第十四話 光の騎士と闇の騎士
ルチアは、妖魔達と戦いを繰り広げている。
だが、二人の連携に圧倒され、ルチアは、追い詰められていた。
それでも、起死回生を狙って、ルチアは、妖魔の女性に向かって、ヴァルキュリアの固有技・インカローズ・ブルームを放とうとする。
しかし、妖魔の青年が、ルチアに向かって、ディザスター・フォトンを発動する。
どうやら、彼は、魔技を発動する事ができるようだ。
前回、戦った妖魔とは違う。
おそらく、人型の妖魔なのだろう。
妖魔は、二種類に分かれる。
魔法を扱うことができる精霊型の妖魔と魔技を扱うことができる人型の妖魔に。
彼らは、区別がつかず、発動する技によって見分けることができる。
今回は、二人とも、人型の妖魔のようだ。
なぜなら、女性は、妖魔の青年の事を兄と呼んでいたのだから。
複数の光の刃がルチアに向かって、放たれていく。
まるで、災いのように。
「うあっ!!」
ルチアは、致し方なく、妖魔の女性ではなく、複数の光の刃を蹴り飛ばしていく。
しかし、全てを防ぎきることはできず、光の刃はルチアに直撃し、ルチアは、吹き飛ばされ、地面にたたきつけられた。
妖魔達は、容赦なく、ルチアに迫り、見下ろす。
まるで、勝ち誇ったかのように。
「なーんだ。こんなもんか。あっけないね」
「まぁ、少しは、楽しめたんじゃねぇの?」
妖魔達は、もう、勝った気でいるようだ。
ルチアを殺そうとしているのであろう。
いや、ルチアが、起き上がれるとは思っていないようだ。
それもそのはず。
ルチアは、二人の攻撃を幾度となく受け、体中に傷を負っていた。
妖魔達は、再び、邪悪なオーラを発動し、ルチアを殺そうとしていた。
だが、その時だ。
ルチアは、勢いよく起き上がりながら、回し蹴りを放つ。
妖魔達は、とっさに、回避し、距離を保った。
「まだ……終わってない!!」
ルチアは、構える。
まだ、あきらめてなどいなかった。
いや、あきらめきれるわけがなかったのだ。
「そう、強がるのね」
妖魔の女性は、嫌悪感を抱く。
いらだっているのだろう。
ルチアが、何度も、立ち上がる事に対して。
これでもかと、言うほどに。
ゆえに、妖魔の女性は、すかさず、ルチアに襲い掛かる。
そして、魔技・ディザスター・シャドウを発動し、闇の刃が、ルチアに向かって、放たれた。
邪悪なオーラを纏った闇の刃は、ルチアを切り刻もうとしている。
だが、その時であった。
クロスが、ルチアの前に出て、闇の刃を全て、切り裂いたのは。
それと、同時に、クロウが、妖魔の女性の前に出て、斬りかかろうとしていた。
「きゃあっ!!」
妖魔の女性は、首を斬られそうになるが、妖魔の青年が、とっさに、妖魔の女性の腕をつかんで引き下がらせる。
クロスとクロウが、寸前のところで、ルチアを守ったのだ。
アレクシアも、ルチアの元に駆け付け、回復魔法を唱え始めた。
「よくも、ルチアを傷つけたな」
「絶対に、許さないぞ」
クロスとクロウは、妖魔達をにらみ、構える。
大事な家族であるルチアを傷つけられ、憤りを感じているようだ。
古の剣は、鋭い輝きを放っている。
妖魔達が、おののくほどに。
「ちっ。騎士になりやがったか」
「やるしかないわよね」
妖魔達は、苛立ちを隠せず、構える。
先ほどまで、優勢だったというのに、状況が一変したからだ。
ルチアをすぐに殺してしまえばよかったと後悔している。
だが、妖魔達は、ここで、退くつもりはないようだ。
地面を蹴り、ルチア達に向かっていく。
ここで、クロスが、妖魔の青年に向かって、斬りかかる。
妖魔は、回避しようとするが、クロスは、続けざまに突きを放つ。
妖魔の青年は、魔技・ディザスター・フォトンを発動し、クロスの体を切り刻もうとした。
「甘い!!」
クロスは、剣を巨大化させて、魔技を防ぎきる。
騎士には、ヴァルキュリアにはない固有技を持っていたのだ。
それは、オーラによって、古の剣を変形させることができることだ。
二対の剣にする事、盾のように強化する事、蛇腹剣に変化させる事、円状にいくつも剣を発動させる事、背後に羽根のように剣を具現化させる事の五つの能力を持っている。
ゆえに、固有技を使い分けることによって、戦いをより、有利にすることができるのであった。
クロスが、発動した固有技は、古の剣を盾のように強化することができるレイディアント・ガードだ。
固有技のおかげで、クロスは、怪我を負うことなく、全ての魔技を防ぎきることができた。
クロウは、古の剣を二対に変化させ、妖魔の女性を追い詰めていく。
クロウが、発動している固有技は、二対の剣にすることができるダークネス・ツインだ。
妖魔の女性は、魔技・ディザスター・シャドウを発動するが、クロウは、いとも簡単に、魔技を切り裂き、さらには、妖魔の女性をも切り裂いた。
「女だからって、容赦はしない」
クロウは、女性と言えど、容赦しないようだ。
相手が、妖魔だからであり、ルチアを傷つけた。
ゆえに、クロウにとっては、彼女は、敵。
倒すべき相手というわけだ。
妖魔達は、追い詰められ、劣勢を強いられていく。
クロスとクロウは、息を合わせ、妖魔達を追い詰め、吹き飛ばした。
「ルチア!!」
「今だ!!」
「うん!!」
クロス、クロウは、ルチアに告げる。
今なら、倒せると言いたいのであろう。
アレクシアの魔法で、治療を受け、傷が癒えたルチアは、うなずき、地面を蹴り、妖魔達に向かっていく。
妖魔達に迫ったルチアは、跳躍し、ブーツにオーラを纏わせ宝石へと変化させた。
「やあああっ!!」
ルチアは、そのまま降下していく。
そして、勢いよく、回し蹴りをしながら、固有技・インカローズ・ブルームを発動し、宝石に切り裂かれた妖魔達は、瞬く間に、消滅した。
「た、倒したね」
「うん」
ルチアは、息を吐く。
ほっとしたのだろう。
一時は、どうなるかと思っていたくらいだ。
クロスとクロウのおかげで、ルチアは、命を落とさずに済んだ。
クロスは、ルチアの元に歩み寄り、頭を撫でる。
まるで、兄のように。
ルチアは、太陽のように微笑んだ。
続いて、クロウも、クロスの隣に、歩み寄る。
「何とか騎士になれたな」
「ああ」
「これで、ルチアを、守れる」
「……そうだな」
クロスは、騎士に慣れた事を喜び、ルチアを守ると決意を固める。
それほど、ルチアを大事に思っているのだ。
だが、クロスは、知らなかった。
彼の様子をうかがっていたクロウが、複雑な感情を抱いている事に。
遺跡から戻ってきたルチアは、フォウにクロスとクロウが騎士になれた事を報告。
フォウは、喜び、すぐに、島の民に伝えた。
島の民の誰もが、喜んでいた。
フォウに報告を終えたルチアは、海を泳ぎ始める。
瑠璃色の海は、常にルチアの心を落ち着かせてくれる。
ルチアは、瑠璃色の海が、大好きであった。
いつまでも、見ていたいと思うほどに。
だからこそ、時々、海で泳ぐことがある。
アレクシアは、ルチアを見守るように、海を眺めていた。
すると……。
「アレクシア」
「やぁ。調子はどうだい」
「別に、何も変わらない」
「そう」
アレクシアは、さりげなく、二人に問いかけてみる。
だが、騎士になったと言えど、何も変わりはしないのだ。
以前も、ルチアを守ろうとしていたし、それは、今も変わらない。
「なぁ、アレクシアさん」
「ん?何かな?」
「俺達は、騎士なっても、妖魔を倒すことはできないのか?」
「……そうだね」
クロスは、アレクシアに問いかける。
気になっていた事があったからだ。
自分達は、もう一度、騎士になれた。
強い力を感じ取った二人。
だが、それでも、妖魔を倒すことはできない。
妖魔を倒すことができるのは、ヴァルキュリアのみと言われている。
それが、なぜなのか、知りたいのであろう。
「その古の剣は、強力な力が封じ込められている。けど、ヴァルキュリアほどじゃない。だから、妖魔を倒すことはできないんだ」
「そうか……」
アレクシア曰く、古の剣は、ヴァルキュリアの力よりは、弱いようだ。
ゆえに、妖魔を倒すことはできないらしい。
それを聞いたクロウは、複雑な感情を抱く。
ルチアを守る事はできるが、ルチアの背負っている運命を自分達も、背負う事はできないのだと悟って。
「一時的に消滅させることはできる。でも、復活しちゃうから、その場しのぎにしかならないんだよ」
「なるほど。じゃあ、完全に倒せるのは、やっぱり……」
「ヴァルキュリアだけ、だね」
騎士は、古の剣で、妖魔を消滅させることはできる。
復活してしまうため、その場しのぎにしかならない。
アレクシアの話を聞いたクロスは、悟った。
妖魔を完全に倒せるのは、ヴァルキュリアだけなのだと。
つまり、ルチアだけしかいないのだと。
「それでも、ルチアを守る力は、手に入れた」
「うん」
「それに、あいつを支えることくらいなら、できる」
「そうだな」
複雑な感情を抱いていた二人であったが、守る力は、手に入れた。
クロウは、そう呟くと、クロスが、静かにうなずく。
クロスも、クロウと同じ想いを抱いているようだ。
ルチアを守り、支えることはできるのだと。
ルチアは、くじけそうになった時、二人が側にいてくれる。
アレクシアは、そんな気がした。
その時だ。
ルチアが、海面から顔を出したのは。
クロスとクロウは、ルチアの元へ歩み寄る。
ルチアは、二人の気配に気付き、振り向いた。
「結構、泳いだな」
「うん。だって、この海が好きなんだもん」
クロスが、ルチアに語りかけ、ルチアは、答える。
ルチアは、この海が好きだ。
透き通った美しい海が。
いつまでも、泳いでいたいと思うほどに。
クロスとクロウは、そんなルチアを守りたいと、心から願っていた。
「皆、頑張ろうね!頑張って、島の皆を守ろうね」
「うん」
「ああ」
ルチア達は、決意を固めた。
必ず、島の皆を守る事を。
――絶対に守るよ、絶対に。
ルチアは、強く強く願った。
だけど、彼女は、まだ、知らない。
その願いは、いとも簡単に崩れ去り、叶わなくなる事を。