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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年春
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ビギンズ

4月終わりの生温い夜風の中一人で帰る。部活の同級生と花見をした帰り、電車の中の匂いから解放され、飲食店い匂いと換気扇の臭い混じり気持ちは良くない。

公園で康太と佐々木さん駒井さんと別れ、間下と別れ、最後に電車が逆方向の道永さんと別れた。各々真っ直ぐ帰るとなると、それが1番良い。9時前には解散して、補導されないようにねと笑いあって帰った。

色々屋台を見て、飲み食いをして、入学1ヶ月の愚痴やしょうもない話をした。大して中身の無い話だが、入部直後よりも砕けた雰囲気が心地良かった。たまにある、楽しくて日々の憂いを忘れるという現象に陥った。

そんな後の帰り道は妙に寂しい。

小学生の時の運動会の帰り道、親の車に乗って帰る人がいる中、理由は忘れたが一人で歩いて帰った時。その時の悲しさを何故か思い出した。

まだ帰りたくないなんてセリフ。昔のドラマか何かであった恥ずかしいようなセリフ。それを実際に言いそうになった。

明日にはそんな事を忘れてしまうのに、今は妙に寂しい。

明日の事を恨むと、明日からの予定を思い出した。ああ、そうかと中途半端な微睡みのような気持ちから目覚める。

スマートフォンを見るとメッセージが一件。


「明日、13:00に私の家に来て。」


色紙さんからだ。

色紙さんの家は電車と徒歩で30分ほどかかる。昼を食べてから行けばちょうど良いだろう。


「分かった。」


短く返信して帰り道を歩く。




色紙さんの家は相変わらず立派だ。住人から来いと言われて来たが、それでも入るには勇気がいった。

色紙さんはわざわざどうもとあまり思っていなそうに言い、部屋に入れてくれた。

またなにかのキャラクターの書かれたTシャツに薄手のパーカーを羽織り、7部丈の動き易そうなズボンを履いている。ファッションの知識が乏しい俺はそれがオシャレか、また何というアイテムなのかはわからない。

前に座った位置には1人座れる大きさのソファーがある。色紙さんが座っていたソファーが半分ほどの大きさになっているため、ソファーが分割できるものだったのだと気付く。わざわざ申し訳ない。

「何飲む?お茶が良い?他が良い?」

「他は何がある?」

「ライフガードか水道水」

「お茶でよろしく。」

色紙さんが奥へ消えた。恐らくソファーに座って良いだろうと思うが、許可を得る前に座るのはなんだか悪い気がする。

色紙さんはお盆にお茶の入ったコップとライフガードの缶を乗せてやってきた。お盆をテーブルに置き、どうぞとソファーに手を伸ばす。待ったましたと言わんばかりにソファーに腰掛ける。

缶を開け一口飲む。

「やっぱりペットボトルの方が美味しく感じるな。」

炭酸をあまり飲まないのでその違いに共感する事は出来ない。

お茶を頂く。先週と同じお茶でやはり美味しい。

「今日はいい天気ね。」

「なんだか話しかけ難いみたいだな。」

「まあね。いきなり本題でも良い?」

覚悟は決めてきたが、改めてそう言われると決心が揺らぐ。しかし、思い切って言う。

「いいよ。」

そういうと色紙さんはため息を吐く。俺も吐きたいが我慢する。

「じゃあ本題。三城君、これから私の仕事を手伝って。」

「仕事を手伝う?」

想像と違い、拍子抜けする。過去に戻って俺と色紙さんとの邂逅を防ぐとか、秘密を知ったから今後の生活に制約を科すとか、もしかしたら全部嘘というのでは無いかと期待もあった。

「そう、秘密を知ってしまった三城君の監視を含めて、私の仕事を手伝う。私は人手が増えて嬉しい。しかも未来人じゃないから出来ることが増える。三城君が仕事が出来る人で秘密を守れる人なら、私はかなり助かる。」

「俺のメリットは?」

「それを先週から考えてた。そもそも私が過去の人間である三城君にタイムマシンとかの未来の話をするのはタブーなの。仕事を手伝ってもらうのも。」

なんでやらせるんだとも思うが、俺を監視するのに都合が良いのだろう。俺が勝手に誰かに秘密を話されるのが面倒なのだろう。

「それで三城君のメリット。何か成し遂げてくれる度に、三城君の願いを叶えてあげる。もちろん、未来が変わらない程度にね。」

そう言われて1つ思い当たる。

「待ってくれ。仕事を手伝う云々の話は一旦なしで質問に答えてほしい。」

「いいよ。」

「色紙さんが俺に未来の話をすること、更には仕事を手伝ってもらう事は未来を変える事にはならないの?所謂バタフライエフェクトみたいな。」

「いい事に気がつくね。結論から言うと、未来でバタフライエフェクトは否定されてる。過去に人が入って、大きな改変を食い止める。その際に過去が改変されないとは言い切れないけど、そうなったらまたタイムスリップして食い止める。」

「つまり、色紙さんは俺に話をして仕事を手伝ってもらっても、俺自身の未来は変わらないと踏んでるのか。」

「そういう事。仕事を手伝ってもらっても、相手は滞在人に大罪人。最未来の人間だから未来が改変される事はない。」

なるほど。色紙さんのように、過去に人間が来て生活しても未来に変化はでないらしい。きっと色紙さんのようなプロなら過去に馴染めて、滞在人のような素人は何か禍根を残すのだろう。

「それで三城君のメリット、何でも願いを叶えると言っても出来ない事はできない。三城君の未来を変えてしまうような事は勿論、そもそも出来ない事ね。だから主に2つになると思う。」

黙って色紙さんを見つめ、先を促す。

「1つは、三城君の未来を教える事、何年後にどうなるか教えてあげる。もう1つは、私が今より過去に行って、三城君があの時ああしてればを叶えてあげる。勿論、未来を変えない程度にね。」

「未来を知るというのは分かったけど、過去に介入するのはタブーじゃないか?」

「大きくは無理。あの時進学する学校を変えてればとか、あの子に告白していればとか、そういうのね。良いのは、今朝に戻って忘れ物を取りに行きたいとか、1番良いのは親族が死ぬ前にお別れを言いたいとか、そういうのね。」

「確かに魅力的だ。」

「何でも願いを叶えるから、さっきの2つ以外にもどうでも良い事に使っても良い。くどいけど、未来を変えない程度にね。焼きそばパン買ってこいとかそういうのでも良いよ。」

俺にとってのメリットは色紙さんしか叶えてくれないだろう。それに色紙さんにとってのメリットは、秘密を知ってる俺しか叶えられない。

「今すぐにじゃなくても良いけど、聞くよ。私と一緒に過去を変えないように仕事をする契約をしてくれる?見返りはさっき言った通り。」

これは、良い機会なのかもしれない。入学後、平凡な高校生活を望んだが、この契約を結べば俺は物語の主人公のような生活を送れる。憧れが叶うのではないか。

「先に言っておくけど、私も人間相手も人間。僕のヒーローアカデミアみたいな個性もないし、東京喰種みたいに肉食べて再生もできないし、ワンピースみたいに悪魔に実はない。BLEACHみたいに斬魄刀を持ってないし卍解みたいな必殺技もない。NARUTOみたいな忍術は使えないし、RAVEみたいにレイヴマスターでもない。進撃の巨人みたいに巨人化もできないし、HUNTER×HUNTERみたいに念は使えない。バイオハザードのクリスやレオンみたいな身体能力はないし、バイオショックみたいにプラズミドはないし、ペルソナみたいにもう1人の自分の力は使えない。三城君は選ばれし勇者ではない。父親が馬鹿みたいに偉大ではない。強くなるには努力するしかない。戦うには頭を使うしかない。それでも良い?」

そう言われて、少し気持ちがぶれる。だが、これで引いたらより一層主人公から離れてしまう気がする。覚悟を決めて言い放つ。

「やってやる。」

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