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とうをつくるおしごと  作者: こうせきラジオ
17/55

十七歳は人生の転機だと思う今日この頃。天気は晴れだとい17 ~食材発見、身の危険?~








(それはそうと果物、果物はっと……)


 発見。ゆっくり枝の上を移動して、手の届く距離にまで到達。取ろうと伸ばそうとして………やめる。イヤな予感がした。これまで感じたイヤな予感は、けっこうな割合で当たっている。これは、フラグだ。そう感じて、嫌な予感がしたそれをまじまじと観察する。


(形はリンゴや梨のように丸いけど、ブドウのように鈴なり。違うのは縦長に下がっているのではなくて、丸くまとまっている所。十個くらいで一かたまり。大きさは………デコポン?ソフトボールよりちょっと大きいかな。色は緑。それよりなにより、食えるのか?」


 匂いを嗅いでみる。酸味のきいたほのかな香りが漂っている。この香り、匂いには見覚えがあった。いや、嗅ぎ覚えがあった。


「こいつ、森の香りじゃないか」


 早々に犯人を特定した。早期発見、早期検挙。実名報道は無し。名前はまだ無い。

 

「触るのはやだな………」


 落ちた果汁を踏んだ足はまだ、ベタベタしている。まるでユリ科の花粉のように一度手についたら二度と取れなさそうな感じがして、触るのを躊躇する。―――――と。


 ぐぐぐぐぐっと音が鳴った。腹の虫は正直だ。人間が理性でかけたストップに、本能はアクセルべた踏みゴーサイン。誠に遺憾ながら、人間は欲深い生き物だ。欲望には勝てない。食いたい。


「くっ人間とはかくも弱い生き物か………」


 かっこつけても誰も答えてはくれない。だが、それもいい。


 匂いに躊躇いつつも、一つもいでみる。手触りは、少し固い。臭いは………思ったほどではない。まだ熟れきってはいないようだ。

森に漂う香りと比べて、酸味は控えめで若干甘みも感じる。鼻が慣れてきたのか、熟れてないか。


(いきなりかじるのは勇気がいるな)


 爪でこすった感じだと皮は薄そうだ。そのまま皮をむいてみると実の中は、……………紫。紫色の果果物なんてあったか?ちょっと青臭いのはやっぱり熟れてないからなのか?


「…………………」


 意を決してかぶりつく。


「……………甘い」


 薄い、ほのかな甘み。強烈な色と匂いに比べて、なんとも上品な甘み。主張しすぎず、さりとて薄すぎもせず。身は固くて歯ごたえがあるが、それゆえに食べていると言う感じがする。噛むたびに果汁があふれる。匂いもこの程度なら許容範囲内。森に充満している臭いとは全然違う。あっさりとしたもの。うまい。


 たまらずもうひとつ、もうひとつと手を伸ばす。手が紫色の果汁でべとべとになるが、かまわず食べつづける。

 一抱えほどあった全部まるごと完食してしまった。ぺろりと平らげてしまった。どこにこんなに入るのか。自分で思っていたよりもずっと、空腹だったようだ。


 ベタベタになった口元を袖でぬぐい、手についた果汁を幹にこすりつけるが、全部は取れない。顔がドラゴンボールのキュイさんみたいになった。わかる人いるかな。『きたねえ花火だ』の花火の人。


(人心地はついたが、今後のためにもいくつか確保しておこうかな)


 当面の問題は解決したが、今後のことを考えると数をそろえておきたい。周りを軽く見渡して実を探す。だが、目の届く範囲には見当たらなかった。


 若干ガッカリするが、それほど問題とも思わなかった。


(どうせ、森の中を探せば、すぐ見つかるだろうしな。それよりも………)


 それよりも、満腹になったことで眠くなってきた。思えば、自宅を出てからここまで船酔いにうなされ、溺れて気を失いこそすれ、睡眠は、ほとんど取っていない。眠気も当然と思えた。



(少しだけ、目をつぶろう。目をつぶるだけ。こんな枝の上で寝るなんて、落ちたら大けがだ。下に降りてから、安全な場所を見つけて少し仮眠を、取ろう。そ、うだ。そうし―――――)

 

 睡魔に勝てず、そのまま目をつぶる。つぶるだけだった瞼は、より深く落ちていき、徐々に意識が遠くなっていき―――――。



 破裂音。



「ハッ!!」



 驚き、身をよじる。バランスを崩して落ちそうになるのを、近くの枝を掴んでなんとか堪える。


(あぶない。一瞬、本当に寝ていた。なんの音か知らないけれど助かった)


 さらに破裂音。今度はさっきより音が遠い。


「気がつかなかったけど、さっきからぼんぼんぼんぼんと、いったい何が鳴ってるんだ」


 遠くから、近くから、上から下から所構わず景気よく何かが破裂する音が聞こえてくる。まるでポップコーンのように軽快に。


 ドンッ――――と。


 ひときわ大きな破裂音が響いた。頭上から。とっさに音の正体を確かめようと上を向いて――――――。


 べちゃ。


 何かが顔に落ちた。


「うわっ、ぺっ、何だ!?」


 ちょうど上を向いた瞬間で、もろに顔から浴びた。なんだ、これべたべたして………くっさっ。なんだこれ、くっさ。


「ウンコか、ウンコなのかっ!」


 必死にぬぐう。ハンカチ持ってて良かった。これは………もうダメだな。捨てるのももったいないけど………。

 得体の知れないものをぬぐって、グショグショになったハンカチ。不幸中の幸いかウンコじゃあなかったみたいだけど、その有様におろしたての姿は見る影もない。


「ありがとう。君のことは忘れないよ、さようなら………いや、やっぱり持っとこうかな。洗えば使えるかも知れないし、いやでもなぁ………」


 ハンカチ一つで何をうだうだと、と我ながらしみったれた性格してると苦笑ながら、ポケットに手を回して気がついた。ズボンが濡れている。いや、全身ぐっちょりでハンカチどころの話じゃなかった。しみったれどころかシミになる。シミだらけだ。俺の服は今、大阪のヒョウ柄おばちゃんも真っ青、世にも珍しい紫のマーブル柄だった。香り付き。


「学園祭のクラスTシャツかっての!」


 流石に服を脱ぐわけにもいかず、我慢するしかない。


 ―――――ッ。また、破裂音。


 今度はちょっと奥、上方から聞こえた。一体何が鳴ってるんだ。顔にかかった汁も関係しているんだろうけれど………。

 そして顔にかかったこの汁、嗅いだ覚えがある匂いがする。今まででもダントツにクサい匂い。これはアレだ。さっき食べた果物の汁。たぶんそう。

 大穴で糖尿病を煩っている動物の尿の可能性も否めないが……………いや、否める。否む。もしそうだとしても俺は絶対信じない!そもそも、糖尿病になると本当に尿が甘くなるのだろうか………話は聞くけど、実際に試した人にあったことないからなぁ。まあ、試した人イコール自分or他人の尿を飲んだ事のある人だから、そうそう会う機会もないのだけれど。


《君ほどの紳士にもかかわらずそんな経験も無いのかい。いやはや、これじゃますます紳士の名折れというものだね》


 なんか、幻聴が聞こえた気がした。したにはしたが気のせいだ。幻聴に返答してもと思うのだが、いろいろ言いたいことがある。まず、紳士を変態の代名詞として扱うな。紳士にわびろ。そして俺を紳士と呼ぶな。さも俺が変態であるかのようなイメージ操作を即刻やめろ!!


 ありもしない幻聴に、思わず真っ向からツッコんでしまった………。何が腹立たしいって、エルの声で流れたことだ。散々俺を変態呼ばわりしやがって………。本当に俺が変態キャラとして周囲に認知されてしまったらどうしてくれるんだ。全部エルのせいだ!雪山に埋めてやりたい!!





(続)

本日二度目の投稿です。

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