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楽園世界のヴァルキュリア―救世の少女―  作者: 愛崎 四葉
第六章 ヴァルキュリアの真実
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第七十五話 ただ、大切な人を守りたくて

「なぜ、俺が、そのような事を」


「だから、聞いてるんだ」


 クロスに問いただされたクロウは、聞き返す。

 感情を押し殺し、冷静さを保つように。

 だが、クロスは、反論した。

 なぜ、宝石を盗んだのかと。

 クロウの問いに答えるつもりはないのだろう。


「俺を疑ってるのか?」


「……お前の事は、よくわかってるつもりだ。俺達は、双子だからな」


 クロスは、クロウを疑っているのではない。

 もう、見抜いているのだ。

 クロスとクロウは、双子だ。

 だからこそ、見抜いてしまったのだろう。

 わずかなクロウの異変に違和感を覚えて。


「もう一度、聞く。なんで、宝石を盗んだんだ?」


「……ルチアを守るためだ」


「何だって?」


 クロスは、容赦なく、問いただした。

 明らかに、怒りを露わにしているようだ。

 クロウは、これ以上、隠し通せないと悟り、ため息をつきながらも、答えた。

 ルチアの為だと。

 クロスは、理解に苦しんだ。

 なぜ、宝石を盗むことが、ルチアの為なのだろうか。

 逆ではないかと思ったくらいだ。


「あいつの魂が消えかけてるのは、本当だからだ」


「え?」


 クロウは、告げる。

 エモッドの言っていた事は、真実だったと。

 クロスは、驚愕し、動揺していた。

 惑わされていたのではないかと、疑っていたからだ。

 まさか、本当に、ルチアの魂が消えかけているとは、思いもよらなかったのであろう。


「ヴィクトル達が、話してた。あいつは、ヴァルキュリアに変身する度に、妖魔を倒す度に、無意識のうちに魂を代償としていたんだ。あいつらは、俺が、聞いているとは、まだ、気付いていないがな」


「そ、そんな……」

 

 クロウは、話を続ける。

 ヴァルキュリアに変身し、妖魔を倒すためには、代償が必要であり、その代償は魂だったのだと。

 それは、ルチアも、まだ、気付いていない。 

 ヴィクトル達は、その事を話していたのだが、クロウが聞いているとは、まだ、知らないのだ。

 ゆえに、クロス以外、気付かなかったのだろう。

 クロウが、ルチアの宝石を盗んだとは。

 話を聞かされたクロスは、絶句する。

 何も知らず、ルチアを犠牲にしてしまったのだと悟って。


「だから、俺は宝石を盗んだ。あいつを守るために」


 クロウは、覚悟を決めているようだ。

 ルチアを守るために。

 宝石を盗み、これ以上、ルチアを犠牲にさせはしないと。

 宝石が、見つからなければ、ルチアは、変身できない。

 ゆえに、魂を代償とすることもしなくてよいだ。

 これで、ルチアは、救われると言いたいのだろう。

 クロスも、ルチアを救いたい。

 だが、ルーニ島は、どうするつもりなのだろうか。

 これが、正しい策とは、クロスは、思えなかった。


「心配するな。俺が、島を救う。だから、お前は、ルチアを守ってくれ」


 クロウは、単身で、島を救いに行くつもりだ。

 誰の力も、借りずに。

 ゆえに、クロウは、クロスに、ルチアの事を託した。

 まるで、死ぬとわかっているかのようだ。

 いや、死ぬ可能性はあるだろう。 

 ルーニ島は、妖魔が、徘徊しているのだから。

 その状態で、単身で、島に突入すれば、どうなるか、クロスだってわかっていた。


「できない。そんな事」


「なぜだ?」


「ルチアの為にならないからだ」


 クロスは、クロウの懇願を拒絶する。

 なぜ、拒絶するのか、クロウは、理解に苦しんだ。

 理由は、簡単だ。

 ルチアの為になるとは、到底思えないからだ。


「ルチアは、悩んでるんだ。自分が、戦えないって。皆を救えないって」


「それは、ルチアが、知らないからだろう。代償の事を」


「知ったとしても、悩むよ。あいつは、いつだって、誰かの為に、戦ってきたんだ。犠牲になるとわかっていても」


 クロスは、ルチアの心情を読み取っていた。

 ルチアは、今、苦悩していると。

 変身できず、戦えない。

 自分は、本当に、足手まといになってしまったのではないかと。

 ウィニ島の時もそうだ。

 一時的に、ヴァルキュリアに変身できず、ルチアは、苦悩した。

 今も、苦悩しているはずだと、クロスは、悟っているようだ。

 だが、クロウは、反論する。

 ルチアは、代償の事を知らないからだと。

 だが、クロスは、仮に、ルチアが、代償の事を知ったとしても、戦えない事を嘆き、苦悩すると推測した。

 ルチアは、誰かの為に、自分の感情を押し殺し、犠牲にして、戦ってきたのだから。


「ルチアを苦しめてるのは、あの宝石だ。だからこそ、変身させてはならないんだ」


 クロウは、ルチアを苦しめているのは、妖魔ではなく、宝石だと断言する。

 たとえ、ルチアが、苦悩したとしても、変身させてはならないと、思っているのだ。

 全ては、ルチアの為と、自分に言い聞かせて。


「けど、それが、正しいとは、俺は、思えない」


「なら、ルチアが、死んでもいいって言うのか!!」


 クロスは、クロウの意見を否定する。

 クロウのしている事は、正しいとは、到底思えないのだ。

 すると、ついに、クロウが、声を荒げた。

 ルチアの事を守りたい一心で。

 死なせたくないからこそ、宝石を盗んだのだ。


「そうじゃない。お前だけが、背負う必要はないって言ってるんだ」


 クロスは、クロウを諭す。

 ルチアの死を望んでいるわけではない。

 クロウだけが、背負う必要はどこにもないのだ。


「ルゥが、もしかしたら、解読してくれるかもしれない。ルチアを守る方法が見つかるかもしれない。だから、返そう。ルチアに」


 クロスは、ルゥが、最後のページを解読してくれるかもしれないと語る。

 どのような事が、記されているかは、不明だ。

 ルゥでさえも。

 だが、それでも、ルチアを守る方法が見つかる可能性だってある。

 だからこそ、ヴィクトルは、待つことにしたのだ。

 ルチアの為に。

 クロスは、ルチアに宝石を返すよう、クロウに、促した。


「……俺は、待てない。このまま、島に乗り込む」


「どうしても、信じられないのか?」


 クロウは、待つつもりはないようだ。

 不安でたまらないのだろう。

 もし、ルチアを救う方法がなかったとしたら。

 クロウは、ルチアに気付かれる前に、島に乗り込もうとしているのではないかと、クロスは、悟った。

 ゆえに、問いかけたのだ。

 ヴィクトル達の事が、信じられないのかと。


「……ルチアを守るためなら、なんだってする。たとえ、恨まれてもだ。自分を犠牲にしてでもだ。今までだって、そうしてきた」


「知ってる。だから、正直、心配だった。思いつめてるんじゃないかって」


 クロウは、ルチアを守るために、今まで、自分を犠牲にしてきたのだ。

 ルチアを強引にルーニ島から、脱出させ、ルチアに恨まれたとしても。

 帝国兵をルチアの目の前で殺し、ルチアを怯えさえることになってもだ。

 それでも、ルチアの為なら、クロウは、自分を犠牲にできる。

 これからもだ。

 クロスは、クロウの心情を見抜いていたからこそ、心配していた。

 思いつめてるのではないかと。

 何も言わないが、ずっと、見守り、支えてきたのだ。

 ルチアに、クロウの心情を明かした事もあった。

 それは、ルチアとクロウを大事に思っているからだ。

 家族として。


「どうしても、渡さないつもりか?」


「ああ」


 クロスは、問いただす。 

 ルチアに宝石を返すつもりはないのかと。

 クロウは、うなずいた。

 彼の決意は、固いようだ。

 いや、覚悟と言ったほうがいいのかもしれない。


「取り返したいというなら……」


 クロウは、剣を鞘から引き抜き、クロスに向けた。


「力づくで、奪い返してみろ!!」


「クロウ……」


 クロウは、クロスと戦うつもりだ。

 もう、話しても無駄だと判断したのだろう。

 クロスを傷つけてでも、自分の意思を貫きとおそうとしているのだろうか。


「本気なのか?」


「俺は、本気だ。ルチアの為なら、なんだってする」


 クロスは、クロウに、問いかける。

 本気で、自分と戦うつもりなのかと。

 クロウは、クロスをにらむように見ていた。

 覚悟を決めているかのようだ。

 ルチアの為なら、家族を傷つけてでも、守ると。


「もっと、早く、止めておけばよかったな……」


 クロスは、後悔した。

 クロウが、ここまで、思いつめているとは、思いもよらなかったのであろう。

 話し合えば、わかるのではないかと、推測していたが、考えが、浅はかだったのかもしれない。

 もっと、早く、止めていれば、このような事にはならなかった。

 お互いが剣を向け合うことなどなかったのだろうと。


「お前が、ルチアの為に、戦うって言うんなら、俺は、お前とルチアの為に戦う」


 クロスは、残念そうな表情を浮かべながらも、剣を鞘から抜く。

 ルチアの為だけでなく、クロウの為にも、戦い、クロウを止めると覚悟を決めて。


「……行くぞ、クロウ!!」


 クロスとクロウは、同時に、地面を蹴り、剣をぶつけ合う。

 こうして、双子の悲しい戦いが、始まってしまった。


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