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とうをつくるおしごと  作者: こうせきラジオ
14/55

一夜で14で二見ごろ、ゴロゴロしたいは人心 ~心理的に扉は拒絶であり、解放であり………どっちでもいんだろ。それっぽければ~







 扉を開けたら、果てしない大地が広がっていた。


「……………………………………………………」


 扉を閉める。ゆっくりと、しかし力強く。ガチャガチャと取っ手を動かして、扉を前後させてしっかりと閉まった事を確認する。しばらく確認して、扉を背にして座り込む。よしかかって体重をかける。ちっとやそっとじゃ開かないように全体重で。そして―――


「なに?今の?」


 振り返る、声に出して。今の混乱を、動揺を、声に出して確認する。


「外?外だったか、今。いやいや、いやいやいやいや。おかしいでしょ。だってさっき部屋をパージしたとき、空だったじゃん。ここよりもっと、全然下の部屋に居たときに見たじゃん。地面も見えないくらい高いとこだったじゃん。雲見えてたじゃん。下に。なんで上に見えてんの、今?え、違う?見間違い?目の錯覚?」


 絶賛大混乱中。


「えいやって飛んだら、地面につけちゃったりすんのかね?飛んでみる?いっぺん飛んでみる?アイキャンフライしちゃう?………って、しねえよ!!なんでそんな一か八かで命がけのダイブしなきゃならないんだよ。違ったらどうなんだよ。あの世まで飛んでっちまうわ。思い出せよ。パージした部屋が地面に衝突する音だって聞こえなかったじゃねえかよ。そんなギャンブル出来るかよ!まだ、鉄骨渡りの方がましだよ!」


 誰と言わず自分に語り、自分に提案し、自分にキレる。俺様劇場。主演・助演・監督・観客、全部俺。全米が泣いた。哀れんだ。


「………まてまて、一人で大騒ぎしてまるっきり変な人じゃないか。落ち着け、俺」


 俺様劇場、閉幕。次はない。


「落ち着いて考えよう。扉を開いたら外だった。乾燥した風に砂煙すなけむりが舞い、草っぽい匂いも感じた。ここよりも明るかったし、若干、暑さもあった」


 錯覚なようでそれでいて、すごいリアルな感覚。


「それを踏まえて考えよう。


 第一案:塔の中に作られた屋外っぽいの部屋に見えて、実は室内。風は送風機。光は照明。土は持ってきたし、草はプランター栽培………あり得なくはない。次。


 第二案:外に繋がっている。塔の上、屋上の様な場所。都内の企業とかで流行っている屋上庭園の類い。


 第三案:塔とは違う場所に繋がっている。おそらく地表のどこか。詳しくはわからない。『どこでもドア』的な物で移動した。


 第四案:夢、幻の類い……………これはないな。もう、そういった状況は過ぎている。『夢なら良いな』って思える時期は過ぎてる。いい加減現実を受け入れないと。これが夢なら初めから全部夢であってほしい。………………目覚めたとき、ゲロまみれでも船の上でいて欲しい。そうあってほしいと、思う。無駄な願いだが。


 案は出したものの、全て案でしかない。それを確証づけるためには。


「はあ、もう一回開いてみるしかないよな………よし。」


 気は進まない。思わず見て見ぬふりをしてしまいたくなるが、そうも言っていられない現状がある。一度目をつぶり、深く深呼吸。両手で頬を叩いて気合いを入れ直す。そして、再び、扉に手をかける。

(願わくば、願わくば理解の範囲内でいてくれ)

 切実な、願いだった。が、自分でも笑ってしまうほどに、期待をしていない、それでいて切実な本心出会ったが、扉を開いて、やはりそれが叶わない願いだったことを確認した。いや、わかっていたので再確認したと言うのが正しいか。



 そこには――――――果てしない大地が広がっていた。



 やっぱり外。天井は………ない。太陽が燦々(さんさん)と輝いている大空。太陽だけにSUNSUNと。いや、ダジャレとかくだらない事考えても状況は変わらないんだけど。

 そして、少し訂正。果てしなくはなかった。果てはあった。割と近く、目の前に砂の壁があった。


 数歩踏み出す。ジャリッと、靴の下で砂のこすれる音がする。足下には砂や砂利、乾いた土が埋め尽くされている。歩くたびに、靴底についた砂が風に舞う。所々ひび割れがある様子を見るに、水分の少ない地形なのだろうか。

 周りを見回す。すり鉢状に周囲が高くなっている。どうやら、ここは窪地の底のようだ。遠くを見通すことは、出来ない。見るにはふちまで登らなければならないだろう。


 なぜ果てしないと感じたのだろう。人の目は信用ならないと聞いたことがあるけれども、これほどのものとは知らなかった。

 バナナがナイフに、ケチャップが血に見えるのもうなずける。


 第四案は否定された。まあ、第四案は発案時点で棄却されたが。第一案も微妙になった。天井も照明も見えないしな。


(屋上庭園にしても、妙な作りだな)


 先ほど、ちらりと見た空へ目をやる。やはり天井はなく、空が広がっている。もしかしたら、見えないほど上空にあるのかもしれないけれども、目をこらすように空を見上げても、やはりわからない。その代わり、日光をその目に浴びすぎて少しちかちかした。


 真上に太陽が輝く、天晴れと言いたくなるような晴天。心地よい乾燥した空気に緑色の匂いのする風。少し砂が気になるが、鼻歌を口ずさんでスキップしたくなる程によい陽気。鼻歌を口ずさむってのも変な表現だよな。鼻なのに口ずさむって………。


 もっと遠くを見てみたくなり、斜面を登ってみたのだが、これがなかなか骨の折れる作業だった。

 ここの地面は乾燥した土や砂。それは斜面も同様で、試しに足の裏でこすってみるとさらさらと崩れて坂を流れてくる。細かい砂が風に舞う。

 歩を進めると案の定、重さに耐えきれない砂がこぼれ落ちて、下へ下へと足を取り、容易に進ませてくれない。登ったと思ったら崩れ、さらに登ってまた崩れる。三歩進んで二歩降りる。振り出しに戻る。


(まるで蟻地獄にはまったみたいだな)


 何気なく浮かんだ言葉だったがじわじわと怖くなり、そっと、刺激しない様にゆっくりと、後ろを振り返る。さきほどまでいた窪地の底をじっと、心なしか息を潜めて見つめる。が、どうやらウスバカゲロウさんのお子さんはお留守のようだ。在宅しているかも怪しい。出てきた扉が悠然とそびえ立つのみであった。


(ふう。食べ物は欲しいけど、食べ物になりたくはないからなぁ)


 ゆっくりと、何度も流され、戻されながらもどうにか踏破。窪地の淵で辺りを見渡す。



 三度目の正直。こここそ、まさに―――――果てしない大地が広がっていた。


「サバンナ?」


 ポロッと、口からこぼれた言葉が、俺の見えた風景の全てを表していた。

 窪地からどこまでも続く草原。遠くには大きな岩とソレを囲むような深い茂み。反対方向には森が見える。それ以外は、見渡す限りの草原。地平線の先までも、それが続いている。

 こんな光景を表す言葉を俺は一つしか知らない。サバンナ。実際に見たことのない、テレビからの知識でしかないけれど。


「まじかよ。アフリカとか。海外旅行すら行ったことないんだぞ、俺は。初めての海外がアフリカって難易度高過ぎだろ。アフリカって何語だったっけ。アフリカ語か?ジャンボッ!とか言っとけば通じるのか。いやいや、そもそもアフリカは国名じゃない、アフリカ語なんてないだろう」


 大混乱。今日何度目か、数えるのも考えるのもイヤになるくらいの大混乱だ。俺の平静はどこにあるのか。俺の冷静は、どこにあるのか。

 そもそもまず、ここがアフリカかどうかもわからない。それどころか人がいるかさえわからない。


「これは………二案も廃案かな?地平線が見えているし。壁やら床やらに途中から絵か映像が投影されてて、実際は部屋の中とかならまだ可能性はありそうだけれど。箱庭みたいな場所だったり………」


 ああ、あれだ。


「………トゥルーマン・ショー」


 古い映画だ。幼い頃に見て、その後の人生に人間不信の種を植え付けた映画。今、思い返せば面白い設定だと思うが、子供心に、恐ろしいと感じさせた作品だった。ホラー映画とは違う意味の、怖い映画。まだ世界との、社会とのつながりが曖昧な子供に、実はこの世界は偽物で、全部、誰かの見世物なのかも知れない、作り物なのかも知れない、何かの実験の産物ではないかと思わせた。疑わせた。今まで必死に作り上げてきた小さな、小さな世界の全てを破壊されかねない、そんな、衝撃的な映画だった。

 その影響をもろに受けた俺の思春期はというと、洗面台の鏡を割ってみたい衝動に苛まれつづけた思春期だった。頭のどこかに常に疑問がついてきた。ふとしたときに頭をよぎった。この世界は偽物なんじゃないか、誰かが、俺のざまを見て楽しんでるんじゃないか、と。

 俺は、この作品は例え名作であっても、大人になるまで子供に見せてはいけない類いの映画だと心に刻んだ。刻みつけられた。


 過去のトラウマを呼び覚ましてしまったが、もしここが箱庭かなにかだとしたとしても、これ以上考えても仕方がなさそうだ。

 それほどの大規模で事が運ばれていたとしたら、どの案だとしても、無理矢理説明がつけられてしまう。第四案だって、実は最近はやりのVR物でした、なんて言われてしまったら、まあ、夢オチと似たようなもんだと、納得しなくもない。

 もともとが不思議体験なのだから、ここでどの案が来てもおかしくないんだ。それより、もっと現実的な問題がある。


「腹、減ったな………」


 いいかげん腹が減った。空腹。かなり切実な問題だ。おなかと背中がくっついちゃう。くっついちゃうとか、かわいい表現しているけれども、それ、内蔵とか骨とかなくなってるからね。言うほどかわいいことになってないから。えげつないことになってるからね。



 人間は飢えても水があれば三、四週間生きられるとか。水無しでも一週間は大丈夫らしいとか、訳知り顔で言ってくるやついるけど、そいつだって実際に体験したわけじゃないだろ。チーズバーガーとか食いながら、気持ちよく語っちゃってんだろ。全然説得力ないわ。

 そりゃあ、歴史を紐解けば、そう言う類いの話はいっぱいあるよ。羽柴秀吉とか好きだもんな、そういうの。かつごろしの研究本、見た事あるけどかなり生々しかったわ。

 確かにそれぐらいの期間、生きられるんだろうよ。そのぐらいが限度だったんだろう。確かに書いてあったよ。書いてあったけどもさ。だが、言いたい。主張したい。声を大にして主張したい。


「そんなん、飽食の時代に育った現代人にできるか!!!!」


 俺たちは三度三度の食事に慣らされているサラブレッドだ。朝昼午後晩深夜の計五回、何かを食べてる飽食のスペシャリストだぞ。そんな、一日二回、一汁一菜の少ない食事が基本の時代の話が、そのまま適応されるか。理論値でモノを言ってんじゃない!理論だけで実践ができるわけがない。しかも、その理論すらガバガバなんじゃ目も当てられない。これぞまさに机上の空論と言うやつだ!

 腹が減るったら減るのだ。のどが渇くったら乾くのだ。生きられる、じゃない!我慢できないんだ!耐えられないんだ!!是非はない!!


 何か食わなきゃ、やってけない。そもそもがこんな、どこに何が潜んでいるのかわからん場所で生きていける気がしないってのに、飢え死になんてしたかぁない。

 塔の中には食べ物がある気がしなかったが、ここは違う。森がある。動物がいるだろうし、虫もいるはず。最悪でも草が食えるはず。

 そうと決まれば、進もう。森へ。食料を探しに。



 ちなみに渇きは、ある程度抑えられている。理由は………墓まで持って行く秘密だ。






(続)

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