表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生秋
90/125

4日目、夜、作戦開始

 夕食を食べた後、こっそりとホテルから出た。

 もう最後の京都の夜。

 ホテルに残した友人達のうち何人かは誰かと街に出る予定だったり、部屋で好きな人の言い合いをしているはずだ。

 何でこんな事になったんだろう。

 一瞬そう思うが、直ぐにその思考を振り払う。平凡な生活よりは楽しいだろうと自分に言い聞かせる。色紙さんの、未来の役に立って、世界の役に立てる。

 止まったタクシーを通り過ぎ、コンビニへ入る柄の悪い人達を大袈裟に交わして歩く。

 保呂羽さんに指示されたのは、殺人犯2人のどちらかの殺害阻止だ。

 1人目は沼山勝志。普通の会社員として働いているが、6年前に人を殺している。

 動機は怨恨で、トラブルで衝動的に人を殺して、解体して遺棄した。

 その後、人体の構造に強い性を感じるようになり、今から5年前、最初の殺人から1年後に更にもう1人を殺害している。

 小学生を誘拐し、監禁。食事を与えるなど死なないようにしながら、毎日人体の構造を知るために少しずつ解体をした。

 解体をして、その行為で欲情すれば凌辱し、また回復を待つ。その回復の間に別の部位を解体する。

 段々と、我慢が出来なくなり、回復できない人体の部位を欠損させていく。そして、誘拐から3ヶ月後に少女は亡くなった。

 今から2年後に、最初の殺人事件の捜査で沼山は逮捕される。そして、2回目の殺人も沼山によるものだったと明らかになる。

 2人目に殺人は、誘拐しやすい人間、そして性欲を満たすため女子小学生を選んだという。

 俺も小学生が行方不明になったというニュースに覚えがある。確か当時同い年くらいの子が行方不明になったと周囲が騒いでいた。地域は遠く離れていたが、毎日警察やボランティアが捜索するニュースを見て、大人たちが見回りや朝の登下校時に家先や公園などで見守る人が多くなった記憶がある。

 もう1人は久永颯太。今は高校生だが、およそ10年後に2人殺し、3人を重体にする。

 一方的に行為を寄せてた女性に、ストーカーのような行動を振る舞い、段々と行動をエスカレートさせていく。最初はメッセージを送る程度だったが、その回数が増え、付き纏いや住所を知られた後は荷物が届くようになった。中身は可愛らしいぬいぐるみや手紙、衣服等だったという。何かあった時のためにと、手を付けず保存していたそれを事件後警察が見ると、手紙には事実と乖離した妄想や妄言、彼女に対する異常な執着が見られ、ぬいぐるみや衣服からは体液が掛けられていた。

 荷物はその後、彼女の盗撮写真や自身の性器の写真や衣服、女性用のアダルトグッズなどが送られてくるようになった。

 荷物の多さを不審に思った両親が彼女に尋ね、状況を把握、犯罪行為に発展している事を知る。警察に相談するよう話すが、既に我慢できなくなった彼女は直接男性に拒絶の意を示していた。その日の夜にその女性、同居の母を刺殺。さらに父親、祖母、妹も殺傷、重体となった。

 騒ぎを聞き様子を見に来た隣人に、血塗れで家を出て行く久永が目撃され、通報。また、包丁を持っている血塗れの男がいると多数の通報があり、直ぐに逮捕された。

 この事件をきっかけに、ストーカー規制法が改正され、相談事案が増加したが、ストーカー被害は後を立たないという。

 色紙さんと保呂羽さんから聞いた話を反芻していると、疑問が浮かんだ。

 沼山をCTTが狙う意味はなんだろうか。既に罪を犯した人間を裁くようなことをCTTはするのだろうか。久永のように、未来の殺人犯を殺すことで未来を変えることが理念ではないか。

 この作戦が終わったら聞いてみよう。

 保呂羽さんからの指示はCTTを見つけ流れを報告すること。

 保呂羽さんは新幹線に乗り埼玉に向かったが、尾行は居ない事を確認すると引き返し、京都まであと30分だと言う。担当は最初に想定した事件の改変阻止。

 色紙さんはまだホテルにいる。担当はもう1人の殺人犯の殺害阻止。

 俺は、CTTにマークされていないため、街を歩きCTTの人数や殺人犯2人の位置を確認してPPの2人に流す。

 作戦の決行後は可及的速やかにそれぞれの対象へ向かい最短で終わらせる。PPの2人がCTTの存在を知っていたと悟られる前に全て決着をつける。

 到着が遅れる保呂羽さんは、改変時刻が決まっている被害者が14人出る通り魔事件の改変阻止を担当する。

 色紙さんは、俺が最初に見つけた殺人犯の殺害阻止を担当する。俺が見つけ次第、場所を報告する。そのあとすぐ様もう1人を探し出し、俺はその殺人犯の殺害を阻止する。

 大きな通りを見渡す。

 タクシーが3台続けて通り、黒く光る高そうな車、バスがその後に続く。

 学生服を着た人も多く、スーツ姿も多い。そしてCTTもいる。向かう先に検討をつける。

 保呂羽さんに京都の地図を覚えろと言われて、今日暇な時間はずっと眺めていた。

 そのおかげで大体の土地勘は身についた。

 片耳に付けたワイヤレスイヤホンのミュートを解除し、未来人が向かっているであろう場所を伝える。

 了解と2人の声が聞こえる。

 遠くでまた別のCTTを見かける。数が今までの比じゃない。保呂羽さんが居ない、色紙さんは修学旅行中という条件下、かなり派手に動いているのだろう。

 CTTの流れの一つに乗るように歩く。

 事前に保呂羽さんから見せられた沼山と久永の写真の顔を思い出す。

 街行く人の顔を一人一人眺めて行く。

 楽しそうな顔を男子学生達。疲れた顔をしたスーツ姿の若い男性。手を繋ぎ歩くカップル。笑顔の外国人の男性。無表情でスマホを見ている若い女性。露出の多い服を着て早足で歩く若い女性。お酒を飲んだのか、顔の赤い中年男性。並んで歩く老夫婦。自分に両親と同じくらいの歳に見える夫婦。スーツケースを転がす若い男性。子供をおんぶする男と隣を歩く女性。8女子高生、サラリーマン、派手な格好の男、地味な格好の女性、着物の女性、男性、女性、女性、老人、子供、男、女、女…。

 いた。

 沼山が、1人猫背で歩いている。その周辺をCTTが10人間程が付かず離れずの距離を保ち歩いている。

 「色紙さん、いた。」

 手早く場所をスマホで送信する。

 「1分で着く。」

 沼山は大きな通りの人混みの中へ向かっている。これならCTTも直ぐには手を出せないだろう。

 次の目標である久永を探す。

 周辺のCTTは全て沼山を目標にしているようで、他の誰かをマークしている素振りはない。

 路地裏に入り、雑居ビルの壁をよじ登る。

 屋上から町を眺める。CTTの動きを見る。

 大きな通りのCTT達は沼山へ向かっている。かなり先にCTTが見る。そこに久永がいると確信する。

 時間がない。

 ビルから飛び降り、人目につかない路地を全速力で走る。パルクールのように障害物を避け、人の目がありそうなら速度を緩め、誰にも見られないと分かれば最速で走る。

 本気で走れば、100メートルも9秒を切れる事が分かった。重心をかなり前にして、転びそうな身体を狂態化した足で拾うようなイメージで駆け抜ける。

 速度を落として、路地から通りに出ると目の前にCTTが3人いた。

 少し先へ目線を送ると、久永が居た。

 イヤホンを耳にし歩いている。遊んだ帰りか、塾か何かの帰りか、時間帯的にこれから帰宅するのだろう。

 CTTが久永から5メートルの距離に2人居る。

時間が無いと判断する。

 目の前のCTTの1人を後ろから掴み、素早く路地裏に引き摺り込む。

 「えっ?」

 短くそう声を出した男の首を羽交締めの体制で締める。

 踠きながら声にならない息を漏らすが、すぐに脱力する。彼を路地裏に隅に寝かす。

 走る足音が近付いてくる。

 「どうした!?」

 現れたのは白いセーターに黒のゆったりとしたスラックスの女性、歳は少し上くらいだろうか。

 仲間の1人が突然姿を消したため、慌てて来た道を戻ってきたのだろう。路地裏の光景を見て、状況を直ぐに理解出来ていないように目を見開いている。

 ゆっくりと歩み寄る。

 未来人ではない俺を見て、判断に迷っているのだろう。

 「居たか?」

 更にもう1人、黒のブルゾンを来た男が現れる。

 こちらを見て、同様に動きが止まる。

 その隙に男の方の胸ぐらを掴み、一気に引き寄せる。

 「うっ!」

 息を詰まらせた男をそのまま路地の奥へ引っ張っていき、人目から遠ざけた所で背負い投げする。

 背中を強打した男は、呼吸すらままならない様子だ。春に小菅君にやった時に、そう簡単に復活出来ないことを知った。もしもに備えて、倒れた男の足を蹴り付ける。

 嫌な感触は伝わる。

 これで呼吸が戻っても直ぐには逃げ出せない。

 女はこちらを呆然を見ていたが、直ぐに無線機のようなものを取り出した。

 連絡されたらまずい。

 急いで駆け寄り、手首を捻る。

 「っ!」

 痛みに顔を歪め、無線機が手から滑り落ちる。それを踏みつけ壊す。

 女性に暴力か…。

 少し躊躇うが、しょうがない。

 男を投げた路地の奥へ引っ張っていく。

 顎を殴るか、締め落とすか、鳩尾を殴るか、足を折るか。いや、折るのはダメだ。叫ばれたら周りに怪しまれる。

 手を振り払われ、女性は数歩路地の奥へ下がる。

 きっ、と睨まれる。

 一歩歩み寄り、鳩尾だと決めた途端、背後から声が聞こえる。

 「ハル!」

 振り返ると、息を切らした統次が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ