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第六十八話 思いだすのは

「あのヴァルキュリアが、僕を……?」


 ネロウは、体を震わせる。

 信じられないのだろう。

 ルチアが、自分を救おうとしているのだと。

 また、騙されかけているのではないかと。

 だが、頭で拒絶しようとしても、心が、拒絶できない。

 今までのルチアの事を思い返すと。


「う、嘘だ!!」


「嘘じゃないわ!!」


 ネロウは、首を横に振る。

 ルチアが、自分を助けようとしているのは、嘘だと、拒絶して。

 だが、コロナは、叫ぶ。

 ルチアは、本当に、ネロウを助けようとしているのだと。

 たとえ、何度も、ネロウに拒絶されても。


「そんなはず……」


「本当に、そう思うの?」


 ネロウは、まだ、ルチアを疑っている。

 いや、疑う事で、ルチアを否定しようとしているのだ。

 すると、コロナが、涙を流し始めた。

 ネロウを見て、心が痛んだのだ。

 ネロウは、以前は、優しかった。

 母親が殺される前までは。

 他人の事を気遣い、優しい少年だったのだ。

 だからこそ、コロナは、悔やんでいる。

 ここまで、豹変してしまい、誰も、信じることのできなくなったネロウを目にして。


「いい加減、気付きなさいよ、バカ!!」


 コロナは、なおも、叫ぶ。

 ネロウに対して、怒りをぶつけるかのように。

 ネロウは、呆然と立ち尽くしていた。

 コロナが、ネロウに、「バカ」と言った事は、今まで、一度もない。

 それほど、仲が良かったのだ。

 今のコロナは、拒絶する弟を叱る姉のようだ。 

 ネロウは、本当に、ルチアは、騙していないのではないかと思うようになるが、まだ、拒絶しかけていた。


「ネロウ、ルチアはね、覚悟を決めてるんだ」


「どういう事?」


「……妖魔は、元帝国の奴らなんだよ」


「え?」


 ジェイクは、意を決して、ルチアの事を話す。

 だが、ネロウは、どういう事なのか、理解できない。

 何が言いたいのか、わからないのだ。

 すると、ジェイクは、妖魔の正体を告げる。

 これには、さすがのネロウも、驚きを隠せない。

 予想もしていなかったのだろう。

 妖魔が、帝国の者のなれの果てだと。


「それでも、ルチアは、妖魔を倒すことを決めたんだ。それは、帝国の奴らの魂を救うことにもなる。よっぽどの覚悟がないと、できないことなんだよ……」


「……」


 ジェイクは、ルチアが、人殺しと罵られても、揺るぎない決意で、戦い続けてきたと語る。

 妖魔を倒すことで、島を救い、帝国の者達の魂も救っている。

 それでも、よほどの覚悟がないと、できない事だ。

 妖魔に転じてしまうと、元には戻れない。

 ゆえに、妖魔を倒すしかない。

 すなわち、人殺しと同じだ。

 ルチアは、わかっていながらも、妖魔達と戦うことを決意したのだ。

 ジェイクの話を聞いたネロウは、黙ってしまう。

 ルチアの覚悟を聞いて、これ以上、拒絶することはできなかった。


「ネロウ、お願いだよ。ルチアとジェイクを憎まないで。あの人は、そんな事、望んでいなかったでしょ?最後の言葉、思い出して」


「最後の言葉?」


 ヤージュも、ネロウに懇願する。

 これ以上、ルチアとジェイクを憎まないでほしいと。

 それは、心からの願いだ。

 ヤージュは、ネロウの母親は、このような事を望んでいないと語る。 

 しかも、母親は、ネロウに、何か告げたらしい。

 ネロウにとって大事な何かを。

 ヤージュは、それを思いだしてほしいと告げたのだ。

 ネロウは、母親との最後の会話を思いだす。

 母親が死んでから、封じ込めていた記憶を。



 あの時、母親が殺される前の時だ。

 母親は、とある場所に出かけようとしていた。

 ネロウは、母親を見送りにドアの前まで来ていた。


「ネロウ、よく、聞いて。もし、母さんが死んでも、貴方が、島を守るのよ。貴方なら、大丈夫から」


「そ、そんな事、言わないでよ。母さん、戻ってくるんでしょ?」


 母親は、ネロウに優しく語りかける。

 自分の代わりに島を守ってほしいと。

 だが、その願いは、ネロウにとって、残酷なものだ。

 まるで、母親は、自分が死ぬ事を予想しているかのように思えてくる。

 賢いネロウは、その事を悟るが、首を横に振った。

 きっと、戻ってくると、信じて。

 ネロウは、恐る恐る母親に、問いかけた。


「……そうだったわね。ごめんなさい。でも、これだけは、約束してね」


「……わかった。でも、戻ってきてね?約束」


「ええ」


 母親は、ネロウに謝罪する。

 不安にさせてしまった事を悔いているかのようだ。

 それでも、ネロウと約束させた。

 どうしても、ネロウに守ってほしかったからだ。

 ロクト島を。

 たとえ、自分が、命を落としたとしても。

 ネロウは、うなずくが、戻ってきてほしいと懇願し、約束させる。

 信じたいのだ。

 母親は、うなずき、家を出た。

 だが、母親は、二度と、ネロウの元に戻らなかった。

 帝国の暗殺者に殺されてしまったから。


「母さん……」


 ネロウは、涙を流す。

 大事な約束を無理やり、忘れてしまった自分を嘆いて。

 涙をぬぐったネロウは、精霊へと視線を向ける。

 精霊は、ネロウの言いたいことを察したようで、うなずき、魔法を解除した。


「ルチア!!」


 地の檻から解放されたクロス達は、すぐさま、ルチアの元へと向かう。

 ネロウも、精霊と共にルチアの元へ向かった。

 島を救う為に、ルチア達に手を貸すつもりだ。



 ルチアは、島の民達と共に帝国兵や妖魔と戦闘を繰り広げている。

 だが、帝国兵の数が多く、妖魔もいる。

 島の民達も、協力してくれるが、それでも、苦戦していた。


――キリがない……。


 ルチアは、舌を巻く。

 帝国兵に圧倒されそうになるからだ。

 島の民の方が多い。

 だが、戦闘能力は、帝国の方が、はるかに上だ。

 たとえ、ルチアが、戦闘に加わったとしても。

 それでも、ルチアは、戦い続けた。


――あの二人を探さないと……。


 ルチアは、アウスとエモッドを探しているらしい。

 この戦いを終わらせるには、二人を探しだし、核を奪い取る必要があるのだ。

 いや、アウスとエモッドを倒せば、帝国兵達は、戦意を失うかもしれない。

 ゆえに、ルチアが、二人を探していたが、二人の姿は、どこにも見当たらない。

 逃げてしまったのだろうか。

 ルチアは、帝国兵の間を突き抜けようとするが、帝国兵は、まだ、ルチアの前に立ちはだかった。


「っ!!」


 帝国兵は、魔法を発動しようとしている。

 このままでは、島の民を巻き込んでしまうだろう。

 ルチアは、魔法を発動して、相殺させようとした。

 だが、その時だ。

 クロスとクロウが、帝国兵を切り裂き、魔法を中断させたのは。


「クロス!クロウ!」


「ごめん、遅くなった」


「悪かったな」


「ううん、ありがとう」


 クロスとクロウが、ルチアの元へ駆け付ける。

 ルチアは、安堵しているようだ。

 助かったというよりも、二人が、無事だったのだが。

 クロス、クロウは、謝罪する。

 だが、ルチアは、感謝していた。

 帝国兵が、ルチア達に襲い掛かるが、ルチア達は、立ち向かっていく。

 今まで、劣勢を強いられていたルチアであったが、今は、優勢になった。

 人数が、増えたからではない。

 クロスとクロウがいるからだ。

 連携を駆使して、立ち向かっていくことで、帝国兵達を追い詰めたルチア達であった。


「アウスとエモッドを探さないと」


「あいつら、逃げてるかもしれないな」


「だが、どこに……」


 アウスとエモッドを探さなければ、埒が明かない。

 だが、この乱戦状態の中でアウスとエモッドは、逃げているかもしれないとクロスは、推測しているようだ。

 だが、どこに逃げたのだろうか。

 クロウでさえも、見当がつかない。

 アジトがどこにあるのか、まだ、ルチア達は、知らないからだ。

 その時であった。


「こっちだ!!」


「ネロウ!!」


 ネロウが指を指しながら、叫ぶ。

 ルチアは、目を見開き、驚愕した。

 まさか、ネロウが、教えてくれるとは、思ってもみなかったのだろう。

 ネロウは、自分を恨んでいたのだから。


「あいつら、アジトの方に逃げてった。僕、見たんだ!!」


「アジトが、どこにあるかわかってるんだね」


「うん!!」


 ネロウは、ルチア達に告げる。

 どうやら、アウスとエモッドは、アジトの方へと逃げたようだ。

 しかも、ネロウは、アジトがどこにあるのか、わかっているらしい。


「ルチア、ここは、俺達が食い止める。お前は、アジトの方へ向かえ」


「……わかった」


 ヴィクトルは、ルチアに命じる。

 アジトに向かい、アウスとエモッドを倒せと言っているようだ。

 ルチアも、承諾する。

 ヴィクトル達を残していくのは、心配ではあるが。

 自分達が、向かわなければ、戦いは、一向に終わらない。

 ゆえに、向かうしかなかった。 

 もちろん、クロスとクロウも、ルチアと共についていくつもりだ。


「ジェイク、ネロウとヤージュの護衛、頼めるか?」


「……うん。今度こそ、守るよ」


 ヴィクトルは、ジェイクにも、命じる。

 アウス達は、核を所持している為、ネロウとヤージュに向かってもらうためであろう。

 彼らの力がなければ、大精霊は復活できないのだから。

 ジェイクは、承諾し、誓う。

 今度こそ、守ると。


「ネロウ、いいかな?」


「……頼める?」


「うん」


 ジェイクは、ネロウに尋ねる。

 まだ、自分の事を恨んでいるかもしれないと思っているからだ。

 だが、ネロウは、聞き返す。

 申し訳なさそうに。

 ネロウは、もう、ジェイクの事を恨んでいるわけではなさそうだ。

 ジェイクは、微笑み、うなずいた。

 ネロウは、コロナの方へと視線を向ける。

 コロナは、何も言わず、うなずき、ネロウも、うなずいた。

 何も言わなくても、お互い、わかっているかのようだ。

 互いの身を案じ、信じているのだろう。


「行こう!!」


 ルチアは、クロス、クロウ、ジェイク、ネロウ、ヤージュを連れて、アジトへと向かった。


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