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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生秋
92/125

イレギュラー

 やってきた男はすらりと背の高い男で、歳はそこまで離れていないように見える。髪は無造作にうねり、整った顔をしているが、目が怖い。

 こちらを睨んでいる訳ではないが、眺めている訳でもない。大きな瞳がこちらを捉えると全てを見透かされているような気持ちになる。

 「イレギュラーが居ると気付いたけど。」

 こちらを見下ろしてそう言う。

 「君は保呂羽、それとも色紙の関係者?」

 黙る。

 何が正解か考えろ。

 「そうか。色紙の方か。」

 一瞬、目を見張ってしまう。何故バレた?カマをかけたのか?

 いや、制服か。

 2人を調べているなら、学校の制服くらい知っているだろう。

 「後ろの2人は関係ないのか。」

 本当に見透かされているんじゃないか。

 不意に耳のイヤホンから通信が聞こえる。

 「こっちは無事に改変阻止できた。どっちに向かったらええ?」

 保呂羽さんは改変阻止後は、どちらかに合流する予定になっていた。事件が起きてしまえば、CTTがどうこう出来るものじゃない。

 「こっちCTT多いし、人目に付かない場所以外と少ないけど何とかなってます。」

 色紙さんは大丈なようだ。

 「こっち来てほしいです。」

 作戦前に、各自の居場所が分かるアプリを入れていた。保呂羽さんのいる場所からなら直ぐ来れる場所に居るはずだ。

 返事は聞こえないが、きっとすぐ来る。

 「保呂羽が来るのか。」

 保呂羽さんと色紙さんの担当も理解しているらしい。

 「CTTですか?」

 2人がいるため、あまり未来についての話をしたくなかったが時間稼ぎをするしかない。

 「そうは見えないか?」

 その質問にどきりとする。違和感の正体に気付いた。CTTというよりPPの雰囲気がある。

 その動揺に気付いたのか小さく笑う。

 「察しが良いな。…染み付くものだな。」

 その言葉の意味を考える。

 「敵ですか?」

 PPが京都に来る理由はない。保呂羽さんや色紙さんが応援を呼んだのであれば、俺にだって情報共有があるし、まずは2人の元に行くだろう。保呂羽さんも色紙さんも知らない応援だった場合、俺を見てCTTから関わりを持たれた過去人と思うはずだ。保呂羽さんや色紙さんの関係者だと一番には思わない。

 それに俺をイレギュラーと言った。その言葉はCTT側の発言だ。

 「その通りと言ったらどうする?」

 統次と相楽さんをここから遠ざけたいが、こいつが何をするか分からない。俺を無視して2人を狙う可能性もあるし、人質にされるかもしれない。それに他にも仲間を連れていて、既に周囲を囲まれている可能性。どうあっても、俺が側で2人を守るしかない。

 しかし、こいつは強い。すぐ分かった。

 俺に相手が務まるか、いや、せめて保呂羽さんが来るまで2人を守れれば良い。

 「だったら。」

 そう言って、右脚を少し下げ足を開き拳を握り構える。

 「殺します。」

 左脚を全力で踏ん張ると石畳にヒビが入る感覚が伝わった。顔面目掛けて右脚でハイキックを繰り出すが、上体を仰け反らせかわされる。

 その勢いを殺さず、左脚を地から離して宙に浮く。身体を捻りもう一度回し蹴りを放つ。位置は先と変わらず側頭部、今度は腕でガードされる。

 とんでもない硬さで守られて、望んだ手応えはない。

 「重くて良い。殺すってのは嘘じゃないな。」

 無傷か。色紙さんにはほとんどの人間なら殺せると言われた事があるのに。

 「ちょ、ちょっと三城くん。」

 今まで黙っていたが、耐え切れなくなったのか後ろから相楽さんが声を出す。目線は男から離さず耳を傾ける。

 「この人は何?私たち、どうすれば?」

 俺への追求は諦めたようで助かる。先ほどまでと比べ物にならない殺気と雰囲気を流石に2人も気付いたのかもしれない。

 こいつを戦闘不能にするのはかなり大変だ。いや、出来るか分からない。

 「少し離れててほしいけど、神社からは出ないでほしい。神社の外に仲間が入れるかもしれない。」

 「居ないさ。」

 「信じられない。」

 顔を見るが、考えまでは当然読めない。

 「考えれば分かるだろう。他の仲間は全部色紙の所。あと少しは久永君の所。」

 やっぱり、久永を殺すのを諦めていない。

 久永のところに行くのを、こいつが見逃す訳がない。色紙さんは沼山の殺害を阻止している。

 保呂羽さんが来るまで耐えて、二人掛かりで挑むしかない。

 もう一度構え、最速で駆け寄る。

 体を落とし、海老蹴りをするがバックステップでかわされる。態勢を立て直し、追い掛けて顎を狙いをフックを放つが、今度はしゃがんでかわされる。

 何度も攻撃するが、その都度かわされる。色紙さんや鹿折さんと組み手をしている時と感覚が似ている。こちらの出方を伺うような、力量を測るような余裕のある受け方だ。

 ならば、とギアを一段階上げる。

 さっきより数段速くなった攻め手に感覚が狂えば良いと思ったが、それでも余裕があるようで攻撃は当たらない。

 さらにギアを上げる。ここまでくると、身体の骨が軋み出し、筋繊維が千切れそうになる。限界点だ。

 何発かは避けれないと判断したのか、防御力するようになったが、致命的な一撃を入れれない。

 突然、受けるだけだった相手がこちらの隙を突いて側頭部に拳を振るってくる。

 かなり早い。

 攻撃の意識を全て落とし、回避に全力を出す。

 重心を後ろに向け、半ば倒れるように躱す。

 相手はここぞとばかりに追撃してくる。

 右のストレート、足払い、鳩尾への掌底、顔面へのハイキック。

 全てを目で見て後方に躱す。瞬きが出来ない。

 元居た位置まで戻される。相手は攻撃の手を止める。

 やはり、かなり強い。色紙さんや保呂羽さんと比べても同等以上だ。

 「うん、色紙が教えてるだけあって強いな。」

 そう言うと指の関節をパキリと鳴らした。

 本気を出されたら殺されるかもしれない。

 大きく息を吸って、次の手を考える。

 遠くからサイレンの音が聞こえる。きっと、保呂羽さんの改変阻止した事件に向かっているのだろう。そちらにこの時代の警察は注力するだろうから、ある程度は派手になって良いと言っていた。

 全力を出してもダメとなれば、自損覚悟で更に狂態化するかしないか。

 覚悟が決まらず睨み合いになっていると、背後から足音が近付いてくる事に気が付いた。

 その足音の主は近くに来ると走るのをやめ、俺の隣で立ち止まった。

 「久地道…。」

 保呂羽さんは呟いた。

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