全ての矢を防ぎきれず、矢は、ルチアの肩や腕に刺さった。
「くっ!!」
「さあさあ、どうした?もう、終わりか?」
ルチアは、苦悶の表情を浮かべる。
さすがに、全属性に対抗する事はできなかったようだ。
そう感じたアレクシアは、不敵な笑みを浮かべ、ルチアを見下す。
追い詰められたからか、口調まで変わったようだ。
これが、彼女の本性なのだろう。
ルチアは、何も答えようとしないまま、構える。
まだ、対抗するつもりのようだ。
アレクシアは、苛立ち、全属性の広範囲魔法を発動する。
ルチアも、抵抗するかのように、受け流し、魔法・ブロッサム・スパイラルを発動する。
だが、全てをかき消すことはできず、魔法は、ルチアに襲い掛かった。
「あああああっ!!」
ルチアは、絶叫を上げ、倒れる。
全身、傷だらけだ。
ルチアの姿を目にしたアレクシアは、容赦なく、ルチアに迫った。
「ふふふ。やはり、私には、適わないようだね、ルチア」
アレクシアは、満足しているかのような笑みを浮かべる。
ルチアに勝ったと、思い込んでいるのだろう。
アレクシアは、ルチアに語りかけるが、ルチアは、何も、答えようとしない。
まるで、力尽きたかのように、倒れているだけだ。
動く気配もなかった。
「その魂、私が、いただくよ」
アレクシアは、短剣を取り出し、ルチアに向けて振り下ろす。
短剣は、ルチアの背中を突き刺そうとした。
だが、その時だ。
ルチアが、アレクシアの腕をつかんだのは。
しかも、ギリギリのところで。
「何っ!?」
アレクシアは、驚愕する。
ルチアは、もう、起き上がる力は、残っていないと確信していたからだ。
まさか、まだ、抵抗するなどと予想できただろうか。
ルチアの手を振り払おうとするアレクシア。
だが、ルチアは、決して、アレクシアの腕を放さなかった。
「私が、こんなところで負けると思ったの?」
「ま、まさか……」
ルチアは、アレクシアに問う。
それも、傷はいつの間にか癒えていた。
ルチアは、密かに、魔法・スピリチュアル・ヒールを発動していたのだ。
アレクシアに気付かれないように。
いや、アレクシアなら、気付かないだろうと推測していた。
なぜなら、アレクシアは、自分が、勝ったと思い込んでいるからだ。
だからこそ、ルチアは、密かに、傷を癒していた。
もちろん、それだけではない。
先ほど、魔法を受けたルチアであったが、実は、それほど、ダメージを負っていなかったのだ。
とっさに、花びらを生み出し、防御していた為、ダメージを軽減できた。
アレクシアは、ルチアの様子を目にして、体を震わせた。
何かを察したかのように。
ルチアは、そのまま、魔法・ブロッサム・スパイラルを発動する。
アレクシアは、巻き込まれ、吹き飛ばされる。
地面にたたきつけられたアレクシアは、全てを知った。
なぜなら、先ほどの魔法は、威力があったのだ。
以前と比べて。
「今まで、手を抜いていたというのか!?」
アレクシアは、愕然とした。
今まで、ルチアは、全力を出していなかったのだ。
アレクシアを欺けるために、力を温存していたのだろう。
――なら、先ほど受けたのは、わざと……。私を油断させるために……。
アレクシアは、察した。
ルチアは、アレクシアの魔法をわざと受けていたのだ。
自分より、弱いと思い込ませるために。
アレクシアは、ルチアの作戦に引っかかったのだと、悟り、歯を食いしばった。
「おのれ、おのれえええええっ!!!よくも、私を騙したなあああっ!!」
「騙したのは、そっちでしょ!!」
アレクシアは、怒り狂ったように、全ての属性のオーラの刃を発動する。
だが、ルチアは、動揺せず、魔技・ブロッサム・ブレイドを発動し、アレクシアの魔技をかき消した。
愕然とするアレクシア。
だが、それだけではない。
ルチアは、すぐさま、アレクシアの元へ迫り、もう一度、魔技・ブロッサム・ブレイドを発動。
アレクシアの腹を切り裂いた。
「ぐっ!!」
アレクシアは、苦悶の表情を浮かべる。
初めて、傷を負ったのだ。
どうにも、怒りが収まらない。
だが、ルチアは、攻撃を止めようとはしなかった。
「まだまだ!!」
「ぐあっ!!」
ルチアは、続けざまに、魔法・ブロッサム・ショットを発動する。
アレクシアは、回避することができず、ダメージを受けた。
危機を察したのか、アレクシアは、聖剣の元へと駆け寄ろうとする。
それでも、ルチアは、冷静さを保ったまま、アレクシアに迫った。
アレクシアは、聖剣に手を伸ばそうとするが、ルチアは、アレクシアの前に立ちはだかる。
これでは、もう、聖剣は、手にできない。
アレクシアは、愕然としていた。
「これで、最後だああああっ!!」
「ぎゃああああああっ!!!」
ルチアは、固有技・ローズクォーツ・ブルームを発動する。
宝石は刃と化し、アレクシアを貫く。
アレクシアは、絶叫を上げながら、うつぶせになって倒れた。
「やっと、倒せた……。正直、虹属性だって聞かされたときは、焦ったけど……」
ルチアは、肩で息をしながら、汗をぬぐう。
手を抜いていたとは言え、ルチアも、焦っていたのだ。
まさか、アレクシアが、虹属性だとは、思いもよらず。
それでも、ルチアは、あきらめなかった。
ウィザード・モードに切り替え、うまく、アレクシアをほんろうさせたのだ。
手ごたえを感じたルチアは、力を温存したまま、アレクシアと戦いを繰り広げ、見事、アレクシアを倒すことに成功した。
後は、結界を張るだけだ。
ルチアは、呼吸を整え、アレクシアに背を向けた。
「さようなら、アレクシア……」
アレクシアに別れを告げ、魔方陣の元へと歩み寄ろうとするルチア。
だが、その時であった。
「ふふふ、あははははっ!!!」
「え?」
アレクシアが、高笑いをし始める。
何が起こったのか、理解できないルチアは、驚愕し、振り向く。
なんと、アレクシアは、立っていたのだ。
腹を宝石で貫かれたというのに。
ルチアは、状況が把握できず、戸惑った。