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とうをつくるおしごと  作者: こうせきラジオ
15/55

15の粒々はじっくり見るとグロくて食えない ~進むは草原、まだ見ぬ果てへ~





 草原を進む。遠く、森を目指して。まだ見ぬ、腹を満たす食材を目指して。

 草原もそうだが、地平線が一直線に繋がる風景というのはあまり見る機会がないな。東京に住んでいると特に、そう感じる。

 北海道出身とはいえ、道民全てが大地の民というわけでもない。都市部に住んでいればなおのこと。実家が酪農に手を出したのも最近だしな。

 俺の両親は酪農家。とは言っても、ずっと酪農をやってきたわけじゃない。やってたのは母方の実家。その母方の祖父母が、年齢的にそろそろしんどいので家業をたたもうかと言ってきたときの事だ。突然、本当に突然、父が家業を継ぐと言いだしたのだ。

 母も一応止めたのだが、もともと一人っ子なのに家業を継がず、後継者としての婿取りもしなかったのから、両親に負い目を感じていたらしい。父の決心が揺るがないことを知るとすぐ、ついていく決心を固めた。

 決めるまでは悩むけど、決まったあとは即行動、と定評のある父はその評判に違わうことなく、すぐに行動を起こした。会社に退職届を提出し、家を引き払い、母共々祖父母の家に転がり込んだ。マスオさん状態だ。それからは祖父母を師と仰ぎ、母を姉弟子と敬い、牛を終生の友とする生活を送っている。


 それだけなら、養父の家業を婿が継ぐという美談となるのかも知れないが、そうは問屋が卸さない。どこかにしわ寄せが来るのがこの世の常。

 察しのいい人は気づいただろう。そう、俺たちだ。あおりを受けたのは。父が転職を決意したのは俺が高三、妹が中三に上がる時の事だった。高校三年に上がろうかという春。妹だって中三だ。受験。受験前だ!これから人生初期の難関イベント、受験が控えているこの時期に、なんでそんな一大決心するんだ、と。声を大にして言いたい。言った。叫んだ。


 ただ、そんな事じゃ両親は揺るがなかった。


「なんなら、父さんと一緒に酪農やるか?跡継ぎ問題、早々に解決~」

 とか言いよる。東大以外は大学じゃないなんて言うよりはましだろうが、それにしたって極端だ。

 話し合ったさ。人生でこれほど話し合うかというほど話し合った。そうして話し合った結果、出てきた選択肢は二つ。ついていくか、行かないか。

 行かない場合、今の家は社宅なのでどこかに住まいを探す必要がある。

 兄妹二人暮らしはまあ、いいとしても(いや、よくはないが、お互い受験なのに二人だけの共同生活とかつらすぎる)俺の場合、都内の大学を受験する予定だから、もし合格したら妹一人暮らしになる。流石に高校一年の女の子が一人暮らしなのは問題ではないかとなった。俺がした。楽観的な妹、(とも)はどうとでもなると笑っていたが、そう言う問題ではない。

 じゃあ、落ちればいいじゃんとか言った父には鉄拳制裁。母もなにかと道内の大学を進めてきたが、そろそろ子離れしてくれ………。

 そんなにっちもさっちも膠着状態におちいった問題に、一石を投じたのが叔父だった。


 

「よし、二人ともうちに来い!!」


 その、たったの一言で、俺と知は叔父の家に下宿することに決まった。



 叔父。同じ年の従姉妹、さとるの父親。

 この人も大概おかしな人で、誰とでもすぐに仲良くなる特殊能力の持ち主だ。


 初めて行く飲み屋で一人呑みしていたはずなのに、いつの間にか常連に囲まれて大宴会になっていたり。

 休日、釣り船で出会ったおっさんと仲良くなったら、後日、取引先の重役だった事が判明して、営業職でもないのに大口の仕事を取ってきたり。

 またあるときは、知り合った女性に好意を抱いていたストーカーが勘違いの上に嫉妬して、叔父を刺そうと付け狙っていたが、計画を練っているうちに親友になってしまったり。そんなとんでもエピソードが事欠かない。ちなみにその人は意中の女性を結婚した。

 

 両親の結婚式の時も、母方の親族が父よりも叔父を気に入ってしまって、そばから離さなかったとか。その縁なのか、父方の祖父母が亡くなって、他に親戚もいない事を知った母方の祖父母が、ことあるごとに叔父に声をかける。

 毎年、盆と正月にはなぜか叔父一家も母方の実家にお呼ばりされていたりする。そしてうれしそうに祖父と酒を酌み交わしているのだ。

 そんな叔父と祖父の姿を眺める父の横顔が、少し寂しそうで。


 とにかく、そんな嘘のような武勇伝を数多く持つ叔父だ。るーが自由奔放に育つのもさもありなんと言うところだ。ちなみに叔母も何事も笑って済ましてしまう器の広い人だ。下宿の件も二つ返事で了承した。


 そんなわけで、勝手知ったる他人の家。俺たちはありがたくその親切に甘えた。

 そのおかげで受験までの一年間を何不自由なく勉強に費やし、無事、進学することが出来た。大学受験をしないるーには、たびたび妨害を受けたが。

 その後、俺は都内の大学に通うために上京、知は高校生になった今でも叔父の家に厄介になっている。


 こんな長々と自分語りをして、つまり何が言いたいかというと………。


「いつまで歩けば良いんだよ!!見えてんのに一向に近づいた気がしないぞ!」


 俺は自然が好きではない、ただそれだけだった。あと、歩いているときの時間つぶしも。



 北海道民がみんな自然好きなんて思わないでほしい。北海道イコール大自然。雄大な大地と放牧とジャガイモと鹿、なんてイメージ持ってる奴らはみんな冬に来てみろ。十月から六月までアパート借りて住んでみろ。死ぬぞ。巨大冷蔵庫になんて閉じ込められなくても簡単に凍死するぞ。死亡時刻動かせるぞ。

 俺は雄大な大地は知らないが、冬の恐怖なら知ってる。それなら都市部にもあった。吹雪で目の前も見えない。雪が積もって屋根がミシミシ言うし、積雪でドアが開かなくなる。雪かきしなけりゃ、道もなけりゃドアも開かない。道が無けりゃ買い物にもいけない。死ぬ。

 東京暮らしは良かった。腹が減れば深夜でもコンビニがやってる。夜に閉まるセイコーマートじゃない。二十四時間営業のファミリーマートだ。ファミチキ、肉まん、丼プリン。都会最高。



「俺は、自然が、大嫌いだ!!!!!!」



 叫んでも妄想しても空腹は満たされない。






(続)




今回は少し短めです。適切な分量に調節するのは苦手です……。

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