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とうをつくるおしごと  作者: こうせきラジオ
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章結譚 アズルーンの冒険2



        章結譚 -章を結ぶ物語-


         アズルーンの冒険2






 


 どうやら、この都市には冒険者ギルドがないらしい。



 アズルーンがそのことを知ったのは、探していたギルドにたどり着いたちょうどその時だった。


「え? 商会ギルド?」


 ギルド違いだった。


 確かに道中、道を訪ねた人には「ギルドはどこか」としか聞いてなかった。他の街ではなにギルドか伝えなくてもギルドと言えば冒険者ギルトのことだと言う共通認識があるので油断した。







 実際にはギルドがある街自体少ないので一概に言えないのだが、当然アズルーンはそのことを知らない。

 

 それを差し引いたとしても、商会ギルドが知名度で冒険者ギルドを上回っていると言うこと自体、オリアダル特有のものであった。



 本来、冒険者ギルドが扱う仕事は近隣住人からの依頼が多い。近隣の害獣駆除、薬や生活物資に使う素材の収集。ベビーシッターに独居老人の介護まである。

 冒険者と言うより何でも屋と言った様相である。

 それというのも、この世界にはもとより、野に凶悪な生物、俗に魔物と言われる存在が現れることなど稀なのだ。


 魔王も勇者も物語の中にしかいない存在であり、冒険者に対するイメージも同様、幻想のものでしかない。


 それでも冒険者が荒くれ者の集まりという固定観念は未だ存在し、だからこそ、ギルド側もその様なイメージを払拭するために地域密接型のオープンなギルドを目指している。


 積極的に地域の祭りに参加。ギルド内での飲酒を禁止し酒場は撤去、代わりに喫茶店を誘致することで対外的にも開放された空間を演出。雰囲気作りに気を配っている。

 あえて冒険者を抜いて『ギルド』と呼ばせているのもイメージ戦略の一環であった。

 『冒険者』ギルドと銘打ってはいるものの、その名は既に形骸化されたものでしかないのである。


 平和と文明化の影響が大きく現れた結果と言えなくもなかった。

 


 しかし、例外は常に存在する。


 古式ゆかしい古き良き時代の冒険者たろうとする者たちも少なからず存在した。

 そのような時代が存在したかは別として。


 英雄譚にあこがれ、一攫千金を夢見て、命を賭けた冒険を望む生粋の冒険者、社会の流れに乗ることが出来ない時代の落伍者達。


 そんな彼らが生きれる世界、それが魔術師の塔である。


 身一つで強大な敵と戦い、価値ある素材を持ち帰る。塔を制覇出来れば得られる物は計り知れない。

 そんな夢のような世界が目の前にあった。



 当然ながら、冒険者ギルドとしてはせっかく築いたクリーンなイメージが崩れることを嫌がった。

 塔の探索を望む冒険者は全体に比べて圧倒的に少数なのだからさもありなんと言ったところである。


 しかしながら、塔の冒険者も組織的な援助がなければ生活することは出来ない。素材の売却ルートを個々人で確立するのはあまりにも非効率的であった。




 そんな双方の問題を解決する手段、それが商会ギルドだった。


 商会ギルドが冒険者ギルドの仕事を代行する。


 もとより塔の冒険者は素材収集に特化している。商会ギルドとしても素材を定期的に確保出来、窓口を一元化することで手間を省けることは喜ばしいことであった。塔の冒険者としても組織的支援を受けられ、冒険者ギルドも対外イメージを損なわず、冒険者へ援助している体裁も保てる。


 三者三様の利益を守ることが出来る妙手であった。

 

 故に。だからこそ。

 魔術師の塔が近くにある都市には冒険者ギルドが存在しないのだ。


 ただ、その実情を知る者は少ない。


 冒険者としては援助を受けられるならその母体がどこであってもどうでもいいことであったし、両ギルドとしても積極的に喧伝することに利益がない。

 特段重要な秘密ではないが、知られないならその方がいい。そういった部類の話であった。



 だからこそ、アズルーンが勘違いしたことも、道案内した者が商会ギルドを案内したことも、仕方の無いことであった。



「とりあえず、入ってみましょうか」


 大して躊躇することなく、ギルドへと進んでいくアズルーン。ちょっとやそっとじゃ動じない女なのだ。

 深く考えてないだけかも知れないが。



 明るい色の木製の扉を開くと、正面に円形の机。『総合案内』と書かれたプレートを胸につけた女性がニコッと微笑んで立ち上がる。


「いらっしゃいませ。よろしければご案内いたしましょうか?」


 腰程まであるウェーブがかった赤髪がまるで燃える炎のような艶やかな色気を醸し出している。凹凸のはっきりした体のラインにピッチリと合わさった黒のパンツスーツが、彼女の赤をさらに鮮やかに彩っている。


 自分にはない、あこがれの理想像とも言えるその姿に圧倒され、見蕩みとれてしまう。思わず唾を呑んで、次いで自分の体を見て涙を呑んだ。


 無意識に、無造作に切られたえりあしを指でいじる。



「あの、どうかなさいましたか?」


「あ、ごめんなさい。ちょっとぼーっとしちゃいました」


 赤髪の美女は軽く首をかしげたが、追求しようとはせずに再び微笑んだ。かしげる姿すら美しい。


「そうでしたか」


「うっ!」


 だめだ。これ以上あの笑顔を受けてしまったら、やられる。


 何がやられるのか全く不明だが、美女の笑顔に危機感を持ったアズルーンは早急に本題を告げることにした。


「あのあの、ここってギルドですよね?」


「はい。向かって右手にありますのが商会ギルド受付となります」


「仕事あります?! 私、なんでもやります!」


「はい? ああ、そういうことですか。失礼ですけど、オリアダルにいらしたのは初めてですね」


 少し考える仕草をして、すぐに答えにたどり着いたのかアズルーンの質問には答えずに問い返す美女。


「え? あ、はい。そうなんです。冒険者ギルドを探してて道を教えて貰ったらここに着いたんですけど。商会ギルドで………でも、他にギルドはないって言うし」


 質問返しと素性を詮索すると言う二重の失礼に、むしろ何のことかわからず首をかしげた。かと思えば、次の瞬間には肩を落としてうつむいてつぶやく。いい年して迷子な自分が恥ずかしかったのだ。 コロコロと表情が変わって忙しい。

 

「でしたらこちらで間違い御座いません。他の街で言うところの『ギルド』の役割もこちらで担っております。正式名称は『商会ギルド』ですけど、この町ではギルドの方が一般的ですね。

 依頼内容は塔関連に特化しておりますけど、他の仕事も紹介できますよ」


「へぇ~。商会ギルドなのに変なの。なぜなんです?」


「初めて来られる方は皆さん、そう仰いますね。この町に暮らしていると自然なことなのですが。申し訳ありませんが、私どもも詳しくは知らされていないのです。権利上の問題だとしか。冒険者ギルドから出向している職員もいますので、利用される上で大差はありませんよ」


「そっかぁ。じゃあ、仕事紹介してもらえますか?」


 わかったような、わからなかったような曖昧な反応のアズルーンだったが、その質問も反応も受付をしているとよくあることだったので美女も笑顔でスルーした。


「こちらの利用は初めてとのことでしたので初回登録が必要になりますが、なにか身分の証明となる物は御座いますか?」


「身分証………」


 アズルーンの表情が曇る。


「ずっと旅をしてたから、最低限必要な物しかもってないんですよね。今あるのは、干し肉ぐらいしか…………」


 不安げな顔で干し肉の入ったカバンをぎゅっと抱きしめる。オモチャを守る子供のようだ。


「流石に干し肉ではダメですが、証明書がなくても問題ありませんよ。もとより持ってないかたほうが多いですから。ただ、ある程度の期間、紹介できる仕事も限られてしまいますが」


「本当ですか?! 構いません! もう、ぜんぜん問題ないです!! 生きるためなら覚悟は出来ています。ドブさらいでも、借金の取り立てでも、地上げでも何でも出来ます」


 一転、満面の笑みを浮かべて前屈みに詰め寄る。笑顔にも関わらず、その瞳にうっすらと闇が見える。


「い、いえ、ちゃんとした仕事も紹介出来ますので、そこまで思い詰めなくても大丈夫ですので安心して下さい。ですが………塔関連でなくてもよろしいのですか? 帯剣されているようですが」


 ちらりとアズルーンの腰元に視線を移す。その腰に左右に長短一対の剣が下がる。


「ああ、これですか? そうですね。いずれ挑みたいとは思ってます。と言うか行けるなら今すぐにでもとは思ってますけど、流石に資金も情報もありませんので」


 長剣の柄を優しく撫でつつ、へへっと笑って頬を掻く。


 その仕草だけで特別な物とわかる。


「そうでしたか。でしたら、住み込みで出来る仕事を紹介しますので、そちらで働きながら情報収集となさってはどうでしょう?」


 美女もプロだ。いらぬ追求はしない。


「え?! そんな仕事があるんですか?」


「はい。ちょうど、一件御座います。塔の仕事に理解があり、時間の融通が利き、情報も得られるお仕事が」


「そんないい仕事が? なんなんです? その仕事!!」


 詰め寄るアズルーンをいなして美女は両手を広げて指し示す。


「こちらです」





(続)

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