第三十一話 支えてくれる仲間がいる
「なんで……」
ルチアは、なぜ、クロス達がいるのか、まったく、見当もつかない。
予定時間よりも、一時間前に起きて、村を出ようとしていたのに。
「ルチアの考えてることくらいわかる」
「ずっと、一緒にいたからな。当然だ」
「……一人で、行こうとしてたんだよな?」
「……うん」
クロスとクロウが、ルチアの思惑に気付いたようだ。
ルチアは、一人で、火山に向かおうとしていると。
ヴィクトル達にも、伝え、ルチアの元に駆け付けたのだろう。
クロスの問いに、ルチアは、静かにうなずいた。
もう、これ以上は、ごまかせないと、判断して。
「まったく、俺様の命令には、従ってもらわなければならないんだが?」
「……ごめん。でも、もう、皆を巻き込みたくない」
ヴィクトルは、珍しく、ルチアを責める。
命令に従わなかったからではない。
ルチアを心配しての事だ。
だが、ルチアにも、強い想いがある。
もう、誰も、巻き込みたくない。
たとえ、クロス達でもだ。
だからこそ、単身で乗り込もうとしたのだ。
「そう言われると、騎士の務めが果たせなくなる」
「クロウ……」
クロウは、ルチアに告げる。
今、自分達は、騎士として、ルチアと共にいるのだと。
ルチアは、クロウの言いたいことは、理解している。
それでも、譲れないものがあった。
しかし……。
「いや、違うか」
「え?」
「俺は、騎士だから、守りたいんじゃない。ルチアだから、守りたいんだ」
クロウは、自分の言った事を否定した。
騎士としての務めではなく、自分の意思で、ルチアを守りたいと思っているのだと。
つまり、騎士など関係ないのだ。
クロウが、自分の考えをルチアに告げると、クロスが、クロウの隣へと歩み寄った。
「それは、俺も同じ。ルチア、一人で行くなよ。俺達、家族だろ?」
「うん……ごめんなさい」
クロスも、クロウと同じ気持ちのようだ。
彼も、ルチアを守りたいと思っているのだ。
ルチアの事を家族と思っているから。
ルチアは、うなずき、謝罪した。
勝手な事をしてしまったと、反省しているようだ。
「私、怖くて。私のせいで、皆を巻き込むんじゃないかって……あの時みたいに……」
ルチアは、声を震わせながら、胸の内を語る。
怖かったのだ。
自分がいる事で、誰かを巻き込んでしまうのではないかと。
ルーニ島の時のように、そして、ファイリ島で起きた時のように。
それゆえに、ルチアは、一人で、向かおうと決意した。
「ルーニ島の事だな?あれは、俺様にも、責任がある」
「そうですよ。だから、一人で、思いつめないでください」
ヴィクトルは、ルチアの心情を読み取ったようだ。
ルチアは、ルーニ島で起きた事件に関して、責任を感じているのだと。
だが、ヴィクトルは、ルチアのせいではないと思っているようだ。
自分が、もっと、用心していれば、あのような事は、起こらなかったのではないかと、責任を感じている。
フォルスも、同様だ。
ルーニ島の件は、自分達の責任でもあると言いたいのであろう。
だからこそ、ルチアに思いつめてほしくないと告げたのだ。
「皆、帝国の奴らをぶん殴りたいんだよっ!」
「うんうん。僕らも、連れてってよ。ね?ね?」
ルゥは、自分の考えを打ち明ける。
皆、帝国の奴らが、許せないのだ。
島の民を傷つける妖魔も。
だから、ヴィクトル達は、帝国の奴らをぶん殴ってやりたいと思っているようだ。
今までの怒りをぶつけたいのだろう。
ジェイクも、同じ気持ちだ。
だからこそ、ルチアと共に、戦うつもりなのだろう。
「うん。よろしくお願いします」
ルチアは、頭を下げる。
クロス達と共に、戦うことを決意したのだ。
彼らとなら、苦難を乗り越えられる気がしてきた。
自分は、一人じゃないと強く想えるようになってきたのだ。
クロス達は、うなずき、微笑む。
まるで、ルチアを支えると決意したかのようだ。
その時であった。
「ちょっと、私達も、連れてってよね」
「勝手にいくなっての!」
クレイディアとバニッシュが、ルチア達の元へ駆け付ける。
しかも、頬を膨らませて。
置き去りにされた事に対して、怒っているかのようだ。
ヴィクトル達は、ルチアを引き留めた後、起こしに行こうと思っていたのだ。
だが、運悪く、二人は、起きて気付いてしまったらしい。
これには、さすがのヴィクトル達も、困惑していた。
「ごめんなさい」
ルチアは、謝罪する。
自分のせいだと言いたいのだ。
ヴィクトル達は、悪くないと。
「謝らなくていいのよ、ルチアちゃん。貴方の気持ちは、十分にわかってるから」
「だから、頼んだぜ」
「はい!」
クレイディアは、ルチアを責めてなどいなかった。
ちょっと、ふてくされていたが。
ルチアの気持ちも、十分に理解しているからだ。
バニッシュも、同様であり、ルチアの事は、頼りにしている。
ルチアは、うなずき、改めて、決意を固めた。
クロス達と共に、島を救うことを。
ルチア達は、予定よりも、早く、ファイリ火山にたどり着いた。
「着いたな」
「うん」
ルチアは、ファイリ火山を見上げる。
間近で見ると、本当に、高い。
あの山頂にグロンドとバルスコフがいるのであろう。
そう思うと、少々、骨が折れそうだ。
幸い、火山の近くにいるというのに、噴火活動はまだ起こっていない。
おそらく、ルチアのヴァルキュリアの力で、静まったのだろう。
今なら、突入できそうだ。
「ヴィクトル、どこから、突入するつもりだ?」
「正面突破だ。どうせ、裏でも、妖魔が待機してるだろうからな」
「わかった!!一気に突っ込んでいい?」
「もちろんだ」
クロウが、ヴィクトルに尋ねる。
ヴィクトルは、作戦を変更していたようだ。
グロンドとバルスコフは、自分達を挑発してきている。
ゆえに、裏から、回り込んでも、妖魔が、待ち構えているであろう。
入口も、待ち構えている可能性があるが。
ならば、体力を極力、温存するために、正面から突破すべきだと考えたのだろう。
そうすれば、最短ルートで、たどり着けるはずだ。
ルチアは、ヴィクトルに尋ねると、ヴィクトルは、承諾する。
一気に突っ込むつもりだ。
ルチア達は、構えた。
「突撃!!」
ヴィクトルは、叫び、ルチア達は、火山に突入する。
ここからは、死闘となる可能性がある。
妖魔達が、待ち構えているであろう。
と、思っていたルチア達であったが、火山の内部に突入した結果、なんと、中はもぬけの殻であった。
「あれ?いない?」
「どうなっている?」
ルチア達は、立ち止まり、呆然とする。
一体、何があったのか、理解できない。
これも、罠なのだろうか。
ルチア達は、あたりを見回し、慎重に進む。
だが、その時であった。
突如、ルチアの背後から、何者かが、迫っていたのは。
「きゃっ!!」
「ルチア!!」
なんと、ルチアは、何者かに捕らえられてしまったのだ。
腕で首を絞められた状態になっている。
ルチアは、離れようももがくが、力任せに抑えられ、動けない状態となった。
クロス達は、ルチアを救おうとする。
しかし……。
「動くな!!」
「っ!!」
何者かが、ルチアの頬に、短剣を突きつける。
おそらく、動けば、ルチアは、殺されてしまうであろう。
クロス達は、何もできず、ただ、悔やみながらも、立ち尽くすばかりであった。
一体、誰が、ルチアを捕らえたのだろうか。
ルチアは、視線をそらすと、なんと、ルチアを捕らえたのは、グロンドとバルスコフであった。
「グロンド、バルスコフ……」
ルチアは、グロンドとバルスコフをにらみつける。
怒り任せに。
抑えきれないのであろう。
帝国のせいで、島の民が、苦しめられたのだから。
それでも、グロンドとバルスコフは、平然としていた。
「作戦成功したな。なぁ、ヴィクトル」
「え?」
「ああ、予想通りだ」
グロンドは、ヴィクトルを見ながら、語りかける。
これには、さすがのルチア達も、驚きを隠せない。
ヴィクトルと共にいたフォルス、ルゥ、ジェイクも。
だが、ヴィクトルは、平然とした状態で、グロンドに語りかける。
まるで、グロンドを仲間だと認識しているかのようだ。
「ど、どういう事だ!!」
「まだ、気付いていないのか?」
「え?」
クロスが、怒りを露わにしている。
許せないのだろう。
ヴィクトルの事が。
クロウも、ヴィクトルをにらみつけている。
場合によっては、斬るつもりかもしれない。
クロウは、拳を握りしめていた。
だが、それでも、グロンドも、バルスコフも、そして、ヴィクトルも、笑みを浮かべている。
まるで、余裕と言わんばかりに。
グロンドは、ルチアに、問いかける。
彼女達は、まだ、気付いていないと、察して。
「こいつは、裏切り者なんだよ!」
ルチア達に衝撃が走った。
昨夜、グロンド達に情報を流していた謎の男性は、なんと、ヴィクトルだったのだ。
ルチア達は、ヴィクトルに、裏切られていた。