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とうをつくるおしごと  作者: こうせきラジオ
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二作目になって駄作になったとか言うけど、期待値だって跳ね上がってる。~謎の少女と無駄話~

 





 ひときわ光り輝き、人の神経を逆なでるソコを越えた瞬間、目の前が真っ暗になった。明から暗に急に切り替えられた事で、暗闇はいっそう暗く感じる。

 しかし、あの暴力的な光を見続けなくていいのはありがたい。気を遣ってもらったのだろうか。ありがとうひかりん。

 それにしても、片目閉じてて良かった。

 糸目の方は流石に長時間光の中にいた影響で全然見えない。閉じていた方がまだ闇になれてて見やすいだろうと、目を開けてどうにか見えないかと目をこらす。先ほどとは逆に大きく目を見開いて周囲を確認する。少しでも情報を得んとばかりに目を見張る。気分は歌舞伎役者。天地は見れないけど。


 やっと、暗闇になれてきた。

 両目を開けて周りを見渡す。刹那―――暗闇を切り裂くように光が走った。先ほどのアレよりも強力な光だ。


「ぬあぁぁあああぁぁぁぁっ!!!!」


 気の緩んだ瞬間に走った一筋の閃光。思いも寄らない不意打ちに驚き、後ろにのけぞる。足が絡み、勢いそのまま床に転げる。

 痛い。すごく痛い。ぶつけた後頭部が、背中が、両目が痛い。痛くて目が開けられない。先ほどまでの光にはなかった痛みだ。そんな強烈な光を直接見てしまった。直視してしまった。暗闇で目をこらしていたのが裏目に出た。

 暗から明への急激な落差に対応できず、瞬間的に強烈な刺激にさらされた。瞳が刺すように痛い。

 目は光刺激を集め情報として感じる感覚受容器だ。明から暗では刺激が減少していくだけでさほど問題ないが、暗から明の急激な変化は刺激への耐性が出来ておらず痛み刺激となる。限界閾値を越えた、オーバーフロー。

 いわゆる『目がぁぁ、目がああぁぁぁぁ!』と言う状況だ。カメラのフラッシュの様な一瞬で太陽を長時間を直視したような………いや、間違いなくそれ以上だ。あれだ。映画でよく見るスタングレネード。直接目にダメージが来ている。ポケモンではフラッシュは命中率を下げるだけだが、次回作ではダメージも与えて欲しい。激しい光は………痛い。

 痛みを言葉にすることは出来ない。ただただ悶絶するだけだ。悶え苦しみ、あまりの痛みに体裁も関係なく転げ回る。転がっても痛い。止まっても痛い。ならば、転がるしかないだろう。目から意識を分散させるんだ。体の痛みで目の痛みをごまかすんだ。いや、そんな計算でもない。転がりたいのではない。転がらざるを得ない、転がることこそ今出来る唯一の事なのだ。意味は、無い。


右にごろごろ、左にごろごろ、転がり転がり転がり続ける。痛みはやまない。転がりはやめられない。と―――。


「あ」


 声が聞こえた気がした。気のせいか?


「やあ、やっと来たね。随分と待ちくたびれたよ。まったくどれだけ人を待たせるのさ。時間厳守。三分前行動。即日配送。基本だよ基本」


 気のせいではなかった。若い女性の声。いや、女性というか少女か?高く、はつらつとした若さあふれる勢いのある声。そして上から目線。元気な、あるいは幼い声。きっと年も若い、いや幼い。もし幼くないのならば、もう少し落ち着いた方が良いと周囲から苦言を呈されるような、そんな口調だ。ただ、出来れば少女であって欲しい、いや、あって下さい。この状況で落ち着きのない微妙な年齢(略して妙齢)の女性に出会うとか、場の収集がつきそうにない。それ以前にこんな絶賛転がり虫を見られたとか死にたい。幼ければごまかしようがあるとかそんな事はないけども。とりあえず、年相応の少女と思って行動する。強い願いは叶うのだ。


 それにしても、少女から上から目線で声をかけられると言うのも初めての経験だ。まあ、実際問題、転げ回っている現状を見ても上から声をかけられているのだが………。思えば、物理的に少女に上から声をかけられるのも初めてだ。経験があれば事案になりかねない。

 ちなみに女性と女子の境界線については議論する気は無い。誰だって命は惜しい。俺は自分に被害が及ばないことには関与しない派だ。寛容かは場合に寄るが、関与はしない。

 いいじゃないか。五十代で飲み会を女子会って言っても………いいじゃないか………。

 声をかけられて転がるのは中断したが、未だに視力は回復しない。


「だれだっ?」


 見えない誰かに聞き返す。見えない状況というのは想像以上に怖い。相手がどこにいるのか。自分がどんな状況に置かれているのかもわからないのだ。わからないから怖い。怖いから、少しでも良いから不安を取り除きたい。不安と恐怖、焦りをぬぐい去りたくて声が、語気が荒くなる。


「うわぁ、びっくりした…………そんな大声じゃなくても聞こえるよ。名乗ってもいいけど……………とりあえず、視力回復するまで待たない?」


「なんでだよ。答えろよっ」


 うやむやにされたようで、ごまかされたようで、取り合おうとしない感じがこちらに害意があるように思えて恐れが増す。つい言葉に力が入る。


「大声出さないでよ~。も~。何もしないからさ。何も見えなくて怖いのもわかるけどね。あのさ。例え、今名乗ったところで頭に入らないし、不安も消えないでしょ。見えないのに信じるもなにもないもんね。視覚情報は大切だよ。安全安心のためにも、理解のためにも」


と、言って、続ける。


「でも、君がそれで少しでも心穏やかな気持ちになれて、安心して話を聞けるって言うのなら、まあ、名乗っても良いかな。あんまり叫んでても話が進まないしね。シャウトが楽しいのはライブの時だけだよ。僕としても別に名乗りたくないわけじゃないし、まあ、と言っても進んで名乗りたいかと聞かれると返答に困るな。ただ単純に二度手間になりそうなのが面倒臭いってだけだしね。面倒臭いことは嫌いなんだ。僕はエル。そう呼ばれている」


 まるで、先ほどの自分の言葉など、無かったかのようにあっさりと名乗る。のたまう。俺はと言うと、そんな『エル』の、自分の言葉をあっさり翻すさまにあっけに取られた。唖然として、毒気を抜かれてしまった。黙って何も言えなくなってしまった。


「………」


 なんなんだ。こいつは。随分と気安く話しかけてきてはいるけど、自分で言ったことを勝手に変えて自己完結して、自分本位な事を言ったかと思えば人を気遣う事も言うし。初対面の誰ともわからない状態でそんな感じになるものなのか。よくわからない。ぜんぜん、わからない。でも、一つだけわかる。こいつは、エルと名乗った高い声の持ち主は、人の話を聞かないやつだ。


 こういうやつは、自分の言いたいことをどんどん言う。言いたいことを言いたいだけ言って一人で満足しちまうタイプだ。このまま、放置してたら、いけない。自分から聞いていかないと。


「なあ―――」


「ああ。でも、静かにしてて無音ってのも、逆に不安か。じゃあ、視力が回復するまでの間、何かお話でもしようか」


 質問しようとしかけ、阻まれた。先んじられた。だが、しかし、話をすると言うのなら、質問の機会も回ってくるだろう。放っておいたら質問コーナーが始まるわけでもないのだろうし、気は抜けないが………。


「そうだね……。なんの話がいいかなぁ。そうだ、あれにしよう。いいかい。昔昔あるところにおじいさんとおばあさんが――――」


「昔話かよ!本当にお話だとは思わなかったぞ!」


「おおっと、なんだよ。いきなり大声出さないでよ、びっくりするなぁもう」


「びっくりしたのは俺だよ。なんでこのわけのわからない状況で昔話を聞かないといけないんだよ」


「え、だって、不安だろうし、ちょっとでも落ち着けるように心に響くナンバーをチョイスしたつもりだったんだけど」


「心に響くナンバーってなんだよ。オリコンチャートランキング洋楽部門かよ。DJ気取りか!」


「流石にラジオ放送はしないよ~」


「あたりまえだ」


「アップするだけ」


「ユーチューバー?!」


「やっぱり配信だけで食べてくのは大変みたいだよね、素直に会社勤めの方が楽かも」


「なんで素性も知らないお前と現代日本のネット情勢について話さないといけないんだよ。いいから、そんな話いらないから」


「そうかい。なら、視力戻るまで静かにしてるよ………」


 すねたのか、先ほどまでのおしゃべりはなりをひそめ、場に静寂が訪れる。


 右を向く。


 それにしても、何を考えているんだ。話をするって言うからトンネルのこととかここの事こととか今の状況とか、そういった具体的な話だと思ったのに昔話って。


 左を向く


 ………心に響く昔話ってなんだろう。昔話って大抵低学年向けに改編されてて実際はえぐいのが多いから、それほど感動できるのは思い浮かばないんだけど………………。そういうフィルターがかかっちゃってる所とか、嫌な大人になっちゃったなって思えて心に刺さるものがあるけど。そう言う話じゃないよな。


 後ろを向く。


 いやいや、そんな事を考えている暇ないだろ。そんなことよりもっと大切な事を―――


 左を向く


大切な―――


 右を向く


「って、さっきから何してんだよ。うろうろうろろろ」


「今、うろうろがうろろろになってたよ」


「うるさい。噛んだだけだ」


 そう、さっきから右に左に、忙しなくあちこち向いていたのはこいつのせいだ。床に座っている状態の俺の周りを何を思ったのかこいつはずっと回りつづけていたのだ、さっきからずっと。グルグルグルグルと。静かだから移動の足音だけが響いて居場所はすぐわかる。そして、俺はまだこいつを信用していない。見えなくても、見えないからこそ、なおさら後ろになんて立たせたくなかった。背中を見せたくない。だから、こいつが動くたびにその方向に体を動かしていたのだ。


「暇だったから」


「だからって俺を中心に回るな」


「いいじゃん。まるで自分を中心に全てが回ってるような気分になれるよ。今日から君は太陽だっ」


「回ってんのはお前だけだろ。いいから、俺の後ろに立つな。俺はお前を信用してないんだよ」


「その台詞!…………ゴルゴみたいだね。人生で一度は言ってみたい台詞かも」


「そんなことはいいんだよ」


「暇なのは暇なんだよ。暇になった僕はもうだれにも止められないよ」


「………わかった。勝手にしろ」


「いいの?よっし」


「そのかわり、俺も勝手にする」


「いいけど、なにするの」


「こうするんだよ」


 言いながら、俺はその身を大地に投じた。


「なにやってんの?」


「お前が俺の周りを回るのをやめないのなら好きにしろ。俺も好きにする。絶対にお前に背中は見せないぞ」


 そう、床を背に大の字に寝転がる。仰向け五体投地。これでもう、背中は見えない。


「いや、君が良いなら良いけど、なんか本末転倒だよ。その格好、背中を見せない姿勢と言うより、誰にも見せられない姿というか………」


 さっきまで、自由を絵に描いたような態度だったエルが戸惑いの声を発している。それを聞けただけで、やる価値はあった。俺は勝った。勝利を得た。


「いや、失うものの方が多いでしょ」


 頭上から声が聞こえる。先ほどまで足の方にいたのに………まだまわってるのか。飽きないやつめ。


 背中に床の感触が広がる。そうか。石畳だったのか。手に当たる直線の石の継ぎ目からそう、推測する。背中に感じる床が冷たい。勝利とは……むなしいものだな。


………………………………………。


………………………………………。



 二人同時に黙る。ふと訪れる一時の静寂。天使が通り過ぎた。だが……………………。


「ねえ」


あらかじめ予想できたことではあったが、つかの間の静寂を崩すのはやはりこいつ、エルだった。


(続)

本日はスムーズにアップできました。とりあえず、ストックがなくなるまで、連日投稿を目指します。

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