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とうをつくるおしごと  作者: こうせきラジオ
11/55

11言っても頭に入らん、一気に言っても耳には残らん。相手に伝わる、努力しろ ~前に向かって、さあ、羽ばたこう~


お待たせしました。分割分、後編です。話は全然進みません。






 当面の方針は決まったが、その前にやるべき事があった。それは、発見しつつもその機能を未確認のままあえて放置していた、北壁のボタンの調査だ。

 初めにみたのは、気が付いた部屋の北壁でわりかし早く発見したボタン。壊れていたのか、押しても全く反応しなかった何の絵柄も書かれていないボタン。しかし、隣の部屋ではそれが生きている。動いている、ようにみえる。なんとも曖昧な言い方なのは、まだ未確認だから。押すのが躊躇われて、何が起きるか確認が取れていないのだ。

 壊れたボタンと異なる点は二つ。隔壁の昇降ボタンと同じように、ボタンの中央に絵柄が描かれていることと、そのボタンが真っ赤に点灯していること。

 描かれているのは四角と下へ引かれた矢印。順当に考えたら隔壁を下ろす事を意味しているのだろうけれども、何かがおかしい。昇降のボタンと絵柄が異なるし、なにより赤く点灯していることが、言葉にできない危険を想起させる。


(同じ機能なら同じ絵柄にするはず。なのに、それでもあえて模様を変えているのだとしたら………)


 不穏なものを感じる。見てるだけで不安になるというか、イヤな予感がするというか。正直、押したくない。これはやばい。そんな気がする。あとにしよう。保留保留。イヤな物は後回し、やらないわけじゃないから、あとでやるから。もちろん誰かが代わりにやってくれるなら、こちらは全然かまわないですよ。むしろ、よろしく。

 と、まあ、そう言う経緯で、今の今まで押されずに残っていたわけだが………。六部屋全ての調査が終了するまでのあいだ、誰にも肩代わりされることはなくそこに残されていた(当たり前だが)。流石にもうそろそろ、見て見ぬふりも出来ないか。


 押したくはない。イヤな予感は当たるものだから。むやみにリスクを負う必要はない。全くない。皆無だ。だがそれと同時に、押したらどうなってしまうのだろうと言う好奇心もある。押すなと言われると押したくなる。やるなといわれると、逆にやりたくなってしまう。一休さんだってそうだろ。橋を渡るなって書いてるのに、『じゃあ、真ん中』なんて普通はやらない。実在していたらとんでもないひねくれ者のはずだ。

 ただ、何が起こるかわからないからこそ、何が起こるか確かめたいと言うのも人の本能だろう。怖い物見たさと言うやつ。或いは、危険か危険ではないのかをうやむやにせず、見極めたいのかもしれない。本能的に。その結果さらに恐怖するのか、こんなもんかと拍子抜けするのかは自己責任。どんな行為にも結果は付いてくる。自分で払えるならやればいい。


 なんてぐだぐだ言ってみたけど、要約すると『押すよっ!』の一言なのだが。


 心が決まり、言い訳が立ち、大義を胸にボタンを押す……………心構えをする。すぐには押せない。こう見えても緊張している。二番目の部屋の北壁で、赤々と光り輝くボタンの前に立つ。見ているだけで心がざわめかせられるそれを、意を決して押し込む。


「ポチッとな」


 すぐに距離を取る。隣の部屋に続く開けた隔壁のそばで、事の成り行きを見守る。


(大丈夫。何かあっても隣の部屋に逃げ込む用意は出来ている。最悪、隣の部屋に逃げ込んで隔壁を閉じれば………………あれ?もし、今押したボタンが隔壁の昇降ボタンじゃなかったら、片側からしか隔壁は上げられないんじゃないか?)


 ふと疑問がよぎるが、それを考えている暇はなかった。


 突如としてけたたましく鳴る警報音。高音で耳をつんざくように鳴り響くそれは、聞くだけで心を不安と焦燥感で一杯にされる。しばらくの間、自分の声とピヨピヨ以外聞いていなかった俺にとって、それはより強烈に耳に響く。


『緊……報、緊急警……。第…………番ルームの排出…………が作動されま………。……秒以内に隔離、排出を行います。直ちに………してください。隔離ボタンが押されました。直ちに避難―――――」


 なんか言ってる。聞き取りづらかったけど、めっちゃ不穏な事言ってる。隔壁は降りて………来ない。じゃあ、ただのアナウンスボタン…………なわけはないよな。なんか、やばい感じだもんな。ああ、なんなんだよ。あっ、そうだ!後ろは………………今のところなんともなさそうだけど、なんかやばそうだ。離れた方がよさそうだな。

 足早に隣部屋まで避難。壁を盾にして、遠巻きに動向を見守ることにする。けたたましく警報が鳴り響き、どこからかガゴッガゴッと何かが動いている音が聞こえる。それと同時に小さく部屋全体が振動している、地鳴りのような音が響く。


(聞き取りにくかったけど『緊急警報』が言ってたよな。それに『カクリ、ハイシュツ』が隔離とか排出の事なら――――――)


 いきなりの状況の変化に、思考が転がる。まとまらず、さりとて落ち着くでもなく、ただ、固唾を呑んで、見守る。徐々に、地鳴りや揺れもおさまってきて、音はそれに反して、なおも高らかに―――――

 

 瞬間―――――。


 ザザッと何かが擦れる音と共に、目の前の部屋が―――――なくなった。


(は?)


 何もなくなっていた。部屋があった場所に、なにも。あるのは穴だけ、横一メートル、縦二メートルほどの穴がぽっかりと、そこに開いていた。それはちょうど隔壁と同じくらいの大きさで……………。

 

 その穴の先には、空が広がっていた。青い、雲一つ無い青空が。


(え?…………空?)


 何が起こったのか、うまく考えがまとまらず、呆然とその光景を眺める。と、地響きのような音が聞こえた気がした。先ほどのような壁の中からではない。遠く、かすかに軽く小さく聞こえたような気がした。衣擦きぬずれの音のようで、聞き間違いのようにも感じた。振動は、ない。

 一歩、また一歩とその穴に近づいていく。まるで誘蛾灯に誘われる羽虫のように、何も考えず光に誘われていく。

 いつぶりだったか。太陽の光を感じたのは、もうだいぶ昔の事の様に思えて…………。つま先が、くうを踏む。穴の縁に手をかけて、覗く。


「ひっ!」


 その光景を目の当たりにして、我に返った。腰が抜け、その場に座り込む。尻もちをつく。知らず知らず呼吸を止めていたのか、今になって荒々しく息をする。動悸が止まらない。


「何してた?俺、今なにしようとしてた?!」


 わからなかった。外を確認しようとしたのか、光に誘われたのか。それとも――――――。


 それ以上考えたくない。頭をぶんぶんと振ってごまかす。振って、考えが飛ばされることを望んで、さらに振る。

 軽いめまいがして、やめる。そのまま、しばらくの間そこに座り込んでいた。いや、腰が抜けて動けなかったのだ。三分、五分、十分。どれくらい座っていたのか、既に音も振動もなく、これ以上動く気配も感じなかった。

 安全が確認されたからか、やっと思考も体も平静を取り戻してきた。動き出してきた。


(落ちた?部屋ごと?)


 自問したが、答えは明らかだった。火を見るよりも明らかだった。日を見るように、明らかだ。先ほどまで一つの部屋があったその場所には、なにもない。青空と日の光が広がっている。


(いやいやいやいや)


 開かれたソコからのぞき込む。落ちないようにカベに両手をついて、戦々恐々としながら顔を出す。地面は、見えない。遥か遠くに、雲海が広がっている。


(おいおいおいおい、雲海が遙か下って、ここは標高何メートルなんだよ。てか、雲海ってどんくらい高ければ見られるもんなんだよ?)


 開かれた穴から冷たい風が吹き込んでくる。強く、頬を撫でる。髪を逆立てる。


(世界一高いのはブルジュ・ハリファだったか?金持ちの国ドバイに建ってる世界一高いビル。いや、金持ちの国かは知らないけど。だめだ、全然イメージ沸かないな。日本、日本で考えよう。高い建物なんて、スカイツリーくらいしか思い浮かばないんだけど、あれ、雲どうなってんだろ?)


 もっとよく見てみたいと思ったが、先ほどのこともあり躊躇する。少し情けない姿だが、床に仰向けになって顔だけ外に出す。こうすれば、足を滑らせることはない。両手で縁を持ち、足をめいっぱい大きく広げる。こうすれば、もしもの時でも縁に引っかかるかも知れない。そう思ってやった結果だったが、他人には見せられない姿だった。


 身を乗り出して、目をこらして周りを見る。青と白、それ以外に何も見えない。この高さは、まさしく塔という感じだった。しかし、それだけの高さなのだと思うと、それにしてはおかしな点に気がついた。


(建物のカベも見えないんだが………)


 どういうことか、普通見えるはずの今いる建物の壁が見えない。下を見ても、上を見ても、この部屋と繋がっている建物の一部が見えない。ここが最上階なのだとしたら、上に何もないのはいいが、下に何もないのはおかしい。

 或いは、ここがさながらガリバー旅行記のラピュータのように空中に浮いているのだとすれば、納得がいくものではあるけれども、それだとじゃあ、ここはどこなんだと言う疑問が浮上する。浮かび上がる。

 今まで、ここはあくまでエルと出会った場所、エルが言っていた塔の内部という前提のもとで行動していたが、それが根底から覆される結果となってしまっては、それこそどうにも収拾の付かない大問題になってしまう。ここは、果たしてどこなのか。


(その疑問は不毛だな。答えを探さずにはいられないが、絶対に正解の出ない、時間の浪費しか出来ない問題だ。それは、まさしく大問題だ)


 少なくとも、ここは塔だという前提で動いた方が精神衛生上正しいと思う。そう、思おうと心に決める。

 とりあえず、ここは塔だ。だから高い。下が見えない程の高さもここが塔だから。納得できる説明かどうかは置いておいて、無理矢理、そう理解させる。


(じゃあ、浮かんでいないとして、どうすれば下が見えない事を説明する?)


 答えを出すのには、あまり悩まなかった。それは現代でも見られることだったから。


(出っ張っていれば、下は見えない)


 そう。ベランダの様に建物から突き出た構造をしてれば、その出っ張りが極端に出っ張っていれば、まるでこの部屋まるまる出っ張っていれば。下の壁は見えないだろう。なんせ、下からは支えられていないのだから。


「あ」


 今まで考えないようにしていたことにまで、説明が行ってしまった。こうなった原因。つまり、部屋一つ丸ごとなくなった理由について。本来なら、そのことこそ一番早く考えるべきで、考えなくとも答えなどすぐにたどり着けるはずで、それでもあえて考えないようにしていた。想像できる答えが恐ろしすぎて、狂気じみてて。


 簡単なことだ。先ほどの機械じみた音声の内容。『カクリ』『ハイシュツ』それに『警報音』『駆動音』『振動』そして『ひらけた青空』と『こすれる様な音』『ボタンは部屋の外』。それらのキーワードを組み合わせると――――――。


 強制排除ボタン。部屋の外から操作して、部屋ごと部屋の中の物全てを隔離・排出する機能。部屋をパージする。そのスイッチが、あのボタンなのだろう。


「本当にSFじみてきてるよな。こんな機能、SFの宇宙船とか研究室とかでしか知らねえよ………」


 研究室。という言葉が、やけにしっくりとくる。温度や空気の流れがないこと。光源がないのに一定の光が降り注ぎ、誰もいないのにほこりもない。まるで部屋全体を一定の環境に保とうとしているような感じは、確かに研究室という言葉がよく似合う。問題があれば、排除できる所も…………。

 

 ベランダ仮説なんて、無理矢理納得するための暴論だったが、こうなると否定もしづらい。引力に任せてしまえば簡単に処理できるのだから。凶悪な生物がいても、この高さから落ちればただじゃすまないだろうし。生きててもこの標高だ。我関せずを決めこめる。


「不法投棄かよ。いやはや素晴らしいゴミ処理法だな。まったく」


 誰とも知れず、皮肉る。こんな機能が、少なくともあと四部屋に付いている。おそらくそれ以上あるだろう。

 狂人だ、狂人だと思っていたが、まさかここまでとは。なんて恐ろしい物を作るんだ。落とした跡に隔壁すらなく、ぽっかりと穴が開いているところなど。その不合理さが、不可解さがさらにマッドな印象を加速させる。興味のない部分はどうでもいいのだろうか。なんにしても。


「パージボタン。絶対に押さない様に気をつけよう」

 

 そして、グッバイ、マイルーム。



(続)



本日二度目の投稿です。

次話は明日の予定。


ら「投稿前に最終チェックをするのですが、今まで気にならなかった言い回しや設定のミスを見つける事がたまにあります。一つ直すとドミノのように次々と改修する事になり、気づけば半分近く修正したりして。…………どこまで行っても、納得のいく文章というのは成り難いものだと痛感する毎日です」

さ「投稿一週間で『たまに』ってどんだけの頻度でミスってんだよ。まだ、十話だぞ。早すぎだろ!!」

ら「ピヨピヨピヨピヨ・ピヨピヨピヨピヨ」

さ「ぬあぁぁぁぁぁっ!!その音はやめろおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

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