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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生秋
91/125

追走

 「な、何してんだよ…!」

 肩で息をしながら、こちらに問い掛ける。

 困った。何と誤魔化せば良いのかだろう。

 側から見れば、ただの暴漢だ。

 すると、今がチャンスと女が俺の傍を走り抜け、統次を押しに退けるように通りへ駆ける。

 「おわっ!」

 統次が驚いて声を出す。

 逃す訳にはいかないため、直ぐに追いかけ腕を掴み力で路地の方へ連れ戻す。

 「だから、何でそんなことしてんだよ。」

 語気を強めて問われる。

 統次は周りに転がるCTTにも気付いているようで、目線は泳ぐ。

 「喧嘩か?」

 俺が答えないのに、統次は続けて質問する。

 無視して女の顎を殴り、脳震盪を起こさせる。だらりと脱力して地面に伏せる。

 「ちょ、なっ…。」

 統次の声は段々と小さくなっている。

 通りから相楽さんがぜえぜえと息を切らして、路地へ入ってくる。

 「み、南君…。走るの速すぎ…、手加減して…。てか…、三城君がめちゃ…、速すぎ…。陸上やった方が…、良いんじゃない?」

 息を切らせながらそう言う。2人は俺を追いかけて来たようだ。まず統次が俺に追い付き、現場を目撃した。相楽さんは走るのが遅く、今到着したところらしい。

 最速で走った俺に追い付けるはずがない。およその方角に検討を付けて、しらみ潰しに来たのだろう。

 しかし、何のために。

 「何でここにきた?」

 「先に聞いてんのはこっちだろ!」

 統次が珍しく声を荒げる。

 それに相楽さんは驚いた顔をしている。

 「えっ、南君どうしたの?」

 小さな声で尋ねられた統次は、目線を倒れたCTTに向けられる。それに気付いた相楽さんが小さく息を呑んだのが分かった。

 「これっ、えっ?きゅ、救急車…!」

 スマホを出そうとする相楽さんに声を掛ける。

 「呼ばなくて良いよ。」

 「えっ?あ!もう呼んだの?」

 首を振る。

 「じゃ、じゃあ。」

 「ハルが、こいつらをやったんだ。」

 低い声で統次が言う。どうやら、最初から見られていたらしい。

 相楽さんは黙っている。意味を理解しようとしているらしい。

 「質問に答えろ。」

 どうしたものかと頭を掻く。色紙さんに相談したいが、邪魔をする訳にはいかない。それに、今も久永は殺されそうになっているかもしれない。時間がない。

 「言えない。」

 「色紙さんと関係あるの?」

 相楽さんが呟いたため、思わず睨むように見てしまう。

 「ごめん。本当に何にも知らないんだけど、ちょっと気になる事があって。」

 語尾がごにょごにょと小さくなっていく。

 統次が大きなため息を吐く。諦めたように肩の力を抜き話す。

 「増田さんに相談されたんだ。」

 そう言って、一度言葉を切る。俺の様子を伺うような目線を送り、また話し出す。

 「ハルは誰かと付き合っているのかと、それも知らない私は迷惑なのかと。それで、俺と相楽さんは調べようと思ったんだ。」

 相楽さんは小さく頷く。

 「昼間、USJで色紙さんと会っていただろ。昨日の夜、増田さんと分かれてから会ったのは色紙さんなんだろ。それだけじゃない、思い返すと2人は…。お前と色紙さんは…。」

 そこまで言ってから、目線を外す。

 「これに色紙さんが関係あるのか。」

 その質問にも、黙っている。

 「そっちの番だぞ。」

 統次は冷たく言い放つ。

 時間が惜しい。

 「俺からは言えない。聞くなら色紙さんから聞いてくれ。それでも今知りたいのなら。」

 2人を交互に見る。

 「力ずくで聞いてくれ。」

 そう言い残し、隣の雑居ビルの壁を蹴り上げよじ登る。2階の窓のサッシに指を引っ掛け、指の力で体を持ち上げる。配管に飛び移り、そのままよじ登る。まるで猿だなと思う。

 屋上にすんなり到着し、下を覗くと2人がこちらを見上げている。小さく手を振って駆け出す。

 隣の建物に飛び移り、久永を探す。150mほど先に見え、その間にはCTTが5人見える。

 統次の問いに時間をかけて答える時間はないが、後にしてくれと言って素直に聞く奴じゃない。それなら、俺を捕まえて聞けと言うのが1番合理的だ。統次と追いかけっこをしながらCTTを見つけ次第戦闘不能にする。統次は俺に追い付けないし、追い付いても俺に勝てる訳ない。

 人目に付かない場所に飛び降り、辺りを見る。統次も相楽さんも追いついていない。

 久永はここから見えないが、さっきと比べて随分人が少ない場所へ出たようで、人通りがほとんどない。民家もなく殆どがシャッターの降りた何かの店のようだ。

 1番近くにいるCTTに駆け寄り、口を塞ぎながら首を絞める。じたばたと暴れるが直ぐに抵抗がなくなる。少し引き摺りシャッターを背に座らせておく。他のCTTには見られていない。

 手早く済ませたほうが良いだろう。

 2人目も同様に締め落とす。

 離れたところに居た3人目は足音に気付き、こちらに警戒の目線を送って来たため、背後からの締め落としはできない。それならと、後ろから追い越すそのすれ違い様に顎に左拳を打ち付ける。脳震盪を起こしその場に倒れる。それを見ていた4人目と5人目は、一瞬状況が遅れ、呆然とする。その合間に駆け寄るが直様戦闘体制を取られる。

 「ハル!」

 この場に止まっていた事で追い付かれたようで。後ろから統次の声が聞こえる。無視する。

 CTTに駆け寄り、仲間に通信される前に決着を付ける。俺が過去人であるアドバンテージを情報共有で消したくない。

 右足を大きく振り被り、右側にいた男の側頭部へ目掛けて蹴りを放つ。

 腕を使って防御を姿勢を取るが、それも想定済みだ。

 右足は男の腕の骨を折り、衝撃は多少勢いを落としたが十分な勢いを持ったまま頭を揺らす。

 そのまま男は崩れた。

 次はもう一人いた女だ。

 左を見ると、女が銃を構えていた。

 直ぐに腰を落とし頭を下げる。

 その瞬間に女は射撃し、パスッという音が響く。振り返ると弾丸は後方の建物の壁に穴を穿っていた。

 改めて周囲を確認するが、人の少ない通りで、店と思しき建物もほとんどシャッターを下ろしている。

 幸い、相手もサプレッサーを付けた銃を使っている。これを目撃する一般人はいない。

 女が銃口をこちらに向ける。

 横に跳び、次弾を躱す。

 3発目、4発目と射撃されるが不規則な動きで躱す。1年生の時に色紙さんと特訓した成果が表れている。

 それに今は、相手に目線や腕や手の動きで大体の射撃を予測できる。それに、狂態化すれば弾丸も目で追える。かなり疲れるが。

 そのまま数発撃たせる。

 女は射撃が得意ではないらしい。

 15発ほど撃たせたタイミングで女の懐に潜り、銃を構える手を掴み、上を向かせると宙に向かって2発発射され、銃はブロードバックしたまま止まる。予想通り弾切れだ。

 女は絶望の色を顔に浮かべたまま、何度もカチャカチャと引き金を引いている。

 もしやと思い、女の上着のポケットに手を突っ込むと冷たい感触があった。それを掴み、手首を捻り、銃を奪う。女は勢いに押され、その場に尻餅をつく。

 やはりマガジンを持っていた。

 銃からマガジンを取り出す捨て、新たなマガジンを装填する。薬室に弾丸を送り女に向かって歩み寄り、頭に銃口を突き付ける。

 すると女は不意に後ろに倒れた。

 卒倒した?

 こちらとしてはありがたいが。

 足音が近付き、それが統次だと気が付く。

 かなり疲れているが、直ぐ近くまで来ている。相楽さんはまだ来ていない。

 反対方向を見ると、久永の姿がない。どこかで曲がっていったのだろう。

 銃を女に向かって投げ、走り出す。

 全速力で走るとあっという間に統次を置き去りにする。

 いくつかの角を見て歩くと、久永の姿が見えた。

 200メートル先で左に折れた。走って追い掛ける。

 久永はイヤホンをしていたため、多少の物音では不審に思わないはずだ。逆にそれがCTTの殺害をしやすくしてしまうが。

 曲がったあたりにたどり着く。

 名前は分からないが、神社を突っ切っていったようだ。家までの近道だろうか、境内に先に久永が見える。そして、CTTも2人いる。

 駆け寄り、1人の首を絞める。それを見て、もう1人は銃を構えようとしため、絞め落とすのを途中で諦め投げ捨てるように横に倒す。

 絞めれた男は倒れ込み何度か咳をする。

 銃を持った男の腕を掴み、銃口をこちらに向かせない。腕力では俺に勝てない。

 膝蹴りを鳩尾へ入れると、男は嘔吐しながら跪く。

 その顔面にサッカーボールキックをする。

 鼻の骨が折れたような感触と共に、血が溢れ突っ伏す。

 もう1人は喉に手を当て、何度か咳をしながら立ち上がる。

 「何者だ。」

 掠れた声でそう呟く。

 「教えません。」

 そう答えて顎に蹴りを入れる。

 防御は間に合わなかったようで綺麗に入ると、そのまま脳震盪で倒れる。

 「良い加減にしろよ…。」

 ぜえぜえと息を切らした統次が神社の敷地に入ってくる。

 「こっちだって時間が惜しいんだ。相手してやってるだけマシだと思ってほしい。」

 「ほっとけるわけないだろ。」

 息が切れているのに、大きな声でそう言う。

 「心配してんだよ。」

 今度は小さな声で言った。

 悪いなと思いながら背を向け、久永が歩いていった方へ向かう。

 途端、後ろから駆け寄る足音が聞こえる。

 背中に向かって統次が拳を振るうのを振り返って受け止める。

 「力ずくだったよな。」

 元々俺に勝てるわけないのに統次は既にかなり疲労している。

 「急いでるんだ。手加減しない。」

 そう言っても、統次は諦めはしないだろう。

 俺の足の踏み付け、掴まれた手を振り払う。

 「逃げる気はねぇよ。」

 右手の拳を顔面に向けられる。それ右手で受ける。頭突きをされそうになったので踏まれた右足を思い切り持ち上げ統次の身体を宙に投げる。

 一瞬、やり過ぎたかと思うが意外にも身体能力は悪くなく無事に着地する。

 それからも諦めずに、両手の拳をこちらに振るってくる。

 ひらりひらりと躱して、何度目かのそれのタイミングで足を払い転ばせる。石畳に身体を打ち付け、小さく呻く。

 「南君!」

 また、遅れて相楽さんがやってきて統次の近くに駆け寄りしゃがみ込む。一生懸命走ってきたらしく、息を切らしている。

 「後で説明するから、今は行かせてくれ。」

 そう言って踵を返す。

 久永は駅にでも向かっているのだろうか。

 この神社をショートカットに利用しているのであれば、真っ直ぐ突っ切ったはずだ。

 歩き出すが、後ろからも2つの足音が聞こえる。付いてくるつもりだ。走ってやり過ごしても良いが、どこまでの付いてきそうだ。いっそ、CTTと同じで脳震盪でも起こしてもらおうかと、振り向く。

 「良い加減にしないと本気で。」

 そこまで言って、異様な気配を感じた。

 違和感と言える何か、それの正体には直ぐ気付いた。正面、統次と相楽さんの後ろの更に後ろ。1人の若い男が歩いてくる。

 未来人だ。

 もし、統次と相楽さんが俺の仲間だと思われたら2人が危ない。ゆったりと歩いてくるその男が近付く前に、アクションを起こさなければと思い声を出す。

 「2人とも俺の後ろに下がれ!」

 意図せず命令口調で、大声になった。

 2人は困惑を顔に浮かべ、俺の眼線に先を見る。

 振り返り男の存在を認識した2人は、訳も分からずも俺の後ろに回る。

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