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とうをつくるおしごと  作者: こうせきラジオ
18/55

18、二十歳はまだまだ子供。場所が場所なら六十も若造 ~森は火のない、草原火薬庫~









 ゆっくりと枝を移動する。太い枝を選んで落ちないように慎重に。腹は満たされ、眠気はぶっ飛び、匂いのおかげで二度寝もない。せっかく苦労して木に登ったのだから、もう二個三個、食料を確保しておこうと、現在、枝を伝って樹上の冒険をしている。

 幸い、太い枝が網の目のように張り巡らされていて、それほど苦もなく木々を移動出来ている。


 問題があるとすれば、ただ一つ。目的の物が見つからないと言うことだ。有名な方が仰っていたが、捜し物というのは探しているときは見つからない。探すのを止めたとき、見つかるというのがよくある、と。

 だからといって、探すのをやめようと言えるほど悠長な状況でもないので、とりあえず探し続けてはいるのだが、見つからない。鼻歌もはずむというモノだ。

 はずむと言えば、森を騒がせている破裂音だが、一つ発見したことがある。あの音は、高いところで鳴る確率が高いと言うことだ、地面で鳴っているパターンはまだ聞いていない。それが何を意味しているかは、わかってないが。


 そこまで考えてふたたび破裂音が響き、思考を停止させる。これまでよりも近い場所、ちょうど今向かっている木の上のほうだった。身をすくませて、辺りを見渡していると、視界の隅で何か動くモノがあるのを見つけた。反射的にそれに注視する。

 

(あれは………………猿?)


 枝にぶら下がりながら移動する動物がいた。その姿は猿のよう。大きさは一般的なニホンザルくらいだが、手と尾が異常に長い。反面、足は極端に短い。胴体+足と手と尾が同じくらいの長さ。一対一対一の割合。胴体は小さいのにツバサを広げると全長が大幅にアップするコウモリとか、小さいのに大きくなる測定のマジック、そんな印象を受ける。そのせいで、異様にデカく感じる。

 その手の長さから木登りが得意なのだろうと容易に想像がつくが、実際その通りで、するすると木々を登っていく。片手で、尾で器用にぶら下がって移動する様子から握力や操作性も良いのだろう。


(あんな生き物がいたんだな………あ)


 口をあけて呆然と行く末を見守っていると、するすると登っていく猿の先に、今まで探していた果物を見つけた。

 さっき食べたものと比べて色合いが濃い。熟れているのだろうか、先ほどは青緑色だったが、今、見えているモノは紫とオレンジとどす黒いピンクそして、どどめ色のマーブル。


(どどめ色ってその色合いそのものより語感の響きというか、イメージが物々しいというか、ネガティブというか。言葉にした感じだけでやばい雰囲気がするよなぁ)


 つまりはそういうことで、さっき食べた実が『ヤバそうな匂いだけど食える』なら、あそこにあるモノはただただ『ヤバい』の一言。

 赤々と色づくベニテングダケのように、一目見ただけでこれは無理とわかる。出来ることなら関わらないで、一生無関心決め込みたいと切に願うヤバさだ。

 猿にとってもそれは同じだったのか、そのどどめ色の果物には目もくれず素通り。


(ああ、やっぱそんな感じなのか)


 野生動物すら避けるモノが、まともなはずはない。なにがあるのかは知らないけれど、俺も触れないようにしよう。


 心の中でそう決心したとき、悲劇が起こった。人によっては喜劇が。


 ちょうど猿がその果物の横を通り過ぎたとき、猿の尾が果物をかすった。本当に軽く、当たったか当たらなかったか、わからないくらい軽く、まるで指ですっとなでるかのように、かすった。ただ、それだけのはずだったのだが、かすった瞬間―――――果物が震えだした。初めはフルフルと、徐々にその揺れは強くなっていく。


 目を疑った。だって、果物が勝手に、独りでに動きだしたんだぞ。ブルブルとその身を震え始めたんだ。そんな光景、見たことがなかった。

 かすった果実は一つだけ。だが、その一つの震動が、同じ房の隣りの実にぶつかって、さらに隣にと連動していって―――――今では一房丸ごと、大きくその身を震わせている。


 当の猿はそんな背後の様子には気がつかず、立ち止まって暢気に背中の真ん中を掻いてあくびをしている。


(あ、手が長いとそんなとき楽そうだな)


 なんて、どうでもいい発見をしている間にも、震動はどんどん強くなっていき―――――


(あ、これあかんやつや)


なんて思った瞬間、ピタッと止まり――――――あれ、何も起こらな―――――爆発した。


「……………………はっ?」


(……………マジか。爆発したぞ!いや。正確には破裂か?火は出てないし。いやいやそんなことどうでもいいんだ。そんなことよりも―――)

 

 果物が爆発した。種や果汁を周囲にまき散らして、盛大に音を、衝撃を、汁を、匂いをまき散らす。弾けた種は皮を突き破り、隣の実を巻き込んで誘爆。誘爆に誘爆を繰り返し、一房全ての実がその爆発に身を投じていく。

 

 爆発の中心にいた猿は、その大音声をモロに食らってそうそうに気絶、果汁にまみれながら地面に落下した。巻き込まれたのか、小鳥やリスなどの小動物も続いていく。


(………破裂音の正体はこれだったのか………) 


 血の気が引いた思いで地上を見る。紫の果汁にまみれながら倒れ伏す動物たち。その中央で先ほどの猿が、未だ意識を取り戻すことなく倒れ伏している。その出オチ感と相まって、ヤムチャの姿と重なる。

 その周囲には、落ちてきた動物を狙って来たのか、巻き込まれた動物たちが意識を取り戻したのか、大小様々な生物がうごめいている。あ、鳥が八足歩行の猫みたいなのに咥えられていった。さらば、名もなき鳥よ。あの猫は猫バスと命名。


 状況はまだ収束していない。爆心地に目を向けると、事態はむしろ悪化していた。他にも房があったのだろう。飛んできた種が当たっては次々に震動、初めの爆発に誘われるように他の房々も次々に爆発、誘爆を繰り返している。種を、皮を、果汁を周囲にまき散らし、房も動物も全てを巻き込んで破裂し続けている。

 爆発のやんだその周囲に実は一つも残っておらず、ただ、ただ紫色に染められた枝葉と強烈な臭気が立ちこめている。


(…………は、はは。なんだあれ、まるで爆弾じゃないか………)


 一見、中国の祭りで使う連続爆竹を思わせる。しかしその威力は、被害は爆竹というよりも、爆弾のそれであった。


 周りに実が少ないことも納得がいく。一つ爆発すると周りの房も巻き込んで大爆発するのだから、自然と一掃されてしまうのだろう。なら、先ほど食べたアレは偶然残ったのか、爆発するまで育ってなかったのか。……………腹の中で爆発しないよな。と、少し心配になる。


 それと同時になんで爆発するのか。それに何の意味があるのか。と、純粋に疑問がわく。何らかの意味があってそうやっているはずだ、と思う。意味のない機能を持つ動物もいるにはいるが、そういうのは大抵、淘汰されていくものだ。

 種を飛ばす、と言う点では、タンポポに近いのかも知れないな。ああやって爆発することで、種を出来るだけ遠くに飛ばそうとする、遠く広く繁栄させるための手段としての爆発、とか。

 ああ、そういえば、そんな植物はいたな。触ると破裂する植物。確かホウセンカだったかな、あれもたしか種を飛ばす系の植物だったはず。


 よし。


 今日からあれは、爆裂ばくれつ植物しょくぶつ砲戦果ほうせんかと名づけよう!!






(続)


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