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とうをつくるおしごと  作者: こうせきラジオ
22/55

22ふにふにふに、肉球よくても腹はダメ ~獣たちは往く。ヒトも獣か、はたまた人か~








 悪は――――滅びた。世界に平和が訪れた。そして、夜が明けた。いや、明けてはいない。ただの気分だ。



 みな、よく戦った。



 あのあと、さらにもう一戦、砲戦果大戦が勃発した。第二異世界大戦だ。もはや、この森に無傷で立っているモノはいない。みな、その身に異臭を漂わせ、あるいは疲労、あるいは打撲で力つき、大地に、木の枝にその身を預けている。死屍累々。

 勝者はいない。誰もが何かしらのダメージを負っている。今ここにいるのは勝者でも敗者でもなく、戦争の被害者たちだ。加害者であり、被害者たちだ。身体的、精神的に傷を負った者たちだ。情報部第三課を呼んでくれ…………。死者がいないのは不幸中の幸いだった。使者はいたが…………。

 ちなみに地獄の使者こと、ペリカンぐちは気絶して目を回している。芸も工夫もない二度目の口腔爆撃を仕掛けようとしてきたので、爆発寸前に口を閉じてやった。口腔内爆発。これで貸し借り無しだ。

 

 全身に砲戦果の果汁を浴び、果たして自分から臭ってきてるのか、相手が臭っているのか判別が付かない。いや、大地から臭っているのかもしれない。人間一人、猿一匹の匂いなどもう、物の数でもない。

 生物は自分の匂いに鈍感な生き物だと言う。曰く、自分の匂いを気にしていては、他の動物の存在を匂いで察知する事が出来ないからだ、と。

 今、この森に限り、自と他を分かつ匂いの概念は消失した。みんな同じ匂い。みんな臭くてみんないい。まさに臭い仲と言うやつだ。

 全世界を揺るがす大戦を終え、各々が満身創痍の体を休めてしばらく。木の根にうつぶせになっていた教授が、のっそりと立ち上がった。猿たちもそれに続く。他の動物たちもゆっくりとだが、立ち上がりどこかにへ向かって移動を始める。

 すわ、第三次の始まりかと身構えたが、そう言う雰囲気でもないらしい。大惨事は免れた。


 教授が一瞬こちらを見た、気がした。その瞳が、まるで『来い』と俺に語りかけているような気がした。一度、全力で争った間柄はなぜか通じ合うという、『夕日の河川敷理論』と言われるものがあるが、俺と教授もそうなのだろうか。果たして、一度の戦いで、一瞬の視線の交錯でそこまで共有できるようになるのかはわからないが、ただ、なんとなくそう感じた俺は、素直に教授の後を追った。


 どれほど歩いただろうか。どこを目指しているのかとんと知れない。始まりは個々の移動に過ぎなかった我々が、互いに支え合い、手を引き、背に乗せ、尻を押し、杖と化し、助け合って進む様は、いつしか様々な動物が入り乱れた一つの行列と化しており、さながら鳥獣戯画の様相を呈していた。まさか俺が鳥獣戯画、人類代表として、随行するとは夢にも思わなかった。

 だがまあ、人類もまた動物なのだと、そう思えばなんとも心地よい気持ちになるものだ。自然が嫌いだと豪語した俺が、誰よりも自然の深い中に交わっている。未だ、好きにはなれないが、今この一時だけは、それほど悪い気はしなかった。


 そうしてふくれあがった獣の一団はいつしか、森の中にぽっかりとひらけた、広い水場にたどり着いた。

 森の中に埋もれた水場。木々に囲まれた広い泉。大小様々な石が転がり、二メートルほどの岸壁から細く短い滝がいくつも段々になり、泉に注ぎ込まれている。滝壺は浅く、降り注いだ水が固い岩に当たり、細かい霧となって辺りを舞い踊っている。岩は長年水流にさらされているためか、表面がさらさらとなめらかな手触りをしている。

 そんな水場に大小様々の獣たちが、躊躇なく飛び込んでいく。おそらく、それほど深くもないのだろう。ごろごろと転がって全身を湿らせている。滝に当たって汚れを落としていく。あ、リスが巻き込まれて沈んでいく。ああ、鹿の角に引っかけられた。わかりやすく水を吹いて…………リアクション芸人か。お前は。


(そうか、みんな匂いを落としに来たのか)


 なら俺も、流すとしようかと、水辺の岩の近くで服を脱ぎ―――――、一瞬、全裸になることに躊躇したが、人間もいないのに恥ずかしいもないだろうと思い返して―――裸になった。隣りにいた小猿を背負った雌猿が、俺の姿を見て鼻で笑った気がした。…………やめろよ、教授。哀れみの目で見るな。肩に手を置くな。


 貴重品だけ見失わないように、わかりやすい場所に置いて目印になるように棒を立てる。今はもう、使えないし持ってても意味のないものだらけだけれども、今後の事を思うとむげにも出来ない。愛着だってある。捨てられない若者なのだ。俺は。


 脱いだ服はついでに一緒に洗ってしまおうと思って持って行く。マーブル色のクラスTシャツと奇抜な柄のジーンズ。パンツも柄物になってる。いや、元から柄物だが、その度合いが違ってる。

 関係ないけど、ブリーフを履いている男に対するイメージの悪さってなんなのかな。みんな昔はブリーフだったはずなのに、トランクス派、ボクサー派、Tバック派にフンドシ派と様々な派閥がある

けど、結局下着じゃん。なんでそこにヒエラルキーを作りたがるんだろうなぁ。何がいけないんだろうな。『もうブリーフなんて一生履かねぇよ。くそったれ!!』みたいな人いっぱいいるんだろうなぁ。そんな人を救いたい。救って、欲しい。

 本当に、全く関係ない話、そんな関係のないことを考えながら泉に足を入れて、驚いた。ぬるい。いや、ぬくい。



(温泉?)


 かなりぬるめだが、確かにソレは、温泉だった。




(続)


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