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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生秋
89/125

今は楽しむ

 かなり時間が掛かるなと思い、スマホで時刻を確認すると保呂羽さんからメッセージが届いていた。

 “共有事項がある。文字にするのも面倒なので通話できる時に架電して”

 USJの楽しさに浮かれていたが、今、大きな事案を抱えていた。思い出し、熱が冷めていくのを感じる。

 アトラクションに乗るための行列はまだまだ続き、その一部になった自分達は各々スマホを見たり、話をしたり時間を潰している。

 「悪い。ちょっとトイレ。」

 そう言いながらコナン君みたいだなと思う。

 「間に合わなかったら、俺を置いて先に行け。」

 格好つけてそう言い残す。

 「気張って出してこいよ。」

 後ろから宗介の声がするが無視して歩く。

 人通りの少ない場所を求めて適当に歩き、隅っこの本当に何もない一画でスマホを取り出す。

 誰も彼も浮かれて騒いでいる。学生の多いし、大学生くらいの人も多いし、普段見ないようなファッションの人も多い。とにかく、多種多様。見ていて飽きない。

 ふと、視線を感じ目線を上げると色紙さんがこちらに向かっていて目が合う。

 何のキャラクターか分からないが、何かを模した被り物をしていて、全力でUSJを楽しむ女子高生の装いになっている。純粋に楽しんでいるのかもしれない。

 「三城君も?」

 頷く。

 「それじゃあ一緒に聞こっか。」

 色紙さんはスマホを取り出し、グループ通話を始める。スマホを取り出して、それに応答する。直ぐに保呂羽さんも応答する。

 「2人は今一緒におんの?」

 「はい。」

 「楽しんどるとこ悪いな。ちょっと面倒になりそう。」

 「と言うと?」

 「昨日、尋問した時はあいつら何にも吐かんかったけどな、今日ちょっと頑張ってみたら少し吐いてん。」

 俺たちが想定していた事件。それをあえて言わずにCTTを捕らえ、何故PPを監視していたかを尋問したという。

 何を頑張ったかは聞かない方が良いだろう。

 「奴らは言ったのは事件の改変やなくて、殺人犯の殺害やった。しかも2人とも別々の殺人犯や。」

 「それは遡及ですか?」

 「1人はな。」

 その返事に色紙さんは大きな溜息を吐いた。

 遡及。殺人を犯した人間ではなく、これから殺人を犯す未来である人間を遡及して殺害する。

 「信じますか?」

 色紙さんの顔を見ながら言う。

 「奴らが嘘を言ってる可能性はかなり高いと思います。」

 色紙さんが言う。

 「理由は?」

 「そもそも、CCTがPPに捕まれば助かりません。保身のため真実を話す、所謂交渉のようなやりとりは現実的じゃないです。」

 「まあそうやな。それでも即殺か延命かの選択肢を与えてるからな。まあ、良くて終身刑やろうけど。」

 口を挟む。

 「俺は見られてましたか?俺の存在を認知していたら、そんな奴生かすわけないと察するんじゃないですか?」

 「三城の事は何も言ってへんかったな。余計な事言わんようにしとるかもしれへんけど。」

 少し沈黙が生まれる。それを破ったのは色紙さんだ。

 「作戦がバレないように、何通りかブラフを用意してるんじゃないですか?」

 近くを学生の集団が通り抜けるため、俺と色紙さんは口を閉ざし、顔も背ける。そのタイミングで保呂羽さんは電話の向こうで喋る。

 「それもある。ただ。最悪は、全部やろうとしてる場合…。」

 学生集団の笑い声が遠ざかるまで、声を出さないでいた。いや、出せないでいた。

 「…それじゃあ、最低でも今は3つの改変が予定されてるんですか?」

 絞り出すような声だった。

 「可能性はある。そもそも、最初に改変と推測した事件は1番目立ったっていうだけの理由やから、今回尋問して得た殺人犯の殺害の方が根拠はある。」

 たしかに、と色紙さんは呟いた。

 「2人とも何時戻りの予定?」

 「確か…。」

 そう言って色紙さんと目が合う。

 「「20時にはいけます。」」

 声が揃う。

 「作戦は?先輩?」

 色紙さんがあえて明るい調子で言う。雰囲気を変えたいのだろう。

 「参加できるのは、私と色紙と三城。他のPPの応援は周辺地域の奴らなら来れるかもしれへんけど、三城とバッティングはまずい。三城の存在がバレても良い人は?」

 「美夜と美々は知ってます。」

 「相変わらず仲良し。」

 保呂羽さんが笑ったのが電話越しでも分かった。

 「それと早坂さんも。」

 「早坂さんも知ってんねや。」

 「知り合いですか?」

 「何回か会ったことある。面白い人やろ?」

 「いや、まあ、そうですね。」

 かなり歯切れが悪い。

 「早坂さんは仕事人間というより趣味人間やからな。やらなきゃいけなことはやって、必須じゃない事は適当に遊んでる感じやろ。」

 確かにそんな感じだ。

 「まあ、その話は置いといて。その早坂さんも鹿折もここまで来るには時間が無さすぎるし、そもそも埼玉の改変に呼ばれとるかもしれん。」

 「一応、声だけ掛けときますか?」

 「いや、大丈夫。」

 「分かりました。」

 「何で呼ばないんですか?」

 疑問に思ったので聞く。

 「この時代のPPが埼玉の改変に招集されへん事はまずないやろ。実際、私も呼ばれとる。そしたら、留守番が居る。早坂さんか鹿折のどちらかが埼玉でどちらかが残る。そこに声を掛けても、まず来れへん。2人に気を遣わせる。貴船は未来配属やから、この時代に慣れてへん。」

 成る程と呟いて納得する。

 「作戦はそれぞれの改変行為に1人づつ当てて阻止する。それだけや。」

 色紙さんがチラリと俺を見る。

 「分かりました。」

 2人に返事をする。

 色紙さんの仕事を手伝って、あと数ヶ月で2年経つ。夏の見据の進会の時は、戦闘員2人に負けた。それから色紙さんと鹿折さんと特訓して力をつけた。自信はある。

 「配役は私が決める。それは後で連絡するから、2人は今楽しんどき。」

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