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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生秋
81/125

修学旅行初日

 天気は快晴。

 「本日は晴天也。」

 大きく息を吸う。空気が、地元より随分と暖かく感動する。そして、思ったよりも街並みが都会で驚く。

 バスへ乗り込み大きくため息を吐く。

 我が校の修学旅行は、4泊5日で京都に滞在する。その内初日は、全クラスで奈良に行く。土地感がないので、どの程度離れているのか分からないが、大坂に到着した後、バスで奈良へ行き大仏やら鹿やらを見ることになる。

 2日目は、3日目は所謂自主研修で班ごとに京都近辺を自由に見て周り、定刻までにホテルに戻れば良いことになっている。4日目は全クラスで大阪、USJに行く。修学は一旦置いておく。5日目は主に移動だ。

 車窓に流れる街並みは、当たり前だが全く知らない。ぼんやりと眺めながら、寝てしまいそうになる。今朝は早かった。まだ暗いうちに家を出て、随分と時間を掛けてここまできた。

 隣の席に座った宗介は随分と前から寝てしまい、さっきのトイレ休憩でも起きなかった。こうなってしまうとする事がない。わいわいと盛り上がる車内でポツンと取り残されたような感覚になる。

 それなら、いっそ寝てしまおうと目を閉じる。

 バスの振動と、朝早く起きた事、そして移動の連続で想像よりも眠れそうだ。

 

 気がつくと停車していた。気を失うように眠ってしまっていたようだ。

 クラスメイトの流れに乗って降車する。深く息を吸う。

 到着したのは奈良の鹿が沢山いるところ。

 沢山いると聞いていたが、想像の倍は居る。

 「三城君。ちょっと。」

 不意に声をかけられて、振り向くと色紙さんがいた。

 「分かっているとは思うけど、今回の修学旅行先は全部私のテリトリーじゃないから、未来人を見つけても勝手に手を出さないこと。」

 「分かってる。」

 地元であれば、俺が未来人を見つけて勝手に懲らしめても、色紙さんの手柄として未来へ報告できる。しかし、京都や奈良、大阪には別のPPが配属されていて、その人達に俺の存在というか色紙さんとの関係を知られるわけにはいかない。

 「もし、看過できない状況を察知したらまずは私に相談して。本当にどうしようにない時も、本当に最悪の時だけ手を出して良いけど、マジで本当にどうしようもない時だけね。」

 「わ、分かったよ。そんな俺信用ない?」

 「念押し。」

 そう言ってスタスタと先を歩いていく。

 俺は一学生として、この修学旅行を純粋に楽しめば良い。


 初日の旅程は全て終わってから、たどり着いたのはなかなか大きな宿だった。一部屋に5人ほど割り当てられ4泊する。

 豪華な夕食も終えて、風呂に行くのも少し億劫でダラダラしていた時に、顔色の悪い宗介が戻ってきた。

 宗介が小清水さんに告白した。

 そしてフラれたこと。

 皆初日から告白するなと散々言ったが、宗介曰く、

 「成功すれば残りの修学旅行は小清水さんが彼女で回れる。最高だ。もし振られても楽しい修学旅行、お前らがいる。」

 との事だ。

 こっそり小清水さんを呼び出し、そして振られて戻ってきた。

 宗介を一通り慰めた。皆、この結末を想定していたらしく、慰めの言葉は止まることはなかった。

 気分転換に散歩でもして、何か買い食いしようと誰かが提案し、京都の街を歩いている。

 初めてくる街の夜は、非日常が溢れている。何処からが大通りで、何処から外れで、何処からが危ない通りなのか全く分からない。

 昔見た映画で、通りの名前が色々あったなと思うがあまり思い出せない。

 そもそも、夜に出歩くこと自体補導という恐怖があり、尚且つ今は修学旅行中のため先生たちの目がある。時刻はまだ遅い時間では無いが、あまり遅くなるとそれらの焦燥感で落ち着かなくなりそうだ。

 「なんか食いたいもんあるか?」

 間下が宗介に聞く。

 「お前らと食えるなら何でも良いよ…。」

 声に元気がない。

 「意外と夕飯多かったからな。さっくり食べれるものとか、甘いものでも良いかもな。」

 統次はあまり宗介が凹んでいる事自体気にはかけていないようだ。

 「テイクアウトして、散歩しながらが良いな。」

 有陽(ゆうひ)がそう言う。

 こいつは2年になってから同じクラスになったが、悪くない奴で仲良くなった。かなり自由な奴で、見ていて飽きない。

 何か良いものはないかな辺りをキョロキョロと見渡す。

 コンビニやチェーン店もある通りで、何軒か気になる店もある。

 ふと、1人の女子高生が目に止まる。車道を越えた向こうの歩道、この時間に一人で街にいる。そして、立ち振る舞いや目線に既視感がある。

 色紙さんと似た雰囲気がある。もしかすると、京都のPPなのかもしれない。

 釘付けになっていると、ばっちりと目があってしまう。

 見透かされるような目線に、目を外せないでいる。

 「あそことか良くね?」

 間下の声で、はっと目線を外す。

 指差す先には、向かいの通りにあるアイス屋だ。しかも夜だけ営業しているようだ。

 「いいね。宗介、どう?」

 「ありよりのあり…。」

 ちょうど近くの歩行者用信号が青で、横断歩道を渡る。

 必然的に、さっきの女子高生の近くを通る。

 彼女もこちらに歩いてくる。怪しまれないように、なるべく自然体でいるように心がける。

 どんどん距離が近付き、すれ違う。

 「ちょっと、時間良い?」

 不意に声を掛けられる。

 「え、俺ですか。」

 何かまずいアクションでもしただろうか。

 「そうそう。」

 「なんだよ、お前だけ…。」

 宗介がかなりジェラシーな目線を送ってくる。

 「逆ナン…?」

 有陽が驚いた声を出す。

 「そんなところ、直ぐに返すから借りてって良い?」

 「朝まで返さなくて良いですよ、こんな奴。」

 宗介はもう背を向けて歩き出す。

 「ありがとう。じゃあ、こっち。」

 ここで拒否すると余計に怪しいか、スマホを一度見て、黙ってついて行くことにする。

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