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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生秋
84/125

金閣寺

 京都の街を歩く。やはり碁盤の目状の道路は分かりやすい。目的地をスマホで検索して、大体の場所さえ分かれば適当に歩いても目的地に辿り着ける。

 今日は自主研修で金閣寺を目指している。時期なのか観光地だからか、人はとても多い。その中で一つ気になることがある。

 未来人の数が多い。

 京都という土地柄、未来から観光に来る人が多いのかもしれないと思ったが、俺の拙い観察眼ではCTTであるように思える。

 保呂羽さんが学校に行ってる昼間は活発に活動しているのかもしれない。そして、俺の地元も同様に、色紙さんが学校にいる間は未来人が多いのかもしれない。

 この現状は、色紙さんも目の当たりにしているはずだ。夜にでも少し報告してみても良いかもしれない。

 昨日、なぜか保呂羽さんに俺がPPと接触していることがバレたこともあるため、極力気にしないように努める。何故バレたのか未だに分からないが、余程挙動が変だったのかもしれない。

 ぐるぐると考えを巡らせていると、目的の近くに到着していたようだ。人の数が一層凄い。その流れに逆らう事が出来ず。前に進む。

 一緒に居た統次と宗介に声を掛けようとして気がつく。周りに二人が居ない。ぼんやりしている内に逸れてしまったようだ。

 スマホで連絡とって合流するにしても、何か目印探した方が良いか。分かりやすい場所で待ってた方が効率的だ。

 「見知った顔がいる。」

 不意に声が聞こえ横を見ると、確かに見知った顔がいた。才原さんが隣にいて、声を掛けてきたようだ。

 「想像以上に混んでない?」

 「そう思ってた。」

 才原さんは感情の起伏が少なく、常に冷静に見える。悪く言えば愛想がないような雰囲気だが、逆に気を遣われている気がしないし、それがとても良い。

 今は珍しく少しうんざりしたような雰囲気だ。

 「それより、三城君、貴方一人なの?」

 「いや、まあ、逸れたというかなんというか。」

 「この人混だし、どこか流れが落ち着いた場所で留まった方が良いかもしれない。」

 「そうする。」

 ちょうど、道が分かれて人が少なくなる小径がありそちらに流れる。

 ふうと一息吐く。

 「意外と三城君、方向音痴?」

 悪戯に聞いてきたのは増田さんだ。才原さんと同じ班だったらしい。班は基本3人一組、もう一人いる。小松寧々さんだ。

 才原さんと増田さんは陸上部で一緒だったはずだが、小松さんはどんな繋がりがあったかなと不思議に思う。2年で同じクラスになって、そこから仲良くなったのかもしれない。

 「自信あったけど、なんかぼんやりしてる内に逸れたみたい。」

 「本当に逸れただけ?実はこっそり抜け出して、彼女と色々回ろうとしてたりして…。」

 小松さんは呆れたような声を出す。決め付けが酷い。

 「いや、本当にそれはない。」

 「本当かな〜。昨日、京都の女子高生にモテモテだったって聞いたけど。」

 「私も聞いた、10人くらいに囲まれてたとか。」

 増田さんが同意するが、話に尾鰭が付き過ぎている。

 「それは嘘。」

 「でも、声を掛けられてたのは本当なんでしょ?」

 才原さんが見透かすように尋ねてくる。

 昨日の夜にことを誰かが面白がって話しているらしい。だったら嘘をついてもバレてしまう。

 「いや、まあ、そうなんだけど。」

 「凄いじゃん!その後どうしたの!?」

 小松さんが食い気味に聞いてくる。

 「別に何もなかったよ。話して終わり。」

 「じゃあ、三城君が断ったってこと?」

 「断ったっていうか、そもそも相手も声掛けるくらいだったんじゃない?それかよく見たらタイプじゃなかったとか、話しててつまんなかったとか。」

 適当な事を言う。

 「嘘っぽいな〜。去年の文化祭の時だって北高の人と仲良さげだったし。そもそもどういう関係?」

 鹿折さんの事か。あの時は精神を擦り減らしながら過ごしてたのに、周りには文化祭をエンジョイしていたように見えていたらしい。少しショックだ。

 「いや、鹿折さんとも別にそんなんじゃない。色紙さんの知り合いだったってだけで。」

 「鹿折さんっていうんだ、あの人。身体能力化け物だったよね。ってか、色紙さんとどんな関係?」

 核心をついた質問で、一瞬吃ってしまう。

 「いや、どんなも何も別に普通の。」

 「付き合ってるの?」

 「いや、付き合ってないよ?」

 疑問符を付けてしまった。しかし、小松さんがかなりグイグイくる。

 「三城君彼女いるの?」

 「いや、いません。」

 迫力があり過ぎて敬語になってしまう。

 「寧々、尋問し過ぎ。」

 才原さんに制されて、前のめりの姿勢から半歩下がる。

 「ごめんごめん、気になっちゃって。」

 「気にするのは構わないけど、何も面白いことはないよ。」

 色紙さんと表立って親しげにした記憶はないが、仲が良いと思われているなら今後気を付けた方が良いかもしれない。

 「いやいや、こういう話聞くのは楽しいもんだよ。」

 女子はこういう話が好きなのは何故だろうとふと思う。

 才原さんは後ろに目をやる。

 「お迎えが来たみたい。」

 「お!いたいた!迷子が居ました。」

 背後から大きな声が聞こえる。振り返ると宗介がにこやかに近付いてくる。

 「悪い、普通に人多くて逸れた。」

 「大丈夫、一生ネタにしてあげるから。」

 全然大丈夫じゃない。

 「3人とも、迷子の相手してくれてありがとう。」

 統次ですら馬鹿にしてくる。

 「問題ないよ。それより、ちゃんと首輪とリード付けた方が良いよ。また迷子になりそう。」

 小松さんまでもが…。

 「少ないお小遣いでこいつの首輪か。」

 「宗介、真に受けるな。」

 「金閣寺はもう見た?」

 才原さんが訪ねる。

 「いや、まだ。」

 「どうせ目的地は同じだから行こっか。」

 小松さんの提案に従い。少し減った人混みにもう一度合流する。

 「やっぱり人が多いね。」

 増田さんの言葉に各々が相槌をうつ。

 大勢の人の中、会話することを遠慮して皆黙って歩く。

 そして金閣寺が見え始める。

 教科書で見た角度で足を止め、スマホを取り出す写真を撮る。

 「思ったより美しくないな。」

 そう呟く。

 「だからって燃やさないでよ。」

 才原さんが反応する。誰かに向けた訳じゃないが分かる人がいて良かった。

 他は皆キョトンとしてる。

 「三島由紀夫の金閣寺。」

 才原さんが増田さんと小松さんに端的に説明する。

 「あー、なるほど?」

 小松さんは一切理解できていない相槌を打つ。

 増田さんは複雑な表情をしている。

 「冗談はさておき、写真でしか見た事がないのを生で見れるのはテンション上がるな。」

 宗介が率直な感想を言う。

 「確かに分かる。」

 「そうだね。」

 「うんうん、分かる分かる。」

 才原さん以外が同意する。ただ、頷いてはいる。

 「変な話だけど、こういうのってさ、永遠には残らないじゃん。建てられた当時の物とか、今はもう違うでしょ。」

 小松さんは少し声のトーンを落として喋る。

 「確かに価値あるものなんだろうけどさ、その時の物が壊れたり、時間が経ち過ぎちゃってどうしようもなくなっちゃった時ってさ。」

 そこで言葉を切り、金閣寺をチラリと見る。

 「そうじゃないんじゃないかなって思うっちゃうな。」

 「何となく分かる。人間と同じでさ、寿命はあった方が良い気がする。」

 宗介が同意する。

 「それは今の時代だから言える事じゃない?昔は写真とか動画とか無かったから、ずっと残すしかなかったんだと思う。」

 統次がそう答える。

 「確かにそう。いつか未来でタイムスリップが出来るようになれば良いのかも。」

 「私は、こういうのは見えるのは嬉しいな。」

 「まあ、折角見に来たんだから今は気にせず楽しもう。」

 そう言ったが、俺はどちら派だろう。

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