桜散る前
5月の連休前に部活の同級生と花見と称し、飲み食いをしていた。学校から近いとも遠いとも言えない微妙な距離にある大きな公園には、満開を少し過ぎた桜が沢山ある。
屋台がずらりと並び、仮設の食堂のようなものまで出来ている。
「いつもこうなの?」
そう康太に尋ねる。康太はこの辺りが地元の筈だ。俺も間下も女子全員もこの辺りは詳しくない。
「この時期はこんなもんだよ。」
なるほど。花見の季節は賑わうようだ。確かに人が多く、がやがやとうるさい。酒を飲んだのであろう若い集団が特にうるさく、学生らしき人も意外と多い。
時間は20時手前で、もっと早く集まれば良かったと皆思っているだろう。しかし、それは仕方ない。部活中に一年生だけになったと気付き、そこからこの公園まで歩いてきたのだ。
あまり長居も出来ないが、花見というよりも飲み食いがメインであれば十分だろう。内心、花を見るでも食事でも懇親の意味合いが強いと誰もが思ってるだろう。
寒いなと思いつつ、周囲の屋台を眺める。お好み焼きにたこ焼きに綿あめなど定番なものが多く、変わり種は少ない。
「この時期でも人は多いね。」
駒井さんが辺りを見渡しながら言う。
満開の時期が過ぎた金曜日の夜。明日から連休が始まるまさに華の金曜日。社会人らしき人も多く、わいわいと楽しんでいる。実際付き合いで来て全く楽しくない人もいるだろうとは思う。
制服姿も多いが、あと1時間も過ぎれば大幅に減るだろう。学生は補導が何より怖い。
「桜は大分散ったけど、何かと口実をつけて騒ぎたいみたいだね。」
佐々木さんはぴしゃりと物事を言う。花より団子とはよく言ったもので、花をちゃんと見てる人類などほとんど居ないと思う。
かなり大きな公園で、遊具は何もない。陸上競技が出来るグラウンドや体育館、野球場もあり桜も沢山ある。公園という名前であるが、公園と聞いて思いつく遊具ある公園ではない。公園にも2種類あるのだから、名称を変えた方が良いのではとしょうもない事を考える。
間下はこういう雰囲気が好きなようで、学校にいる時よりも楽しそうだ。
「明日から連休だけど、予定はあんの?」
「明日からは特にないなぁ、来週末はあるけど。土日休みで月曜が振替休日、火曜だけ学校でまた連休でしょ?どうせなら火曜日も休ませてほしいよね。」
「それは皆思ってるよな〜。」
道永さんの主張に間下は大きく同意する。確かにそれは思う。
「でもまあ、1日だけ学校行って休みってなかなかないからね。」
なるほど、確かに佐々木さんの言う通り普段と比べれば随分楽だ。
「5日が1日になるんだから、確かにかなりお得だ。」
「ハルは休みなんかすんの?」
「いや、何にも予定はない。」
「寂しいね。」
間下の問いに嘘を吐いたが、疑われずに回答できたようだ。今回の3連休、みっちりと予定がある。
もともと不真面目な部活であるため、部活動は一回もない。
数日前、色紙さんに呼び出しを食らった。
放課後部活に向かって、どうせ何もしないだろうから間下か康太が居たらゲームをして、先輩がいたら何か話を、誰もいなかったらのんびりとペーパーバックで読もうと考えていた。
立ち上がり、スマートフォンを見る。メッセージが色紙さんから届いていた。
先週に色紙さんを意図せず助けて、色紙さんの真実というか正体を聞いた。その話を聞いて全く信じる事が出来なかった。
「まあそうだよね。」
内容を理解することは出来たが、納得はできない。つまり、色紙さんが本当に未来から来たということを信じる事ができていない。
「信じれはしないだろうけど、理解力は素晴らしいよ。」
フォローなのかよく分からない事を言う。
「じゃあ連絡先教えておくよ。」
「別に良いけど、じゃあの意味が分からない。それに責任って…?」
「詳しい話は今日のことが整理できたら話そうかと思う。三城君と私で契約したいとは思ってる。私にとってメリットになるかどうかは三城君次第だし、三城君にとってのメリットを今具体的に言えないから考えておく。」
先週の事を思い出し、いよいよ契約の話かと察する。殺される事はまず無い。それをすれば色紙さんのやろうとする事と矛盾する。
何かひどい事をされなければ良いが。
「今週末暇?」
漢字だけのメッセージ。今週末の予定は何もない。強いて言えばゲームとか読書とかしようと思うが。
「何もない」
「3日間?」
「3日間。どの日でも大丈夫。」
「じゃあ3日間やろうか。」
一体何をされるのだろうか。
「来年はもう少し早めに来よっか。」
道永さんは既に来年を見越している。確かに今年は新入生で時間的余裕も精神的余裕もない。来年なら余裕もあるだろう。
時間的に今日はそろそろお開きになるだろう。
明日からの3日間がある程度平和であれば良いなと願う。