第百話 何度でも、戦う
ルチア達の前に現れたのは、なんと、アレクシアだった。
消滅したはずの彼女が、なぜ、ここにいるのだろうか。
ルチア達は、見当もつかない。
アレクシアは、ふらつきながらも、ルチア達に迫った。
「た、魂を……魂をおおおおおっ!!!」
アレクシアは、悲鳴のような声を上げる。
まるで、ルチアの魂を求めているようだ。
アレクシアは、叫びながらも、ルチアに向かって、手を伸ばし始めた。
「あいつ、生きてたのか!?」
「だが、様子がおかしい」
クロスは、アレクシアが生きていた事に驚きを隠せない。
確かに、彼女は、消滅したのだ。
ルチアの手によって。
復活を果たしたというのだろうか。
だが、様子がおかしい。
焦点があっていないように見える。
ルチア達の事が見えていないようだ。
その事をクロウは、気付いていた。
「もう、正気を失ってるんだね。ただ、魔神を復活させたいって言う意思だけで動いてるんだ」
ルチアは、察した。
アレクシアは、もう、正気を失っている。
自分の魂を奪い、魔神を復活させたいという意思だけで、動いているのだ。
つまり、完全には、復活していない。
倒すなら今であろう。
ルチアは、ヴァルキュリアに変身し、構える。
クロス、クロウも、剣を鞘から引き抜き、構えた。
「魂を、よこせえええええっ!!」
アレクシアは、叫び始める。
それと同時に、まがまがしい力が発動され、ルチア達に襲い掛かった。
「くっ!!」
「なんて、威力だ……」
クロウは、すぐさま、ルチアの前に立ち守る。
だが、吹き飛ばされそうになり、思わず、苦悶の表情を浮かべた。
クロスは、思わず、舌を巻く。
正気を失っていると言えど、その力は、以前と変わりないように思えたのだ。
これは、簡単に、倒せるとは、到底思えなかった。
「絶対に、渡さない!!」
ルチアは、構える。
自分の魂を渡すつもりはない。
ヴィオレットを救う為に、アレクシアと戦うことを決めた。
床を蹴り、アレクシアに向かっていくルチア達。
だが、アレクシアは、全属性の魔法を発動する。
それも、叫びながら。
ルチア達は、回避しようとするが、完全に回避できず、火と風の魔法が、クロスの背中を切り刻んだ。
「ぐっ!!」
「クロス!!」
クロスは、苦悶の表情を浮かべて、うずくまる。
だが、アレクシアの猛攻は、止まらない。
連発して、全属性の魔法を発動し続けた。
ルチアは、ウィザード・モードに切り替え、舞を踊るように、薙ぎ払い、魔法を相殺するが、それでも、完全に消す事ができず、魔法は、ルチアに襲い掛かる。
だが、その時だ。
クロウが、ルチアを抱きしめ、守ったのは。
水と地の魔法が、クロウの背中を切り裂いた。
「うあっ!!」
「クロウ!!」
クロウは、膝をつき、苦悶の表情を浮かべる。
二人は、一瞬のうちに、傷を負ってしまったのだ。
それも、深手を。
それでも、アレクシアは、ルチアに向けて、手を伸ばす。
魂を欲して。
「魂を……魂を……」
「アレクシア……」
正気を失っているアレクシアを目にしたルチアは、心が痛んだ。
アレクシアは、とらわれている気がして。
自分の欲望に囚われ、さまよっているように見えたのだ。
そう思うと、ルチアは、剣を握りしめる。
アレクシアを倒し、消滅する事で、アレクシアを解放するしかないのだと。
アレクシアは、全属性の魔法を発動する。
ルチアは、魔法を切り裂くが、やはり、全てを切り裂くことはできず、光と闇、華と雷の魔法に直撃し、吹き飛ばされた。
「うあっ!!」
壁に激突するルチア。
その衝撃により、聖剣を手放してしまった。
もう、アレクシアを倒すことはできないのだろうか。
いや、倒せたとしても、復活してしまうかもしれない。
自分達の戦いは、無駄なのではないかと、不安に駆られた。
だが、その時だ。
ヴィオレットの体を覆っている結晶が光ったのは。
まるで、ヴィオレットが、ルチアを応援しているかのように。
「ヴィオレット……皆……」
ルチアは、ヴィオレット達を見る。
ヴィオレット達は、目を閉じたままだ。
だが、確かに聞こえる。
ヴィオレットの声が。
「あきらめるな」と。
声を聞いたルチアは、聖剣を握りしめ、通常のモードとウィザード・モードを組み合わせた姿へと変身した。
それでも、アレクシアは、全属性の魔法を放とうとする。
ルチアは、聖剣を手にし、構えた。
ヴィオレット達を守るために。
だが、アレクシアは、魔法を発動しなかった。
なぜなら、クロスとクロウが、背後から、アレクシアを剣で貫いたからであった。
「がはっ!!」
アレクシアは、血を吐く。
それでも、クロスとクロウは、剣を抜こうとしなかった。
ルチアを守ろうとしているのだ。
だが、その時であった。
「ぎゃああああっ!!!」
絶叫を上げ、まがまがしい力を発動するアレクシア。
まるで、暴れまわるかのように。
その衝撃により、クロスとクロウは、吹き飛ばされた。
「……アライア」
ルチアは、暴走するアレクシア、いや、アライアを目にして、心が痛む。
魔神の力に執着した彼女。
そのせいで、哀れな姿となり、もう、正気を失っているのだから。
自分の手で、消滅させることで、アライアを救うしかないと覚悟を決めた。
地面を蹴り、アライアに向かっていくルチア。
アライアは、全属性の魔法を発動するが、ルチアは、蹴りを放ち、舞を踊るように受け流し、アライアの魔法をはじいていく。
それでも、はじききれず、怪我を負うが、ひるむことはなかった。
聖剣を握りしめ、ルチアは、振り上げる。
アライアを斬る為に。
「せいやあああっ!!」
ルチアは、力を込めて、剣を振り下ろす。
剣は、アライアを切り裂き、アライアは、血しぶきを上げながら、仰向けになって倒れた。
その瞬間、アライアは、精霊人に戻る。
だが、光の粒となって、消えかけていた。
もう、限界が来ていたのだろう。
なぜ、アライアが、復活を遂げたのかは、不明だ。
アライアが、何らかの方法を使って、復活したのかもしれない。
それでも、もう、アライアは、消える。
ルチアは、アライアの方へと視線を向けた。
「無駄だぞ……。私は、何度、倒しても、蘇える……」
「だったら、何度でも、倒すよ」
アライアは、不吉な事を告げる。
何度でも、復活するとは、どういう意味なのだろうか。
それを聞いたルチアは、宣言する。
何度でも、アライアを倒すと。
アライアは、笑みを浮かべながら、消滅した。
「ルチア……」
「頼む」
「うん」
クロウは、ルチアの元へ歩み寄る。
ルチアの身を案じて。
ルチアは、聖剣を握りしめた。
ヴィオレットを救おうとしているのだろう。
クロスは、ルチアに託した。
ヴィオレットの事を。
ルチアは、剣を掲げる。
すると、ルチアと剣が、光り始めた。
まるで、共鳴しているかのようであった。
「いっけええええええっ!!!!」
ルチアは、叫びながら、力を発動する。
すると、剣から放たれた光は、拡大していく。
その光は、ルチア、クロス、クロウ、そして、結晶の中で眠っているヴィオレット達を包みこむ。
あまりの眩しさに思わず、目を閉じるクロスとクロウ。
さらには、帝国全体をも包みこんだ。
光が止み、クロスとクロウは、目を開ける。
彼らが目にしたのは、聖剣を手にしたルチア。
そして、結晶から解放されたヴィオレットと赤い髪の少女、青い髪の少女、緑の髪の少女、黄色の髪の少女だった。
おそらく、彼女達も、ヴァルキュリアなのだろう。
ルチアは、ヴィオレット達を救うことに成功したのだ。
「わ、私は……」
ヴィオレットは、あたりを見回す。
しかも、魔剣を手にしたまま。
自分が、今、どういう状況なのか、わからないようだ。
ルチアは、ヴィオレットに抱き付く。
ヴィオレットは、何がどうなっているのか、未だに把握できなかったが、涙を流したルチアを見て、悟った。
自分は、ルチアに助けられたのだと。
その時だ。
金髪の女性と金髪の男性が、研究室に入ったのは。
「元に戻れたようですね」
「そうみたいだ。良かったよ」
ヴィオレット達を目にした金髪の女性と金髪の男性は、穏やかな表情を浮かべる。
安堵しているのだろう。
ヴィオレット達が、元に戻ってよかったと。
「わ、私達は、一体……」
赤い髪の少女は、あたりを見回す。
彼女達も、状況を把握できていないようだ。
当然であろう。
ヴィオレットですら、状況を把握できなかったのだから。
ヴィオレットから離れたルチアは、赤い髪の少女達へと視線を移して、微笑む。
かつての仲間達を再会を果たしたのだ。
うれしいのだろう。
しかし、突如、大きな揺れが起こる。
揺れは、収まらず、壁が崩れかけようとしていた。
「まずい、崩れるぞ!!」
「ここから、逃げよう!!」
クロウは、帝国が崩れると察したらしい。
あたりを見回したクロスも、察したようで、焦り始めた。
ルチアは、うなずき、ヴィオレット達を連れて、すぐさま、研究室を脱出した。
地下の魔法陣へと向かっていくルチア達。
だが、まだ、王宮を脱出できていない。
その時であった。
妖魔達が、ルチア達の前に立ちはだかったのは。
「っ!!」
「妖魔達が……」
ルチアは、思わず、立ち止まってしまう。
クロスは、愕然としていた。
こんな時に、妖魔が立ちはだかるとは、思いもよらなかったのであろう。
「こんな時に……」
クロウは、すぐさま、剣を抜き、構える。
焦燥に駆られながら。
妖魔と戦っている場合ではない。
だが、このままでは、全員、帝国と共に滅んでしまうだろう。
ルチア達を助けるには、自分が、残るしかないと考えた。
自分を犠牲にしようとしているようだ。
ルチア達に向かって襲い掛かる妖魔。
クロウは、床を蹴り、妖魔達に斬りかかろうとする。
もちろん、クロウだけなく、クロスも、剣を抜き、妖魔達に向かっていった。
しかし、妖魔は、突如、切り裂かれ、消滅する。
クロス達は、まだ、妖魔を斬っていないというのに。
一体、何が起こったのだろうか。
疑問を抱くルチア。
だが、妖魔が、完全に消滅した時、ヴィクトル、フォルス、ルゥ、ジェイクの姿がルチアの目に映った。
「よう、ルチア。助けに来てやったぜ」
「ヴィクトルさん!!」
ヴィクトルが、手を上げて、にっと、笑う。
なんと、ヴィクトル達が、駆け付けてくれたのだ。
ルチア達を助ける為に。