表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生秋
96/125

久しぶりだな

 めちゃくちゃ腹が痛い。統次が必死に傷口を押さえてくれ、相楽さんは泣きながらこちらを見ている。

 咄嗟の判断を間違えた。一撃なら、筋硬化で防ぎ切れると思ったが、ナイフを隠し持っていた。それに気付けなかった。

 大きく呼吸をして、腹部に集中する。向き合いたくない痛みを受け止める。不思議と意識ははっきりしていた。

 保呂羽さんと久地道はどうなった顔を上げると、保呂羽さんの一撃を顔面で受けた久地道が、鳩尾へ返し技を喰らわせているところだった。ドスっという鈍い音がして、保呂羽さんが吹っ飛ばされる。

 受け身も取れず、地面に転がる。

 久地道の攻撃を受けた保呂羽さんは、しばらく呼吸が乱れる。骨も何本か折れただろう。いくら狂態化で治癒が常人より優れていても数分はまともに立ち上がることもできない。

 ならば、その間俺が闘わないと、保呂羽さんが殺される。

 歯を食いしばり、全身に力を込める。

 「おい!動くな!」

 統次の言葉を無視して立ちあがろうとする。

 「三城君…!無理だよ…!」

 相楽さんが涙声で訴える。

 しかし、俺がやらなきゃ。この2人も殺されるかもしれない。

 やるしかない。

 腹に力を入れ、拳を握り締め、無意識に叫び、腰を浮かした。

 その時、誰かが俺の肩に手を乗せる。

 振り返ると色紙さんがいた。

 近付く音に気が付かなかったが、直ぐ近くまで来ていたらしい。

 浮かした腰を下ろして、全身が脱力するのを感じる。

 「ごめん、遅れた。」

 そう言って、四季さんは数歩前に出る。

 「先輩。」

 色紙さんは久地道を見据え呟く。

 「CTTになったんですね。」

 侮蔑するような低い声だ。

 「久しぶりだな。」

 久地道が質問に答えず、戯けたように言う。

 「…。あの時の、私に言った言葉は…。」

 色紙さんは目線を下げて呟くが語尾が小さくなっていき聞き取れない。

 「私はPPになりました。だから殺しますね。」

 「正直、色紙とはやり合いたくない。寿命を削り合うだけだろう。」

 色紙さんは跳躍し側頭部へ蹴りを入れるが、それを左腕で受け止める。

 みしり、と嫌な音が聞こえた。

 一瞬、間を開けて久地道が蹴りを腹部へ入れる。色紙さんは受け止めようとするが、重い一撃を受け止め切れず、そのまま色紙さんを吹っ飛ばした。

 地面を転がるが、直ぐに立ち上がって大きく息を吸う。

 「そうか…。それじゃあ、寿命の削り合いだ。」

 その言葉を皮切りに、2人は交互に相手を殴り、蹴る。両者とも、ノーガードで攻撃だけを続けている。

 その隙に保呂羽さんが起き上がり、腹部を押さえてこちらに歩いてくる。

 「三城、生きてるか?」

 「俺は大丈夫です。保呂羽さんは…?」

 「まずは自分の心配をせい。」

 保呂羽さんが統次を避けさせ、服を捲り傷を見る。

 「これは…?」

 保呂羽さんは驚いた声を出す。

 腹部の傷改めて見る。血で塗れているが、傷口は既に塞がっていて、出血も治っている。こんなに早く塞がるものなのか?

 「ど、ど、どういうことですか!?」

 涙を拭って相楽さんが大きな声を出す。

 「あいつらと同じやな。」

 大きなため息を吐く。

 「…どういうことですか。」

 絞り出すように統次が言う。

 「あいつら、身体の怪我を直ぐに治す事ができる。よく見て。」

 俺はもう分かっていたが、統次や相楽さんには見えていないかもしれない。

 色紙さんが久地道の左肩を殴った右手は衝撃に耐え切れず、指、掌、腕まで骨が折れ、筋繊維が千切れている。常人なら数ヶ月掛かって治るその怪我を次の攻撃を繰り出す数秒後には完治している。

 殴られた久地道の左肩も同様に、砕けている。それが数秒で治る。

 お互い、相手の防御を上回る火力を出すために、自身の身体を壊しながら相手の身体を壊している。

 「勝負はもう分からない。再生が追いつかないほどの一撃をもらった方か、寿命、体力、気力が先に尽きた方が負ける。」

 2人から目線を外し、俺を見る。

 「そして、三城も同じ。」

 「よ、良かったぁ。死んじゃうかと思ったよ。」

 相楽さんが膝から崩れる。

 「そもそも。」

 統次が低い声を出す。

 「俺らは色紙さんもハルも、あんたもあいつも何者か分かってないだ。なんで、あんたらは殺し合ってるんだ…。」

 少し声が震えていた気がする。

 「話せば長いが…。」

 保呂羽さんは統次ではなく色紙さんを見ながら言う。

 「今、色紙が負けたら未来が変わる。私達は、未来を守るために未来から来てる。三城は、この時代の人やけど例外的に関わってる。あんたらも本当は知っちゃいけないことやったんやけど、ここまできたらしょうがない。」

 それを聞いて、内容を反芻しているのか、理解が追い付いていないのか統次は黙った。

 「俺も色紙さんに加勢すれば。」

 「ダメ。」

 保呂羽さんが短く強く否定する。

 「私も三城も、致命傷を負った。私は骨が折れてまともに動けない。私はあんたらみたいな超回復は出来ない。三城は傷は治ったし超回復もあるけど、血を流し過ぎた。立ち上がっただけで目眩と吐き気で動けない。」

 言い返すことも出来ず、熾烈を極める2人の闘いを見守る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ