四作目まで来ると迷走しだすが、それは作者もわかってる~少女は説明責任を果たそうとする~
「ここは異世界。君にはこれから…………塔を作ってもらいます!」
「はぁぁぁぁぁ?」
困惑の声が響き渡る。大して大きな声ではないと思ったがここにいるのは俺とエルの二人きり、音を遮る物は何もなく、つまり、すごい響く。反響する。自分の想像以上に、自分の叫びが響いて聞こえる。
視力が回復して初めてわかったのだが、ここは大体10㎡くらいの広さの部屋だ。
先ほどまで転がっていた床と同様、壁も天井も石造り。家具はおろか装飾の類いも一切無く、地のままむき出しになっていて生活感は見当たらない。天井には梁も継ぎ目もなく、まるで一枚の岩を切り出したかのようだ。
レンガ作りの場合アーチ状に組むか梁を通すって聞くし、岩の切り出しにしても柱一つなくて、自重とか大丈夫なのか?
わかっている。そんなことを考えている暇ではないことは。だが、考えたかった。逃避したかった。それほどにも、衝撃的な、あるいは理解不能な事を告げられたのだから。
まったく、我ながら相当な間抜け面だったと思う。でも仕方ないだろう。
お互い、自己紹介はしたものの初対面の少女の無意味な無駄話に付き合わされたあげく、変態呼ばわり&足蹴にされるコンボを食らい(自業自得)、どや顔で異世界で塔を作るとかわけのわからない事を告げられたのだ。
誰だって、はぁ?と言う。はぁって思う。
『何言ってんだ?このメ○ヘラ女。バカじゃねえの』と言わなかっただけ、褒めてほしい。むしろ褒めろ。……………褒めてください。
「ん?聞こえなかった?ならもう一度、んんっ―――君にはこれから………塔を作ってもらいます!!じゃじゃーんっ!!」
「………」
「君にはこれから………塔を作ってもらいます!!じゃじゃ~んっ!!!」
「………」
「君には―――――」
「聞こえてる!そう何度も同じ事言わなくて良い」
お前はファミコン時代のNPCか。はいと言うまで一生続く無限ループか。村人全員同じ事を言うのか。膝に矢を受けてしまったのか。あと、じゃじゃーんって口で言うな。こっちが恥ずかしい。
「あ。そう?いや~全然反応しないから聞こえてないかと思っちゃった。あ~焦った~。あと、十回も無反応だったら心が折れてたよ。その前にわかってくれて良かった~。じゃ、そういうことだから。よろしく」
矢継ぎ早に言いたいことを言う。気持ちさっきよりも早口だ。あと十回も繰り返せるなんてどれだけハートがタフなんだよ………。よく見ると少し顔が赤くなってる。やっぱり恥ずかしかったのかもしれない。
いや、そんなよりも………。
「ちょっ、まてよ」
「え?キムタ―――」
「違う!!『そういうことだから』じゃねぇよ。」
「うん?………ああ。アンコール?欲しがるねぇ、君も。じゃあ、君にはこ―――」
「それはわかったっ」
「じゃ、よろしく~」
言うが早いか、話は終わりとばかりに切り上げようとする。ああ、もう全然話が伝わらない。進まない。
「待て待て待て待て。違うって。そうじゃない。どこに行くのか聞いてるんだよ」
「え?研究室」
「なんで?」
「だって、伝えること伝えたし。わかったって言ったじゃない。あとは君が行動するだけ―――」
「言葉が伝わったかと内容が伝わったかは別問題だぞ。まったく全然、これぽっちもわからない。塔ってなんだよ。塔を作るってどういうことだよ?」
「へ?………あぁ、そっか。こっちの人じゃないものね。そりゃ伝わらないか。ごめんごめん」
本気で忘れてたのかよ。さっきからどうでも良いことは止めても止まらないくせに必要なことは一切伝わらない。話し下手か。勘弁してくれよ。
「こっちじゃそれで一発で伝わるんだけどね。向こうにはそう言う文化ないんだっけ?う~ん、ややこしいね」
「そう言う文化?塔を作るって話の事か?それにこっちの人?そもそも、ここどこだよ。異世界がどうのって言ってたけど………」
「わかったわかった。しようがない。説明してあげるよ。ただ、どこまでわかってないか僕もわかんないから。ざっと説明するけど、もしわかんないことあったらその都度そっちから聞いて」
肩をすくめて仕方なさそうに首を振るエル。まるでふう、やれやれとでも言うように―――
「ふう、やれやれ」
言いやがった。だから、なんでそんな上から目線なんだよ。正直、イラッとしたけどこれ以上突っ込んでも話が進まない。ここはこっちが大人になってやるとしよう。大目に見てやるとしよう。
「ん?なんか今、イラッとしたな………まあ、いいや。大目に見てあげるよ。さて、と。んん~。なんて言えば良いかな?え~と………」
「おい………」
「ちょっと待って。今考えてるから………ああ、そうそう、あれだよ、あれ。えーと、いわゆる召喚てやつ?」
「待て」
「待つよ」
「召喚って言ったか?召し喚ぶと書いての召喚か?」
「そうそう。召す喚すとも読む召喚。オスオスとは読まない。」
「まてまてまて。ちょっとまてよ、おい。バカ言うなよ。召喚?んなもん現実にあるわけないだろ。」
「そんなこと言われてもなぁ、本当なんだからしょうがないでしょ。我思う故に我あり。これ現実、そう思うから、ここ現実。夢と現実の判別方法はしらない。胡蝶の夢の話でもする?いい加減、この例も漫画にゲームに様々なコンテンツで使い古された感があるから恥ずかしくて、あんまり使いたくないんだけど。
現実の証明ってどうやるんだろうね。明晰夢は夢の話だしね。妄想幻覚も当事者にとってはそれすらも現実だけど、それは他者と共有できないもんだ。共有できないのであれば、他人にとっては現実ではないとも言える。認識に齟齬が出てるからね。
共通認識にはなり得ないのだとすると、個人的な現実ではあるかも知れないけれども、社会的な現実にはなり得ない。そうなると個人的現実と社会的、あるいは集団的現実は別物とも言える。人の数だけ現実がある。集団の数だけ現実がある。現実が複数存在する事になってしまった。さあ、どうしたものだかねぇ」
「いや、そんな概念的な話を聞きたいわけじゃないんだけど、さ」
なんだ。さっきの無駄話とは違う意味で、えらく饒舌だ。それに、俺と話しているように見えて全然俺を見ていない。目に映っていない。
「『現実の証明』とかちょっと面白そうなテーマだね。リアルとバーチャルも今後、その垣根がどんどん曖昧になっていくだろうしね。その片鱗はもう見えてきているだろうね。VRとかどうなっていくか楽しみだよ」
「………………いい加減、帰ってきてくれ」
「ああ、ごめんね。まあ、それは置いても最近は増えてるって聞くよ。異世界召喚」
「そんな一時期の流行みたいに言われても………」
「たいていのことは異世界だからって言えば通るし、召喚か転生させとけば現代語使ってもごまかせるって」
「メタ過ぎるだろ!」
「特にニホンでは稀によくあるって。ニホンの人?」
「稀によくあるって言葉として矛盾してるだろ………。いや、確かに日本は生まれた国だけどさ………」
「じゃあ、大丈夫だよ。ニホンなら何が起きても不思議じゃないって。有名だよ」
「どこでだよ!」
「インターネット」
「つながんの?!」
「wifi飛んでる」
「wifi!?マジで!?」
「ほら、そこ、あそこに」
「見えてんの?wifi!」
「まあ、冗談だけどね」
「どこから?!どこから冗談で、どこから本気なの。………無視すんな!」
wifi飛んでんなら、なおさら異世界感がない。いろいろ台無しだ。そんな異世界見たくない。ここがどっかのビルの一室だと言われた方がまだ信じられる。異世界召喚なんて不思議体験がそうそう起こってったまるもんか。
「みんな行きたいんだよ。違う世界に。出来れば、俺Tueeeeで」
「遠い目して語んな」
(続)
長くなったので分割。続きはすぐ本日中にします。