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楽園世界のヴァルキュリア―救世の少女―  作者: 愛崎 四葉
第二章 裏切りと火の島
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第二十七話 帝国に抗う者達

「こいつら、何なんだ?」


「確か、例の商人と一緒だったな」


 兵士達は、戸惑いを隠せないようだ。

 彼らは、ヴィクトル達と共にいたただの商人のはず。

 正体を知らない彼らは、困惑するばかりだ。


「ただの商人が、こんなことやるはずがねぇ。お前ら、一体何者だ!」


「答える気はない」


 兵士は、ルチア達に問いただす。 

 とうとう、見抜かれてしまったようだ。

 当然だろう。

 商人が、帝国兵に刃向うなど、あり得ない事だ。

 ゆえに、反逆者と見なされてしまったのだろう。

 だが、クロウは、戸惑うことなく、冷静に回答を拒絶した。

 あくまで、正体を隠し通すつもりのようだ。


「ちっ。だったら……」


 兵士は、まがまがしい力を解き放つ。

 すると、三匹の妖獣が現れたのだ。

 それも、ルチア達よりも、巨大なゴリラのような妖獣が。


「妖獣!?」


「力ずくで、正体を暴いてやる!!」


 兵士達は、妖獣を召喚したようだ。

 やはり、妖魔を使役していたらしい。

 だが、なぜ、妖獣を召喚できるのであろうか。

 ルチアは、戸惑いを隠せなかった。

 妖獣を見た島の民は、悲鳴を上げながら、逃げ始める。 

 誰も、妖獣に対抗しようとしなかったのだ。


「なんで、妖獣を……」


「俺達に逆らうからだ。当然だろう?」


 ルチアは、拳を握りしめ、体を震わせながら、問い詰める。

 なぜ、妖獣を召喚したのか、理解できないからだ。

 兵士は、堂々と答える。

 自分達に逆らったから、召喚したのだと。

 どこまでも、狡猾な奴らだ。

 周囲の人間や精霊に恐怖を与え、横暴な態度をとっているのだから。

 そう思うと、ルチアは、怒りが込み上げてきた。


「クロウ、悪いんだけど……」


「ああ、わかってる。俺も、もう、我慢ならない」


 クロスもクロウも、怒りを露わにしている。

 ここまで、卑劣なやり方は、初めてだ。

 ゆえに、彼らを許す事はできなかったのだろう。


「ルチア、やるぞ!!」


「うん!!」


 ルチア達は、地面を蹴り、駆けだしていく。

 妖獣達も、ルチア達に迫ってきたが、ゆっくりと、歩いているようだ。

 そこまで、スピードは、出せないらしい。

 ならば、ルチア達にとっては、好都合だ。

 先制攻撃を仕掛けようとしているのだろう。

 最初に、妖獣にたどり着いたのは、クロウだ。

 妖獣は、クロウをたたきつぶそうとするが、クロウは、冷静な判断で、素早く、右に回避した。


「はっ!!」


 クロウは、妖獣を切り裂く。

 妖獣は、悲鳴を上げ、暴れまわるように、クロウを叩き潰そうとするが、クロウは、すぐさま回避し、妖獣の腕を切り裂く。

 妖獣は、再び、悲鳴を上げた。

 これで、攻撃力は、低下しただろう。

 だが、まだ、終わるつもりはない。

 クロウは、魔技を発動。

 古の剣から、放たれた闇のオーラが、妖獣の前で、爆発を起こしたのだ。

 その名も、シャドウ・インパクト。

 魔技を受けた妖獣は、雄たけびを上げながら、消滅した。


「せいっ!!」


 クロスも、妖獣の攻撃を受け止め、弾き飛ばす。

 妖獣は、よろめき、体勢が崩れた。

 その隙をついて、クロスは、切り裂く。

 妖獣は、怒りを露わにしながら、クロスを叩き潰そうととするが、クロスは、再び、妖獣の攻撃を受け止め、弾き飛ばし、体勢を崩す。

 クロスは、そのまま、後退し、魔法を発動した。

 光のオーラが、渦巻き、妖獣へと襲い掛かる。

 その名も、フォトン・スパイラル。

 魔法を受けた妖獣は、一瞬のうちに、消滅した。


「やあっ!!」


 ルチアは、妖獣の攻撃を蹴りで、受け流しながら、攻撃を回避している。

 さらに、妖獣は、叩き潰そうとするが、ルチアが、バク転しながら、回避する。

 身軽さゆえに、ルチアにとっては、簡単なことだ。

 その身軽さを武器にして、妖獣をほんろうさせ、隙をついたところで、ルチアは、妖獣に向かってサマーソルトを放った。

 妖獣は、よろめく、さらに、ルチアは、ブロッサム・ブレイドを発動する。

 オーラが、刃となって、妖魔を切り裂き、消滅させた。


「なっ!!」


「妖獣を、一撃で?こいつら、本当に、何者だ!!」


 召喚した妖獣を一瞬で倒され、兵士達は、戸惑いを隠せない。

 まさか、ここまで、強かったとは、思いもよらなかったのであろう。

 ルチアは、戸惑っている兵士達に向かって、走り始めた。


「やあああっ!!」


「ぐへっ!!」


 ルチアは、回し蹴りを放つ。

 蹴りは、兵士の顔面に直撃し、吹き飛ばされた。


「せいっ!!」


「がはっ!!」


 ルチアは、続いて、もう一人の兵士に向かって、横蹴りを放つ。

 蹴りは、鳩尾にヒットし、兵士は、苦悶の表情を浮かべながら、仰向けになって倒れた。


「き、貴様ら、一体……」


「こいつらは、ヴァルキュリアと騎士だ」


 ルチアにボコボコにされた兵士達。

 彼女が一体何者なのか、まだ、見当もつかないようだ。

 その時、ヴィクトルが、兵士達の前に姿を現したのは。

 しかも、ルチア達の正体を明かして。


「なっ!!」


「なんだと!?」


 兵士達は、驚愕する。

 予想もしていなかったようだ。

 まさか、目の前にいる少年少女が、ヴァルキュリアや騎士だと思わなかったのだろう。

 しかし、なぜ、商人が、ヴァルキュリアや騎士といるというのだろうか。

 兵士達は、まだ、見当もつかないようだ。


「よう。久しぶりだな」


「ヴィクトル!!」


「そういう事だったのか!!」


 突如、ヴィクトルが、フードを外して、正体を明かす。

 それも、余裕の笑みを浮かべて。

 目の前にいる商人が、ヴィクトルだと知り、兵士達は、やっと、理解した。


「さて、どうする?俺は、こいつらと違って、容赦ないぜ?」


 ヴィクトルは、剣を引き抜く。

 それも、兵士達に殺気を向けて。

 ヴィクトルは、ルチア達とは違い、兵士達を殺すつもりのようだ。

 人殺しになっても、構わないのだろう。

 兵士達も、ヴィクトルの殺気に気付き、怯え始めた。


「に、逃げるぞ!!」


 兵士達は、怯えるように逃げ始めた。

 ヴァルキュリアの存在を知ったからだけではない。

 ヴィクトルと言う存在が恐ろしかったのだろう。

 それほど、ヴィクトルは、強いのだろう。

 帝国兵でも、手に負えないほど。


「帝国兵が、逃げていった」


「うん、すごいな……」


 クロウは、唖然としている。

 まさか、帝国兵が、逃げてしまうとは、想像もしなかったのだろう。

 クロスも、あっけにとられているようだ。

 ヴィクトルは、それほど、すごいのだと、改めて、感じ取って。


「すごい、ヴァルキュリアが……」


「俺達、助かるんだ!!」


 ルチアがヴァルキュリアと知った島の民は、驚き、感激している。

 しかも、希望を取り戻したかのようだ。

 島中の誰もが、皆を期待し始めた。


「皆が……」


「やっぱり、ヴァルキュリアは、期待されているな」


 ルチアも、呆然としている。

 まさか、これほど、皆が、ヴァルキュリアに対して、期待しているとは、思っていなかったようだ。

 すると、ヴィクトルが、ルチア達の前に立つ。

 笑みを浮かべているが、心情は、読み取れない。

 ルチアは、びくっと、体を震わせた。


「あ、あの、ヴィクトルさん……」


 ルチアは、申し訳なさそうな表情を浮かべて、ヴィクトルに話しかける。

 仕方がなかったとはいえ、自分の正体をヴィクトルに、打ち明けさせてしまった事を申し訳なく感じているのだ。

 あれほど、忠告されていたというのに。


「やれやれ、予想外の展開だ」


「ごめんなさい……」


 ヴィクトルは、困ったような表情を見せる。

 やはり、ヴィクトルは、怒っているようだ。

 ルチアは、そう察し、うつむきながら、謝罪する。

 反省しているのだろう。

 自分のせいで、計画が、狂ってしまったかもしれないと思うと。

 しかし……。


「別に、責めてるわけじゃないさ。逆に、協力者が、増えたんだ。喜ぼうぜ」


「え?あ、はい」


 ヴィクトルは、ルチアを責めているわけではなさそうだ。

 逆に、この状況を喜んでいるらしい。

 協力者が増えたという事は、情報が、一気に手に入る。

 これで、計画が、いい方向に進むだろう。

 だからこそ、ヴィクトルは、ルチアを咎めるつもりはなかったのだ。

 ルチアは、動揺しながらも、うなずいた。

 すると、ヴィクトルは、一歩進んで、立ち止まった。


「皆、喜べ!!こいつは、華のヴァルキュリアだ。この島を救う為に、ここへ来た!!」


 ヴィクトルが、島の民達に、宣言する。

 ルチアが、華のヴァルキュリアである事、そして、この島を救う為に、自分達が、ここに来た事。

 その話を聞いた島の民は、歓声を上げた。

 まるで、完全に、希望を取り戻したようだ。


「さあ、どうする?ここで、奴らの言いなりになるか。抗うか。選べ!」


 ヴィクトルは、島の民に選択をゆだねる。

 彼らに、協力を求めているようだ。

 だが、強制ではない。

 彼らに、選ばせようとしている。

 島の民は、どうするのだろうか。

 ルチア達は、息を飲みながら、島の民達へと視線を向けた。


「私、協力するわ!!」


「もう、帝国のすきにはさせないぞ!」

 

 異論は、ないようだ。

 島の民は、ずっと、耐えていたのだろう。

 シャーマンが、殺され、大精霊が、封印され、島が、帝国に支配された二年前のあの時から。

 だからこそ、誰もが、ルチア達に協力すると、申し出たのだ。

 誰も、逃げる事はしなかった。


「もう、やるしかなさそうだな」


「みたいだな……」


 これほどまでに、期待されている。

 と言う事は、やるしかないようだ。

 クロスとクロウも、改めて、腹をくくった。


「やるよ、そのために、ここに来たんだし」


 ルチアも、覚悟を決めている。

 こうなったら、徹底的に帝国と戦うつもりだ。

 ヴィクトルも、島の民が、全員協力してくれると聞いて、安堵したようで、にっと、笑みを浮かべていた。


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