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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生秋
85/125

2日目、夜、ホテルにて

 

 ホテルに帰って食べた夕食はかなり豪華だった。特にすき焼きの肉がかなり美味かった。テレビでよく言う溶けるという表現を初めて体感した。

 隣に座った宗介は、あまりの美味さにご飯を山盛りにおかわりしたため後悔している。

 「ちょっと、部屋戻って横になるわ…。」

 無事に完食していたが、フードファイターばりの量を食べいた。食べるのが早い事も影響してか、かなり具合が悪そうだ。

 あいつはこの修学旅行、踏んだり蹴ったりだなと思い鼻で笑う。

 「俺も食い終わったから戻るぞ。」

 反対隣の統次はそう言って立ち上がる。統次は気遣い出来る奴だが、俺が食べ終わるのを待つ事はしない。冷たいとかじゃなく、お互いそれで良いと理解しているからだ。俺だって、見られながら食べるのも気まずい。

 「鍵は宗介だったか?」

 そういえばあいつが張り切って持って行った気がするため首肯する。

 「なら大丈夫だな。俺はちょっと散歩してから戻る。俺待たないで風呂行っててくれ。」

 気を遣うなという事らしい。

 「分かった。」

 後ろ姿を一瞥し、直ぐに食事に戻る。あまり食べるのが早くないため、周りの奴らも少なくなっている。男子はほぼ食べ終わるか、部屋に戻っている。

 そんな急がなくて良いのになぁと思いながら、最後の肉一切れを鍋に入れる。

 そして、ぼんやりとこの後の事を考える。

 色紙さんに直接でもスマホでも連絡して、京都の未来人の多さについて聞いてみよう。これが普通なのか、色紙さんも見ただろうし何か知ってるかもしれない。

 俺が出来る事は何もないだろうが、話すだけでもしておこう。


 ホテルの食堂ホールを出て直ぐの廊下で、色紙さんの後ろ姿を見つける。こちらを振り返ったため声を掛ける。

「色紙さん。」「三城君。」「三城君。」

 色紙さんからも掛けられ、さらにもう一人に背後からも掛けられる。後ろを振り返ると、増田さんが立っていた。困ったような表情を浮かべて、胸の前で手を組んでいる。

 「色紙さんに用があるなら、そっち先で良いよ。」

 優先されても、こっちの話を聞かれたら困る。ここで話すには増田さんはいるし、場所を変えるにも変な噂をされるかもしれない。いや、増田さんに限ってそれはないだろうが念のためだ。

 「いや、大した用じゃないし。何かした?」

 「その、私も大した用事じゃないんだけど。」

 口籠る。目線が色紙さんに向く。

 「三城君、南君が呼んでたって伝えたかっただけだから。玄関ホールにいるだってさ。じゃあね。」

 そう手を振って色紙さんは立ち去る。

 一瞬、統次が何の用事だろうと思うが、そうじゃない。増田さんが色紙さんがいる事が気まずそうだったから、それを察して立ち去ったのだ。伝言を伝えて用事は済んだと見せかけて、本当は“その話が終わったら玄関ホールに来て”という事だろう。

 何という気遣い、この一瞬で。

 「あの。」

 増田さんの声で向き直る。

 「何かした?」

 増田さんから何か

 「明日のご飯の後って何かある?」

 何もないだろうが、念のため考える。やはり何もない。

 「何にもないな。部屋で怒られない程度に騒ぐだけ。」

 増田さんは薄らと笑う。

 「それじゃあ、ちょっと時間もらって良い?」

 「全然良いよ。」

 「じゃあ、明日このくらいの時間に玄関ホールにきてね。」

 そう言い残し、増田さんは小走りにエレベーターへと向かって行った。


 玄関ホールでは色紙さんが、設けられたソファーに腰掛けぼんやりと音の出ていない大きなテレビを見ていた。内容はニュースのようだ。

 その対面に腰掛け、話し出すのを待つ。

 こちらに気付くと目線を合わせ口を開く。

「実はCTTのUが改変を宣言した。」

「えっ、それじゃあ色紙さん居なくなるの?」

 唐突の発言で素直に驚いてしまう。

「いや、私は今回は参加しない。修学旅行中に居なくなったら不自然でしょ?」

 「確かにそうだ。」

 過去社会に溶け込むPPが、修学旅行の途中で京都から居なくなったら、目立つどころの騒ぎじゃない。

 「今回は組織的な対応だからね。去年の夏みたいな。私は修学旅行中だから外された。逆に保呂羽先輩は招集掛かるかもね。」

 色紙さんの表情が変わらないため、それが嬉しいのか悔しいのか分からない。

 「それで、三城君も何か言いたい事があったんじゃない?」

 そういえばそうだった。何となく改変宣言の方が重大事項なので、その後に話すのは気が引けるが情報共有も兼ねて伝えることにする。

 「色紙さんにとっては当たり前なのかもしれないけど、京都に未来人が多い気がする。」

 色紙さんは眉を顰め顎に指を当て思案する。

 「三城君的にはどう見えた?」

 どうというのは、CTTか否かだろう。

 「観光客かと思った。保呂羽さんが学校にいる間は活発になるとか、京都っていう土地柄から多いのかなとか。でも。」

 そこで言葉を切り、自分の答えをもう一度正しいか考える。そして、間違いないと判断し続ける。

 「CTTだと思う。」

 大きな唸り声を色紙さんはあげ、ソファーの背に凭れる。

 「私は、今日一人も未来人を見ていないの。」

 「えっ…?」

 どういう事だ?あんなに居た未来人を見ていない?

 「私を未来人が避けてる。それも組織的に。」

 「つまり、俺が見た未来人は全員CTT

…。」

 「そう考えるのが妥当ね。問題は、CTTが集まって何を企んでいるのか。」

 「色紙さんが京都にいる事を知っている事は問題じゃない?」

 「大した問題じゃない。一定の期間、まあ数日が何かを企んでいる日なら、そこに修学旅行に来る学校をリストアップする。そして、そこにPPが在籍してるかを確認すれば良い。どの学校にどのPPが居るかは調べれば分かる。」

 時間を掛ければ分かる事らしい。つまり。

 「そこまでして、何かを大きな事をやるつもりかもしれない。」

 「私もそう思う。三城君みたいな普通の過去人がPPと繋がってるわけないから、マークされてもなかったみたい。でも、私の行動全てをCTTが避けられたのは不思議。」

 「色紙さんでも、常に狂態化はしていないでしょ。常態でも視線を感じる?」

 いくら色紙さんが超人でも、常態でCTTの視線や意識を感じ取るのは無理じゃないかと思う。

 「狂態化した時ほどじゃないけど、そんなに大勢から警戒の視線を受けてたら、多少は違和感に気付いたと思う。もし、私だけをマークしてその情報を伝達するような役割の人間が居たら、それは流石に常態でも気付く。」

 「それでも気づかなかったのは、何か対策をしていたから?」

 「それもある。例えば、監視カメラ越しの視線が分からない。それに類似した間接的な視線なら。もしくは私をマークしていた人間が余程の手練れで、かなり遠くから見ていたとか。後者はあまり現実的じゃないけど。」

 そこまで言うとソファーに凭れて、深くため息を吐く。

 「今回、過去改変をすると指定した日時は明後日の埼玉県朝霞市、今日CTTの奴らが京都に集結する意味があるか…。」

 色紙さんは自分でも考えるために口にしているようだ。

 「時間的には今日京都にいても、明後日埼玉に行くことはできるけど。」

 「比較的マークがされてない場所に潜伏する事自体はあり得る。でも、何か引っ掛かる。そもそも、今日いた奴等はCTTなのか、それは平時と比べて多いのか。判断するには材料が少ない。」

 色紙さんは数秒黙って思案した後、スマホを取り出してどこかへ電話を掛け出す。

 「もしもし、色紙です。その件も関係ありますが、少し気になる事があります。…はい。」

 色紙さんはスマホを胸に押し当て声が聞こえないようにしてこちらに声を掛ける。

 「今から保呂羽さんに会いに行ける?」

 「行ける。」

 そして直ぐに耳に当て話を続ける。

 「私と三城で行きます。…はい、マップ送ってもらえれば…。…直ぐ行きます。」

 電話を切り、ふうと一息吐いてからこちらを見る。

 「今から保呂羽さんに会いに行くよ。」

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