28には二羽鶏が丹羽と二話の話でにわにわわらいあってる。にわっ! ~やはり、あいつは強かった~
身を伏せてゆっくりと、距離を詰めてきたのだろう。それこそ、隠れる場所ならいくらでもある。
くそ、まずった。そうだよ。ここは草原、それも胸の高さまで隠してくれる。隠れ放題じゃないか。そんな中、バカみたいに丈の低い獣道を歩いていれば、いやでも見つかる。見つけてちょうだいと言ってまわっているようなモノじゃないか。
どうしよう。いや、決まってる。逃げなくては。どうやってか、ここを凌いで全力疾走。……………出来るか?こいつがどれだけのスピードで追ってくるかわからないぞ。亀なら足は遅そうなイメージだが…………どことなく、遅そうな顔をしているな。
走るか。
どこへ?森は…………無理だな。森には教授達がいる。実際に矛を交えたからわかる。教授達は被食者側だ。喰われないように群れている。多くの動物と紛れて、少しでも喰われる確率を減らそうとしている。そうでなければ、あんな爆発だらけの森に住まないだろう。
獅子甲羅は捕食者。圧倒的強者だ。敵はいない。天敵がいない種でなければ、あんなに堂々と岩場に陣取っているはずもない。強者ゆえの余裕、あれはそういうものだろう。それに、そもそもが森は遠い。論外だ。
(やっぱり扉しかないか。やつが場所を覚えてしまう可能性がある以上、連れて行きたくはないんだけど、仕方ないか。どうにかして扉にたどり着いて、中に逃げ込む。あの巨体だ、扉につかえて通れないはず)
そんな、今後の方針を考えている間に、獅子甲羅は草間に伏せるステルスモードを解除、四肢を大きく左右に開いて俺の出方を覗っている。重心を低くし地面にどっしりと構えて、俺を蛇の様な両目から片時も離さない。まるで睨みをきかせる相撲取りのような臨戦態勢。少しでも目をそらしたら、その瞬間飛びかかってきそうだ。
あまり時間をかけてもいられない。そのうち岩場の連中も気がついて集まってくる。囲まれたら対処のしようがない。まだ一匹のうちに、逃げ道をふさぐこいつをどうにかしなければ。
扉に戻るにはどうしても、あいつの追撃を避けなければならない。どうにかあいつの気をそらさないと。
(石をあいつの脇の草間に投げて音を出す。そっちに気を取られた隙に…………無理。じっと俺の動きを見てる。投げたところで気にもかけないだろう。…………何かないか。あいつの気をそらせそうな、なにかが!)
動けない。少しでも動けば、その瞬間喰われる。そんなイメージがグルグルと回る。はあ、はあ、と荒い息が聞こえる。やつか、と思ったが俺の息のようだ。手に汗がじわっと広がってる感覚がある。蛇に睨まれたカエルとはこういうことを言うのかも知れない。
動けない。
硬直してしまった俺とは反対に獅子甲羅は焦れてきたのか、首を伸ばしてさらに体を大きくして俺を威圧する。自然と仰ぎ見ることになった俺は、上からたたきつけられるような視線に震えが止まらない。恐ろしくってたまらない。
(あ、俺、ビビってる。完全にビビってる。流石にこの状況で他人事じゃいられないか)
と、思ってその考えそのものが客観的なものだと気づいて思わず笑みがこぼれる。震えて、硬直しながら浮かべる歪な笑み。
その表情の変化を威嚇と感じたのか、獅子甲羅はさらに大きく体を伸ばして咆吼。大きく口を開き、俺にその巨木のような首を伸ばす。
鋭い牙が迫ってくる。
(あ―――――)
流石に三度目となると、走馬燈で流れる記憶も品切れ。閉店ガラガラ。毎度のご愛顧ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。
記憶の代わりにくだらないことが頭によぎる。妙なことを考えつつも、体はとっさに、反射的に逃げようとする。が、手と足と体と頭その他諸々(もろもろ)様々(さまざま)なモノの統制されず、各々勝手な行動を取る。
右手は掴む物を探して所構わず振り回し、左手は迫る牙の前に突き出して肉盾と化し、腰は逃げようと身をよじり、頭は少しでも遠ざかろうと後ろにそらす。右足は右手に釣られてバランスを崩し、左足には草が絡みつく。そうして、倒れる。後ろに、尻餅をついて。
死んだ―――――。
迫りくる大口。逃げられない我が身。どうしようもない状況。そうしてやっと。
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
頭と体が一致した。文字通り足掻く足が地面を削る。石でも草でも手に取る物を何でも投げつける。のどが潰れるほど大声で叫ぶ。もうダメだ。目と鼻の先に牙が迫る。
(あ、口の中紫色…………)
目がそんな暢気な発見をしたそのとき、物を投げつけ足掻き続ける手に、ほどよい重量を感じてとっさに掴んで、迫りくる口の中に投げ込む。
思わぬ反撃に、侵入してきた異物に驚き口を閉ざす獅子甲羅。次の瞬間―――――。強烈な破裂音。
目の前の、閉ざされたばかりの口の中で何かが弾けた。内側からの衝撃に耐えられず、巨体が地に沈む。大地をズンッと揺らす。
だらりと垂れた舌。紫色の口腔は、さらに深くその色に染まり、嗅ぎ覚えのある匂いを放つ。
(この匂いは…………)
覚えのある匂いに、ふと足下を見る。砲戦果が転がっていた。二つ。昨日よりもさらに赤く色づいてきた、うっすらと緑色の残った爆弾が、転がっていた。どうやら、砲戦果の房を丸ごと突っ込んだようだ。
朝はまだ爆発の危険性は低いと思っていたが、時間経過と共に熟してきていたのだろう。残った二つの果実も、赤みを増している。こちらはまだ自爆モードには入っていなそうだが、衝撃を与えればいつ破裂するかわからない。
(どちらにしろ、不幸中の幸いだな)
獅子甲羅に目をやる。白目を向いて地面に倒れ込んでいる。時折ぴくぴくとけいれんしている。どうやら死んではいないようだ。
(とどめを刺せれば、安全なんだけどな)
残念ながら手段がない。急いでここを離れるくらいしか出来ない
「と、いうか実際急いで離れないと。今の音を聞いて集まってくるかも知れないな」
気絶した獅子甲羅はそのまま放置、急ぎその場を立ち去ることにした。
(続)