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とうをつくるおしごと  作者: こうせきラジオ
26/55

「26ふむ、成るほど」上司に向かって使ってんじゃねえええぇぇぇぇぇぇぇ!!! ~次いで始まるトラウマ暴露~











 朝、起きた。実際に朝かはわからないが。

 昨日から何度も太陽を見ているのだが、ぜんぜん動いている気がしない。いや、絶対動いていない。あれだけ大騒ぎしたのだから、昼だったら夕方になるし、朝だったら昼になる。当たり前だ。当たり前のはずなのだ、が……………。


『時計がなければ太陽を見ろ。遙かな昔、人々は太陽と星の動きで時を知ったのだ』なんて話も、ここじゃ無意味だな。動いていない以上どうしようもない。

 そもそもが、太陽を見て時間を割り出すなんて能力、現代日本の若者が持ってるわけもない。ボーイスカウトでも自衛隊レンジャー訓練でも受けていれば話は別だが、あいにく受けた記憶はない。もしかしたら、溺れた後遺症によって記憶喪失になったエリート特殊部隊の隊長で、これから徐々に記憶を取り戻して、俺Tueeeeeな展開になる可能性も万に一つないとは言えないが………。ないな………。そんなうまい話そうそうないだろう。


 知識としてそういうことが出来ると言うことと、実際に行えるかと言うは別物。空を見ても『うん。今日も晴れてるっ』くらいしか思わない。むしろ、まじまじと空を見ることすら、最近ではそうそうあるもんじゃない。

 まあ、いいか。明るくて周りが見やすいってだけで、とりあえずはいい。それこそ農業するわけでもなし、会社や学校があるわけでもない。文化から断絶させると言うことは、正確な時刻を知る必要もないと言うことと同義だ。そういう意味では俺は得したのかもしれない。俺は刻の支配から脱却したのだ!!そんな感じ!!



 はあ、行こう…………。



 今日は昨日とは反対、岩場の方へ向かう予定。人がいるかは、期待していない。期待するだけ損だろう。期待して失望するより、初めから期待しない方が失望ダメージが少ない。出来るだけダメージは負わない様に生きたい。俺はコスパ重視の現代っ子なんだ。


 だから今回は、周辺状況の確認が目的だ。扉の周りにどんな物があるのかを、出来る限り知っておきたい。やれるときにやれることをしておかないと、後でツケを払わされる事になりかねない。


「こんな状況じゃあ特になぁ」




 砲戦果の実を食べて、生存の道が見えてきたからだろう。欲が出た。食欲が。肉が食べたいと言う欲求が出てきた。かぶりつきたい。肉汁をじわぁっと口に含ませたい。硬い肉を食いちぎりたい。果物だけでは栄養全てをまかなえないのも事実。


 既に森に多種多様な動物がいたのは確認済み。そこで狩りをしたらいいじゃないかとも思うのだろうのだが、それは無理。

 森の動物にはもう、情がわいてしまった。戦争して温泉に入って、一体感を感じてしまった。そうなったらもう、普通に考えて………出来ないだろ。昨日一緒に温泉に入ってたやつを、今日絞めて、解体、肉を喰うなんて俺には出来ない。


 だって、動物を殺したことなんてないんだから。犬猫は事件になるから当然として、鳥やネズミも殺したことはないんだ。ペットが病死したことはあるけど、害意を持って殺したことは、一度もない。

 考えてみて欲しい。ハムスターやハツカネズミとか、想像しやすい動物でいい。学校、或いは職場で、『俺、子供の頃ネズミ殺してたんだぜ。駆除とかそんなんじゃなくて、ただ殺して、解剖とかしてたんだ。ははっ』………………どう思うよ。俺なら引く。『ふーん。そうなんだ~』なんてぼやかして、距離を置く。だって、ヤバいやつじゃん。今の世の中、下手に殺したら、動物保護団体が黙ってないし、ネットに上げようもんならサイコパス扱いで大炎上だ。害獣駆除目的だって叩かれるのだから、リスクが大きすぎて、普通はやんないよ。業者に任せるよ。

 昭和世代が遊びで、カエルを生きたまま解剖したとか、肛門に爆竹刺してカエル爆弾にしたとか、話を聞くだけで無理。

 そう言うのは平成世代には無理ですから。いや、昭和後期世代も無理だろう。ハードル高すぎデスヨ。


 そんなんでどうやって肉を確保するんだって自分でも思うけど………とりあえず、森の動物は無理。少なくとも昨日の今日は無理。出来ません。絶対。そんなすぐに覚悟は固まりません。


 そんなんで生き残れると思うなよ。野生舐めんな。なんて意見もあるだろうが、俺には無理だよ。野生に生きてないもん。



 昔、視聴者応募で集めたシロウトを無人島でサバイバルさせるテレビ番組があった。一、二週間ゲームをしながら、一定の周期で参加者たちの投票で、追放者を決めさせる。そうやって、最後の一人になるまで続けて、残った一人が優勝、賞金ゲット!ってやつ。


 詳細は記憶違いがあるかも知れないけれども、だとしても、だったとしても。それを見て、俺は引いた。どん引きしたんだ。


 今でも、頭によぎることがある。何日目だったか、何かのお祝いで豪勢なパーティをしようという話になって、鶏を絞めることになった。野生の鶏だ。ヤラセだったのかも知れないけど。少なくとも、視聴者としては野生で生きている鶏。みんな、久しぶりの肉だったのだろう。盛り上がっていた。

 だが、参加者の男性の一人がその鶏を絞めることが出来ず、わざと逃がした。当然ながらその男性は次の投票で追放されたが、その時の追放者の言葉が今も残ってる。

『彼はこの真剣勝負に相応しくない。私たちは遊びでやっているのではない』『弱い人間はいらない』『みんな犠牲の上で生きている』とかなんとか。

 確かに、賞金は多額だった。命は金より重いものだ、なんて言うつもりもない。スーパーに行けばもっと手軽な値段で、安売りされているのだから。

 けれども、それでも。それは果たして、そこまでするほどの真剣勝負なのか。そこまで、敵意丸出しにするほどの真剣勝負なのか。その賞金は、自分の醜い部分を全国放送で流してまで、手に入れる価値のある金額だったのだろうか。ああ、この人はこうやって人を裏切るんだと、他人に知られる価値のあるものなのか。


 欲望のままに、本能のままに、美しさとか誇りとか信念とかプライドとか外聞とか羞恥心とか体裁とか、そういうものをかなぐり捨ててまで得る価値があるものだったのだろうか。

 確かに野生は厳しいのだろう。弱肉強食なのだろう。でも、彼らは違ったはずだ。日本という理性と知性によって形作られている現代に、その感情は強すぎる。


 さらけ出される人間の本性の中で、鶏を絞めることが自分には出来ないと、涙して逃がした男の弱さに、排除されるとわかっていても思いを通した強さに、ほっとしてはいけないのだろうか。

 強烈な野生と理性と知性の中で踏みとどまった男を、情けない男と断じたのを見て、俺は、子供心に、引いたんだ。


 足を引っ張る無能な人間と、自分を脅かす優秀な人間を真っ先に排除していくその人間性に。仲良く笑って過ごしていながら、その友人に投票する裏切り行為に。それを見世物にして、エンターテイメントとして、面白いと思っている制作者の気持ちがわからなくて、そのなんとも言えない気持ち悪さに、引いた。人間の、本質を見せつけられた気がして、引いたんだ。


 だからかな。肉は無理だと思う。少なくとも今は。捌けないって、技術的な問題もあるけれども、犠牲にすると言う覚悟的な問題も含めて。無理。

 これが、他に何も食べれるものがない状態だったらわからない。飢えて飢えてソレしか食えるモノがないのなら、決断するしかないのなら、俺はきっと覚悟を決めるのだろう。でも、今は出来ない。少なからず、満たされてしまったから。砲戦果をいう代用品があるから。手にしてしまったから。食えるものがある中で、そういうことをする覚悟は、まだつかない。


 植物だって生き物だろ、なんて意見も聞くけど、ソレを言う人はみんなソレで納得出来てるのだろうか。その一言で、割り切れているのだろうか。だって、その一言を言えると言うことは、動物を愛でるのと同じように植物を愛でていると言うことになる、道ばたの花を踏みつける無関心と同様に、動物も扱えると言っているようにも聞こえて、果たして自分がそうできるかと振り返って見て、ああ、俺は出来ないなと思ってしまう。どこかで線引きをしている自分がいるんだ。だから、そんな言葉で納得できない。知ったことを言って、思考停止しているのではないかと考えてしまう。



 そうして、そんなことを思いながらも『魚が取れるところはないかな?』なんて考えてしまっている自分がいる。動物と魚の違いはなんなのだろう。食べ物とそうでないものの違いはなんなのだろう。なぜ、動物は無理で、魚は良いのか。

 そんな事を思いつつ、でも取れれば食うのだろうな、と思ってしまう自分がいる。考えて、考えて、考えて。


 答えはまだ、出ない。









(続)


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