京都のPP
保呂羽さんという名前らしい女子高生に連れてこられた店は、想像以上に本格的でお茶と和菓子を楽しめるカフェのようだ。和の内装にいかにも京都に来ましたという雰囲気がして、外国の人にも人気なんだろうなと思う。
保呂羽さんが正面、隣に色紙さんが座り、それぞれがお茶を啜る。抹茶にほうじ茶、わらび餅にきな粉アイス、カステラを前にしてふと何でこんな所にいるんだろうと思う。
「随分お洒落な所知ってますね。」
「そりゃ3年もおったら詳しなる。」
「えーと。お二人は知り合いですか?」
そう発言すると、保呂羽さんに目線だけ向け睨まれる。
「うちと色紙の関係の前に、コイツが何者か聞かなあかんな。」
手に持った黒文字で俺を指される。
「まあ、簡潔に説明するとですね。」
そう切り出し、俺と色紙さんの関係をざっくりと説明する。
時折、ほうじ茶を啜り、カステラを口運ぶ保呂羽さんの表情はよく読めない。
「とまあ、こんな感じなんですよ。」
そう言うと抹茶啜り、大きく息を吐く。
「色紙が失敗するってちょっと嬉しいな。」
悪戯にそう言われて、色紙さんは顔を顰める。
「三城君やったっけ?」
「は、はい。」
不意に話しかけられ、吃ってしまう。
「色紙が稽古つけてるだけあるわ。あんた強い。」
「ありがとうございます…?」
嬉しいことなのか分からず、語尾に疑問符がついてしまった。
「うちらの時代でも、10位以内に入れるんじゃない?」
「まあ、美夜くらいは強いですし美々とも良い勝負かもしれませんがまだまだですよ。」
「何の順位ですか?」
不思議に思いそう尋ねると、保呂羽さんは目を開いてこちらを見た後に、色紙さんを睨む。
「教えてへんの?」
「へんです。必要あります?」
「ないかもしれへんけど、うちらの時代のディテールを教えた方が良いというか…。」
「じゃあ先輩からご教授願います。」
「はあ?まあ、三城君が知りたいなら…。」
前のめりだった姿勢から、背もたれに身を預けて話し出す。
「うちらの時代でPPになるには、まずPP育成校に入学して、良い成績を取る必要がある。しかもPP育成校に入れても、PPになれるのは一部だけで、ざっくり1割くらいやねん。」
保呂羽さんはほうじ茶を啜る。それに釣られて、抹茶を啜る。
「それで、PPは卒業時に在学中の最終成績が順位で出されてな。その学校の順位だけやなくて、その年度に卒業して翌年度にPPになる生徒全体の順位が出て、上位の生徒ほどPPになった時に与えられる特権とか色々あんねん。」
これまた初めて聞く話だ。
「例えばなんですか?」
色紙さんがさも興味なさそうに聞く。
「色紙、あんたは知っとるやろ。」
保呂羽さんは色紙さんを睨む。その視線には頑なに合わせずそっぽを向いている。目線を俺に戻して、ため息と共に説明を再開する。
「まあ、例えばIA。あれはCTTや過去の時代に技術を流出してしまう可能性があるから、実力者にしか持たせることが出来へん。順位で言うと、上位10名やな。」
色紙さんも鹿折さんも美々さんも持っていた。全員凄い人だったんだと初めて気付いた。
「それと権限。この前、色紙が単独で大規模作戦やっとったやろ。普通は未来のPPの上の人達に報告したり作戦組んでもらったり人員派遣してもらったりするやけど、可及的速やかに対処すべき事案に対しては、上位1位は独自の判断で作戦を実行して良いことになってる。それだけ信頼されとるわけや。」
「えっ、ってことは色紙さん1位だったんですか?」
色紙さんを見ると、自分のことじゃないかのように興味なさそうに頷いた。
「そういうこと。元々PPは独断で仕事をすることになってるけど、あまり大ごとになると、過去改変に繋がりかねへんから事前相談が必要になんねん。上位に入ればそれほど自分の裁量で仕事ができるようになるイメージやね。PP歴の長さや実績の積み重ねで得られる権限が最初からある感じやな。」
「ゲームの初回購入特典。」
色紙さんはポツリと言う。
「色紙さん、そんな凄い人だったんなら早く言えよ。」
「別に必須知識じゃないでしょ。」
わらび餅に黒文字を刺しながらそう答える。
「それと、PP育成校の順位は最後まで公表されへんけど、注目を受けることではあるから常に順位予想がされてネットとかで話題になんねん。」
「今の時代で言うと、ソシャゲとかゲームのtierみたいなもんね。」
「分かりやすい。」
色紙さんはだいぶ現代に染まっている。
「ちなみにうちは首席卒業でも、tierは2やった。」
「保呂羽さんも凄い人だったんですね。」
「せやねん。ちなみに、tier1は色紙やったで。うちが3年の時も一位やったなんてキモいやろ。」
「tierって学年ごとじゃないんですね。」
キモいに触れると、色紙さんから何を言われるかわからないから無視する。
「まあ、公的な成績は卒業生毎に順位がつけられるけど、tierはあくまで育成校生全体の大衆評価だからやね。成績に興味があるというより、PP育成校の中で強い奴が誰かっていうのに興味がある感じやな。」
「そういえば、年度末になると順位当てのギャンブルみたいなのもありましたね。」
「あったな。」
「それじゃあ、お二人は首席同士でその当時の最強ツートップなんですね。」
「いや、色紙はうちらの時代のツートップの1人やと思うけど、もう1人はうちやないと思うわ。」
「どういうことですか?」
「九地道っていう強い奴がおったんや。間違いなくうちよりは強い。同じ学校やったから何度も手合わせしたけど、勝てたことはないな。色紙は…。」
そう言って色紙さんに目線を送る。
「私は会ったことはありますけど、実際に手合わせしたことはないです。」
「どっちが勝つかは私も分からへんけど、2人がツートップなのは間違いない。tierでも一位は2人が争ってたしな。」
「その人どうなったんですか。」
「3年の最後の方で辞めたんや。理由は教えてくれへんかったし、よう分からんかったわ。」
「…PPは、色々葛藤があるからね。三城君もわかるでしょ?」
果たして過去改変は本当に悪なのかという葛藤は、よく分かる。世間や政府がそうだと決めたのなら、割り切って思考を諦めることが最善かもしれない。
色紙さんの言葉に頷いて答える。
「話はだいぶ逸れたけど。三城君は私とほぼ互角やったってことは、かなり強いってことや。」
「保呂羽さんはIA使う前だったじゃないですか。私はまだまだだと思いますけどね。」
「色紙は厳しいな。でも、首席卒業のうちからすれば、IA無しでやり合ったら、うちの卒業生の中では10位以内の奴半分には勝てるんとちゃうかな。そもそも、IA無しが対等な比較やしな。」
「美夜や美々と互角と仮定すれば、まあそのくらいが妥当ですかね。」
「それって結構凄いことですか?」
「凄い事やで。公的な記録で日本で強い人間ランキング10位以内入ってるってことやし。」
それを聞いて少し自信がついた。
「色紙さんと特訓してると、常にボコボコにされて強くなってる実感がないんですよ。」
「なるほどな〜。確かに、こいつに教えてもらうんはめちゃくちゃ強くなれるメリットがあるけど、絶対に勝てんから嫌になるっていうデメリットもあるな。」
「それで、保呂羽先輩は三城君と私のことどうしますか?」
「別にどうもせんよ。何も知らんかった事にするから好きにしたらええんちゃう?」
「随分軽いですね。」
「まあ、重罪ではあるからもし上にバレたら覚悟せえよとは思うけど、色紙の事は信頼しとるからな。」
「さらっと嬉しい事言いますね。」
「もし上にバレても、うちがあんたらのこと知っとることは黙っとけよ。」
「言いませんよ。」
色紙さんはそう言って笑う。
「よし、そんじゃこれは貸し1やな。後で返せよ。」
「分かりました。」
店の外に出て、少し京都の街を歩く。見慣れない風景の中、そして夜。夢の中にいるような、なんとも言えない旅先の感傷に浸る。
保呂羽さんについて行き、駐車場に入ると、バイクの横に立つ。
「あんた達泊まってるホテル近いん?」
「歩いて直ぐです。」
正直、ここからどう帰るかスマホで調べないと分からない。色紙さんは分かってるようなのでついて行くことにしよう。
「じゃあ、送ってかんでええな。」
そういえばと思い、色紙さんに話掛ける。
「色紙さんもバイク乗ってたよね。」
「お、色紙何にしたん?」
保呂羽さんは嬉しそうな声を出す。
「ニダボです。」
「ニダボか、ええな。大型にせんかったん?」
「センダボ悩んだんですけど、まずニダボでステップアップしようと思います。足付きも不安ですし。保呂羽先輩はZ900RSですか?」
「見た目で買ってしもたわ。今年の17なるまではスーフォアやったで。」
「バイク好きなんですね。」
2人の会話を聞いてそう思った。
「別に好きじゃないけど、PPの仕事で移動するとなると、徒歩は疲れるし公共交通機関は融通効かないし、車は年齢でアウトだから消去法でバイクなんだよ。普通は。」
色紙さんなら走った方が早そうだなとも思うが言わないでおく。そして、普通はという言葉は気になる。
「色紙さんは違うの?」
「私は普通に乗りたかったから。本当は金田のバイクみたいなのが良いけど、あんなのないから。」
「あー。色紙のバイク、色は似てるかもね。」
「さんをつけろよデコ助野郎。」




