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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生秋
82/125

はじめまして、お久しぶりです

 当たり前だが、見たことのない制服で、背は160cmくらい。髪は肩より少し長くハーフアップにしており、緩く巻いている。顔を見ても、歳上か歳下か判然としないが、言葉遣いから察するに歳上だろう。

 「貴方、何者?」

 頭を回転させ、良い考えを探す。こういう探り合いみたいな問答は苦手だ。

 「修学旅行生です。何の用ですか?」

 そう答えるが、こちらを睨む目は鋭い。

 「修学旅行生なのは見れば分かる。何でこっち側に足を突っ込んでるのか聞いてる。」

 「何の話で___。」

 そう言った瞬間、喉元目がけて手刀を刺しにくる。あまりに不意の事で、思わずその手を掴み攻撃を防ぐ。喉ぎりぎりで止まる。

 彼女は不敵に口角を上げる。それを見て全て理解した。

 クソ、しくじった。

 彼女の攻撃は、俺を殺すものだった。だが、本気ではない。初動は少し手を抜き、俺が攻撃を受け止めるだけの間を作った。それにまんまと乗っかり、受け止めた。

 当然、彼女の出した殺意は本物だった。それを察し、一般人では受け止められない攻撃を防ぐかどうかを確認した。もしかすると、喉に届く直前に止めるつもりだったのかもしれない。

 大きく後ろに下がり、構えを取る。

 「話だけも聞いてほしい。」

 「無理。」

 バレてしまったら、やるしかない。

 PPかCCTか分からない。一度、話が出来る状態を作る。こうなる事が分かってれば、色紙さんから現地PPの身なりとか情報を聞いておけば良かった。

 相手が何を得意とし、何を仕掛けてくるか読めないため、重心を低く総合格闘技を意識した構えをする。彼女は躰道の中段構えをする。身長差は10cm程だが、背の高い相手に対して躰道の技は有効になる事が多い。こちらから大振りで決める様な攻め方は控えたい。

 彼女は一気に間合いを詰め、頭を地面ぎりぎりに下げ両手を付き、蹴りを左肩目掛けて放ってくる。想像よりも早い、回避は待ち合わない。

 力を込め受け止める。

 横に吹っ飛ぶが、受け身を取り直ぐに体勢を立て直す。肩にびりびりと衝撃が伝わる。骨までダメージはいっていないようだが、狂態化によって筋肉を硬直させた防御がなければ左腕は使い物にならなくなっていたはずだ。

 本気でやらないと殺される。

 相手は構えを取らずにいる。距離を詰め、ローキックを放つが、すぐに反応され返し技を繰り出される。上体を狙った蹴りを何とか反って躱す。直ぐに詰められ、脚を払われる。転ぶと同時に顔面を踏み付けにくる。寸前で転げ躱し、マカコで起き上がる。

 構えを取り、躰道の蹴りを放つ。最速で放ったそれには、技を合わせることは出来なかったようで後ろに下がる。

 互いに詰めれば届く距離で睨み合う。

 この人はかなり強い。色紙さんや鹿折さん、美々さんと同格かそれ以上だ。

 全ての攻撃に細心の注意を払い、なるべく大振りにならないように攻める。

 それを払い、躱し、隙を一切見逃さず鋭い一撃を合間合間に差し込んでくる。ギリギリで躱し、無理だと判断すれば筋肉を硬直させ受ける。ダメージが0にはならないがまだマシだ。

 ふと違和感に気づく。何か様子がおかしい。

 攻めに出るが、悉く対処されてしまう。それは色紙さんとの訓練でもあることだが、それと比べて何か違和感がある。

 それを確かめるため、ハイキックを放つ。それに合わせて、卍蹴りを入れてくる。避けれないと判断し、側頭部を腕で守り受ける。またしても吹っ飛び、何とかすぐに立ち上がる。少し脳が揺れた様で眩む。左腕に次に良い一撃を貰ったら、流石に壊れるかもしれない。

 しかし、違和感の正体が分かった。

 色紙さんは、俺の挙動を見てから動いていた。目線も、繰り出す攻撃に向け判断していた。しかし、彼女は動き出した瞬間には迎撃に転じていた。目線も最初からハイキックに向いておらず、どこにどんな技を仕掛けるか、分かるはずがないタイミングで卍蹴りを放ってきた。

 未来予知でも出来るのか?

 普通の人間には無理な動きだ。

 可能性は二つ。一つはIAを使っている場合。どんなIAかは想像できないが、こちらの挙動を察知できる何かがあるかもしれない。もう一つは、狂態化による影響だ。色紙さんは肌に刺さる視線を感じる事ができた。色紙さんがズバ抜けて強いのは知っているが、目の前の相手も同じくらい、もしくは色紙さん以上に強い場合、同じ様に常態では分からない何かを、第六感なりで感じ取る事ができるのかもしれない。

 学ランを脱ぎ、それを相手に向かって投げつける。それで視線を遮り陰に隠れて、学ランごとドロップキックをする。

 しかし、それは空振り相手は後方へ退いていた。着地狩りをする様に、こちらへ攻めてくるが、そこまで想定済みだ。全力を込めず放ったドロップキックからは直ぐに立て直せる。そしてすぐに後ろへ距離を取る。

 これではっきりした。目で行動を判断せず、別の何かで予測又は予知している。

 このまま戦っても、相手のペースから抜けられず一撃をもらって終わりだ。戦略的撤退をして、色紙さんと合流するのが1番良いが、相手の方が京都に詳しい。足の速さで優っていても、地理の情報で負けてしまう。

 それなら、短時間に全力を出して畳み掛ける。

 左脚に力を込めて一気に相手の懐に潜り込む。

 顔面目掛けて何度も拳を放つ。

 脇腹、肩、側頭へ隙があれば蹴りをする。

 稀に縦拳や、肩を一直線にしてリーチを稼ぎ不意の一撃を入れる。軸足ではない踏み込み足をスティールリードし、リーチを伸ばす。

 その全てを受ける事なく、躱している。やはり、初動を見るわけでもなくこちらの動きが事前に分かっているような立ち回りだ。それでも、さっきと違って返し技をしてこないのは、こちらの連撃に押されているからだ。

相手も隙を見て攻撃を仕掛けてくるが、見て躱す受ける対処が出来る。致命的な一撃には至らない。このまま続けばスタミナ勝負になる。

 ここまでの攻めの組み立てを見て、相手は重い一撃を放てるタイプではないと判断する。何らかの手段でこちらの動きを事前に察知し、それに対応する迎撃タイプ。相手の動きを見て防御力ゼロのガラ空きの部位への一撃は、攻撃力が高い必要はないため、高い攻撃性はスタイルに入れていないのかもしれない。

 賭けになるが、一撃をもらう覚悟で、相手の動きを止めれるような一発を入れることを目標とする。

 彼女は俺に何者か質問をしてきた。頭の中までは分からない。それに、こちらの動き出す瞬間に迎撃をしてくるが、こちらが動く前から察知している様子はない。思考を読むのではなく、挙動を察知する術があるとすればフェイントやデコイは有効だと決め付ける。

 あえて左のボディを空けた状態で右フックを放つ。

 想定通り、空いた左に蹴りを入れてくるが、そこの部位を全力で狂態化し筋肉を硬直させる。蹴りは綺麗に入るが、強固な筋肉の壁で受け、内部へ響くダメージは少ない。無理に硬直させたせいで筋繊維は多少千切れたかもしれないが、動けない程じゃない。

 相手は完全に決める蹴りを放った後で、回避をするも間に合わずに右フックが入る。完璧に入ってはいないが、確実にダメージはあるはずだ。

 相手はふらふらと後退るが、倒れず踏ん張っている。防御へ意識を集中させたせいで、攻撃側の意識が薄くなっていた。最初から全力を出すつもりはなかったが、かなり抑えめな一撃となったようだ。

 追撃を試みるが、左脇のダメージが想像よりも大きく、動こうとすると痛みで狂態化が解け、挙動が止まる。

 「一旦話し合いましょう。」

 そう提案する。

 「それはできない。」

 もう一撃、相手に入れることが出来れば動きが止まり強制的に話合いの場に持ち込めるが、こちらもダメージが大きい。さっきの様に全力で攻めることはできない。それにこちらも一撃貰ったら勝ち目はない。

 互いに間合いから離れた場所で睨み合う。動き出すのを待っている。

 彼女は自分の耳元に触れ、口を開く。

 「技倆…。」

 不意に相手の視線が自分の後ろに向かった。フェイントか、増援か…。瞬時の2択に迷い、ただ相手から目線を外す事が出来ないでいた。

 「お久しぶりです、保呂羽(ほろわ)先輩。」

 その聞き覚えのある声を聞き、一気に身体の強張りが解ける。その場にへたり込む様に脱力する。

 声の主、色紙さんは真っ直ぐ歩き相手の前に行く。

 「色紙。これはどういうこと…?」

 「話せば長いので、お茶でもしましょう。」

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