2る3も、時には価値がある。中途半端はただのゴミ。 ~ドキッ!!獣だらけの混浴温泉!?サービス回は突然に~
温度は低いが、確かに温泉だった。泉のどこかに源泉があるのか、滝の上から流れ込んでいるのか。どちらにしろ、ぬるいのはありがたい。気持ちいいし、汚れもよく落ちる。
動物たちは互いに体をぶつけ、こすりあって匂いを落としている。俺も先に服を洗うことにした。揉んで、手頃な石でこすって叩いて果汁を出す。水につけた途端に泉はしみ出た果汁の薄紫色に染まる。
(大丈夫かこれ。水生生物に影響とか出ないのかな)
そもそも温度の高い温泉では魚とかは住みにくいんだっけか、そんなことを聞いた覚えがあるけど、実際どうなんだろ。ま、まあ砲戦果も天然素材だし、問題ないだろう。そうに違いない。考えない、考えない。
ある程度、色を抜くことは出来たけれども、完全に抜くことは無理そうだ。出しても出してもまだ、しみ出てくる。もう、手が青いのか、服が青いのかわからない。
「先に体の色を落とすかな?」
手の色を移しているようにも思えて、手をこする。体をこする。
が、なかなか付いた果汁が取れない。手のひらの果汁と体の果汁をすりあわせているだけのようになっている。
タオルとかあれば良かったけど、残念ながらそう言う物はない。全部、船に置いたままだ。仕方ない。服でこするか。パンツ…………は流石に無しだな。シャツ、いや靴下にしておくか。
靴下に手を入れて、手袋のようにして体をこする。冬用の厚手の生地だから、肌触りはボディタオルと似ている。石けんがあればなおよかったが、流石に無い物ねだりだろう。
一応、木の棒でこすることも考えたけど、もし漆のような特性の木だっだ場合、ひどい目にあうのでやめておいた。砂も同様。ちょっとこすってみたら、肌にひっかき傷が大量について痛かった。
結局その後、再び服を洗ったが、どうしても藍染めのような薄青色がまだらに残ってしまった。匂いは、落ちたかどうかわからない。鼻がきかなくなっている。とりあえず、落ちたとしておこう。ダメだったら、あとでもう一回やる予定だ。
後はゆっくり浸かるか。もう少し温かいとありがたいんだけどな………。せめて、肩まで浸かりたい。深さが股下あたりまでしかないから、水に濡れた体が余計に寒く感じる。中腰になればなんとか肩までつかれるけれども、しんどい。
立てば足りない。座れば沈む。ほどよい姿勢は腰にきつい。
なんともままならないのは人の世の常。
あれ、そういえば教授たちがいない。背が低いから沈んでしまったのか?所詮、猿か?と、思ったが違った。ごめん、馬鹿にした。 彼らは森から出てきた。全裸で。いや。猿は初めから全裸だけど。みんな、人の頭ほどの大きさの何かを抱えている。茶色のそれは何かの種か実だろうか。形だけで言うならクルミとかヤシの実とかそんな感じ。それを一個ずつ抱えている。小猿は親猿が抱えているものの上で手を広げていて乗っかってて………本人は抱えているつもりなのだろうが、乗っかっているだけで重りにしかなっていない。
(なんだあれ?)
何をしているのか気になってそのまま眺めていると、今度は尖った石を拾ってそれを叩き始めた。ご乱心か?みんなしてガンガン叩く。一心不乱に、力一杯しこたま叩いて、叩いた後は石を捨てて、それを抱えながら泉に入ってくる。
何をやっているんだ。気になって教授たちの近くに寄ってみる。近づくにつれ、泉の中で不思議な変化が起こった。
(あれ?)
見ている分にはなんの変化もない。しかし水の中に入ってみると一目瞭然。見えていないのに一目瞭然。それはなんだと聞かれたら、あったかいんだ。あったかいんだから。
水の温度がまるで違う。まさに、これぞ温泉というべき温度まで教授たちの周囲だけ水温が上がっている。
なんで?いや、それは愚問だな。教授たちと他の動物の違いなど一つだけだ。あれだ、あの種だか実だがわかんない茶色いもの。あれしか考えられない。
(面白そうだ。俺もやってみよう)
泉から出て、教授たちが出てきたあたりへ向かう。もちろん全裸だ。もう、全裸へのためらいはなくなっている。もしかしたら俺は元から裸族だったのかも知れない。服という常識の鎖から解き放たれ、あるがままの姿に戻る。嗚呼、俺は今、全てから解放された。君よ立て。服を脱ぐのだ。
問題があれば自主的にモザイクでもかければいい。現代日本人は日々モザイクを外そうと、その妄想力を鍛えられているので、反対にモザイクをかける事くらい容易だろう。見えない物を見えるように想像するのは難しくても、見える物を見ないのは簡単なことだ。気持ちの問題だ。
裸で森に入る。流石に奥まで入るのは怖いから、泉が見える範囲で木の根元とかを中心に探してみる。
「見つからないなぁ。木の上とかだったらちょっと無理そうなんだけど…………」
目的の物を探して天を仰ぐ。もちろん全裸で。片手は木に、片手は腰に。足は肩幅。背筋はピンッと。誰も見ていないのにポージングを取ってしまう自分がいる。自分が思う格好いい立ち方、全裸バージョンだ。そんなことをしても見つかるわけはないのだが。
「ないぞ。ちょっと、教授!それどこで見つけたんだよ~」
温かくなった泉に浸かり、目を細めている教授に声をかける。ご教授願う。
「…………キイ~~?キッ」
面倒臭そうに鳴いてそっぽ向かれた。手を払ってうっとうしそうな顔だ。
「やろう………」
石でも投げ込んでやろうか。ちょうど目の前に投げやすそうなもんが落ちている。佐藤選手、石を拾って、振りかぶって投げ―――――。
「って、これじゃないか」
投げようとした物が、たまたまお目当ての物でした。なんてご都合主義。何はともあれ目的の物を手に入れた。見た目より重くない。中身が詰まっている訳でもなさそうだ。人の頭大のモノの中に、中身が詰まってないと言うのはある意味人間に対する皮肉にも聞こえるな。
「みんなピーマン」
思い浮かべて独り、ニヤリとしてしまう。まあ、それはいいとして、いつまでも全裸で歩いていると言うのも、背徳的で気持ちが良くなってくるが、これ以上特殊な性癖が芽生えてしまっても困る。早々に泉の中に戻ることにしよう。だいたい人が誰もいないとわかりきっているところで背徳的もなにもない。他人がいるからこそ、背徳性が生まれるというものだ。
《手遅れみたいだね。紳士》
また何か聞こえた気がした。やっぱり、寂しいんだろうか。
教授たちと同じように種を抱えて泉に戻る。少しでも暖かい方がいいので、教授たちの近くに近寄っていく。
よっと、お隣お邪魔しますよ。…………そんなにイヤな顔しなくてもいいじゃん。いや、メスを遠ざけなくても、いくらメスでも、サルに興味はないわ。
冷たい教授を横目に、種を抱えて中腰になるが、一向に温まらない。それどころか種が浮き上がろうと揺れて安定しない。中身が入ってない分、浮力が強い。真夏の海水浴場で、ビーチボールを海に沈めようと頑張って体を押しつけている感じ。気を抜くとするっと抜けて逃げてしまうアレだ。
小さい子がボールに逃げられた勢いで沈んでしまって、浮かんできた時のきょとんとした顔を見るとほほえましくなる。これが美少女だったらと考えると、別の感情が芽生える。おっといけないいけない。今は全裸だった。
ちなみに、あえて『真夏の』という言葉を加える必要があったのかというやっかみはやめていただきたい。真冬に海水浴に行くはずがないというのは固定観念に過ぎない。あり得ないなんて断定した物言いをしたら、すぐさま『俺は真冬に海水浴行ってきたぜ!ひゃっはー!ざまあっ!!』なんて証拠動画つきで謝罪を強要されるのが今の世と言うものだ。唇紫色になってまで、ヤムチャしやがって。予防線は張っておくに限る。
そんなわけで絶賛、不安定に揺れ動いているわけなのだが、教授たちは、なんでそんなに安定していられるのだ?そもそも、未だに温まりの『あ』すら感じない。
「ちょっと、教授、どういうことだよ」
「キィィ?」
だめだ。暖かさでとろけてやがる。ぬくすぎたんだ。
教授たちに意識をそらしたのがまずかった。注意がそれた途端、今まで抑圧されていた力が暴走した。抑圧されればされるほど、反発もまた強くなり、種が急速浮上。その行き先には………。
「アッパーカッ―――?!!!」
種に顎を打ち抜かれ、その衝撃はそのままダイレクトに脳天まで。見事な、お手本の様なアッパーカット。種よ、お前は既に私を越えた。
俺はそのまま、大の字で水面に浮かびかがり、河口まで流され、やがて海まで…………行かねえよ。
猿たちは俺の惨状を見て、キイキイ鳴いている。指まで指して嗤っている。知ってる、これはいわゆる『プギャー』ってやつだ。
実際にやられるとこんなに腹が立つもんなんだな。こいつら絶対机があったら両手でバンバンやってるぞ。
怒りと羞恥でフルフル震えていると、俺の顎を砕き、そのまま遠くへ流されていった種を捕まえる教授の姿が見えた。種を掴んだ教授はその足で水辺に向かうと、とがった石で種を一突き。
つまらなそうな目で表面を確認すると、ソレを俺に向かってほうってきた。とっさにお手玉して受け取ったそれには、物の見事に小さな穴が開いていた。
(そうか。穴を開けるのか)
「あ、ありがと…………」
フンッと鼻を鳴らしてそっぽ向き、教授は森へと入っていった。新しい種を探しに行ったのだろうか。
種に空いた穴を、水が入りやすいように広げながら沈めていると、徐々に種が温まり始めた。まるで生石灰みたいだ。
気がつくと体をこすって汚れを落としていた動物たちも、周りに寄ってきていた。教授も戻り、皆で肌身を寄せ合い心地よい温度の泉でゆったり。
我、終生の友を得たり。
(続)




