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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生秋
94/125

保呂羽優愛子

 久地道を殺すなら、本気でやるしかない。

 気持ちの面で、久地道を殺せるかまだ結論が出ていない。きっと、私なら殺せるだろうと、どこか他人事のように考えている。だけど、実際に殺せる隙を作り出せるか、殺せる状態まで追い詰められるか分からない。リリドラの使用を認めた以上、少なくとも私よりは強い。三城と2人掛りでやっとだ。全力でやらないと私が殺される。

 私は、狂態化によって能力が開花している。

 他人の脳や脊髄が発する電気信号を感知する事ができるのだ。右手を上げるという意志が、他人の肉体に伝達するのとほぼ同時に私が感知する。

 だから、相手がどこにどんな攻撃をしてくるのか、どのような防御をするのか全て分かる。

 よく周りには反則だと言われたが、万能ではない。

 勘違いされるが、これは未来予知ではない。

 相手が実際に肉体に指示を出したと同時に感知するため、動き出す瞬間に分かる。つまり、予知未満の予測ということ。私の身体能力が攻撃に追いつかないと躱せないし、私より相手の動きが早ければ攻撃は躱される。どう動くか分かっても、身体が追いつかない事がある。

 今までそれが出来たのは、久地道と色紙、そして三城だけだ。

 そして、久地道はその理由によって勝てない。

 こいつは事前に防御姿勢を取らない。確実に一撃入ると思っても攻撃の当たる直前に防御姿勢を取る。防御されると電気信号が届いた時には、私はもう引けないところまで攻撃の手が進んでいる。それなのに久地道は、私の攻撃を防御出来る。尋常じゃない身体能力がそれを可能にしている。

 私の能力を知っての対応だ。

 久地道なら、私が防御や回避が追いつかない速さで攻撃が繰り出す事もできるだろう。それが今できないのは三城君がいるからだ。私をフォーカスする事で、三城が久地道に致命的な一撃を入れることができると分かっている。

 しかし、この攻防もほんの少しの綻び崩れる。少しでも三城が久地道を攻撃範囲から捉えて損ったらすぐさま私を殺すだろう。逆に、私がフォロー出来ない位置まで下がってしまったら、三城君に重い一撃が入ってしまう。

 それなのに、現状では久地道に一撃を入れるチャンスがない。

 それなら。

 私は攻防の中、三城の背後で一瞬久地道から視線を切り、再び姿を見せる間にイヤリングを外す。

 それを指の間に挟み、久地道を殴り付ける。

 防御されるが構わない。イヤリングの菱形の宝石のような飾りの一つを付ける事が出来た。

 三城に声を掛ける。

 「次の一撃、私を信じて全力で!」

 この数日しか関係のない私に命を掛けれるか分からなかったが、これしかない。

 三城は愚直に顔面に右ストレートを放とうとしている事が、電気信号で伝わる。その動きを見た久地道がアッパーで合わせようとしてる事が電気信号で伝わる。久地道の方が僅かに早く、リーチもあるこのままでは三城の拳は届かない。

 今だ。

 「技量解放。」

 イメージする。

 三城を狙う右腕が、突然止まるように。

 すると久地道の動きが一瞬止まる。その隙に、三城の拳が久地道の顔面を捉える。

そして後方へぶっ飛び、灯籠に頭をぶつけてそのまあ地に仰向けで伏せる。

 灯籠には血が付き、久地道の頭から血が流れている。

 「三城、ごめん。手を汚させて。」

 そう言うと、三城は脱力しこちらを見る。うっすらと笑顔で

 「直ぐに久永のところに行きましょう。」

 と言った。

 PPよりもPPらしい。

 よしと呟いてその場から離れようとする。

 「いや、まだダメだ。」

 声がした。

 久地道の方を見る。

 上体を起こし、頭から血が流れて鼻は歪に曲がっている。

 あれを食らって生きている…?そして、すぐに復活した?普通の人間なら後頭部の強打により、脳に深刻なダメージが入り、起き上がるどころか意識がなくなる。そして、10秒前後で全身の痙攣が始まり、適切な処置をしなければ死ぬ。たとえ、応急処置が間に合っても、後遺症の恐れがある。

 狂態化出来る人間でも、顔面には筋肉が少なく筋硬化で防げるものではない。それに、脳へのダメージも深刻なはずだ。それなのに、こんなにすぐ立ち上がっている。これは、

 「能力の開花…。」

 そう言った時にはもう、久地道は立ち上がっていた。

 鼻に手を当て、ミシミシ、バキバキと音が鳴る。手を離すと、元の鼻に戻っている。

 そういうことか。

 「一体…。能力の開花って…。」

 三城は理解出来ていないようだ。色紙のバカ。勉強させておけ。

 時間稼ぎは久地道の望むところだろうが、今はなす術がなくなった。こちらも仕方ないから、三城に説明する。

 「狂態化はあくまで身体能力の向上、出来るけど無意識のリミッターが掛けられている事を無理矢理やること。身体を機械に例えて言うなら、機械のスペックをフル稼働させること。能力の開花は、それに加えて身体に新たな能力が生まれること。新たにソフトウェアをインストールするようなものであったり、スペックの延長線上にあったりする。共通するのは、人間の可能性から逸脱していること。」

 説明する間、久地道がこちらに手を出す気配はない。頭に手を当てている。

 「それは狂態化が出来る人間よりもより少ない人数しかできない。私は、人の出す電気信号を認知出来る。これはある種の第六感。久地道は…。」

 そこで言葉を切る。久地道の表情は読めない。

 「超再生。」

 「…狂態化でも治癒能力は向上しますけど…。」

 三城の言いたい事は分かった。

 「数秒で折れた鼻が戻り、皮膚の鬱血や出血、裂傷まで治る訳がない。」

 そう代わりに言う。狂態化すれば傷や怪我の治りは早くなる。それでも、骨が折れれば数日は掛かる。しかし、

 「あり得るんだよ。人の傷はいつか治るものだろう。意図的に負傷した部分に細胞分裂を加速させる。言い方を変えれば、身体の一部を急速に老化させる。実際に久地道は怪我が完治するまでの時間に掛かる老化をしている。後頭部や脳だってそうだ。意図的に、成長を、治癒を加速させている。」

 自分で説明しながら、恐ろしい能力だと思う。ただでさえ、致命傷を与える事が難しい鍛えられた肉体と技量を持つのに、三城ほどの筋力から放たれたインパクトを顔面で受け、後頭部を灯籠に強打しながらも、数秒で完治可能な治癒能力も備えている。

 「保呂羽は、まだ弱点を克服していないね。」

 そう、私の弱点は火力の無さ。だからこいつに勝てた試しがない。

 どれだけ敵の動きが分かっても、私の火力を上回る防御力を持つ相手には太刀打ちできない。

 それが分かっていたから、より火力にある三城君に一撃を頼んだ。

 久地道は、確実に私の弱点だ。私より優れた身体能力で、動きを察知した私より早く動け、仮に致命傷を与えても超回復でなかった事にされる。

 ただし、超回復も無限ではない。寿命と本人の体力と気力を考えれば、回数に天井はある。しかし、久地道を相手に何回も致命傷を与え続けられるか。

 不意に久地道が地面を蹴り、距離を詰めてくる。

 すぐさま腕を前にし防御に徹するが、電気信号がそうじゃないと告げる。

 私から狙いを変え、三城に向かおうとしている。

 まずい。

 三城をフォローしようと防御姿勢から駆け出そうとするが、久地道の方が数段早かった。

 久地道は三城君の腹部に隠し持ったナイフを突き立てていた。

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