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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生夏
79/125

セミナー壊滅

「どこにいるか検討つきますか?」

 めぐにゃんが美々さんに尋ねる。

 「大体はつきますよ。」

 廊下を駆けながら、息を切らさずに話す。

 「この階からはお二人が居たので逃げたはず。そこから上階に逃げるか下階に逃げるか。」

 「建物の構造上、ここより上階に退路はないです。」

 「そうです。なので下に逃げたはずです。そして経路ですが、このビルは吹き抜けが広範囲に広がってます。エスカレーターは吹き抜けのどこからも視界に入る中心部と北部側面にあり、使えば必ず私達の誰かの視界に入ります。エレベーターはこのビルの中心部にあり、透明な作りで、これもまた人が乗っていれば気付きます。」

 「となると、非常階段ですね。」

 「はい。出口へ向かうには、必ず吹き抜けの一階部分を通る必要があり、そこには美夜さんか早坂さんが常にいる配置です。と言う事はまだ外へは出ていない。」

 非常階段へ続くドアを開ける。美々さんが人差し指を口元に立てたため、動きを止め口を閉じる。

 「…階段にはいませんね。」

 耳を澄ますが、手がかりになるような音は聞こえない。

 美々さんは階段の吹き抜けを飛び降りる。ギョッとして覗き込むが、2階下の手摺りを掴み着地したようだ。そしてドアに耳を当てている。

 めぐにゃんと普通に階段を降り追いかけ、美々さんの後ろに立つ。めぐにゃんが美々さんを指差し、何をしているんだという顔をする。気を遣って、声は出さないように首を振って分からないと答える。

 数秒した後、美々さんはこちらに顔を向ける。

 「音を聞いた限り4人います。私が二人相手しますので、お二人は一人ずつお願いします。カバーが欲しい時は早めに伝えてください。」

 「分かりました。」

 返事を聞くなり勢いよくドアを開く。直ぐ廊下になっており、美々さんに続く。左奥に人が2人見え、戦闘態勢を取る。

 「彼等は私がやります。後ろの2人を頼みます。」

 パッと後ろを向くと、同じように2人待ち構えていた。美々さんは視線を送ったようには見えなかったため、音で敵の位置を把握していたのかもしれない。

 敵は2人とも普通のスーツ姿で、体格は上階で戦った2人と比べて随分小さい。いや、最初の2人が大柄なだけで、今の2人は標準くらいだろうか。

 めぐにゃんと目線を合わせて頷く。

 距離は10メートル程、下半身を狂態化し一気に駆け寄る。先手は取らず一度、こちらから相手の間合いに入り動きを見ることにする。

 右の男を自分が相手をし、左はめぐにゃんに任せる。

 手の届く距離に近付くと右の男は拳を握り、顔面へ向け放つ。しかし、それはあまりに遅く、力無く見える。

 最初の2人や、色紙さん、鹿折さんと比べて格段に遅い。こいつは、狂態化出来ない。

 様子見の戦闘スタイルを変更する。

 相手の拳をしっかり見て、頭をずらして躱して、同時に顎にアッパーを入れる。

 相手は身体が宙に浮き、そのまま床に倒れ動かなくなった。脳震盪だろう。

 めぐにゃんはどうなったと思い目線を横に向ける。少し遅れためぐにゃんがまさに今戦闘が始まろうとしている。

 相手が自分より背の低いめぐにゃんの顔面へ、突き気味に拳を真っ直ぐ振り抜く。が、既にそこにめぐにゃんの頭はなく、体を180度反転させ、両手を床に付け上体を限りなく低く床まで下げている。そして、右足を真っ直ぐ相手の鳩尾へ押し出す。躰道の海老蹴りだ。

 全くガード出来なかった相手は、後ろへ吹っ飛び、床に伏せる。息が出来ないようで、腹を抑えて小さな息がたまに出る。これではしばらく動けないだろう。

 この技は色紙さんとの特訓で教わったものだ。背の低いめぐにゃんには合うんじゃないかと言っていた。めぐにゃんも、随分とあっさり身に付けたものだ。

 後ろを振り返ると、20メートルほど先に美々さんが立っており、周りにスーツ姿の2人が倒れている。さすが、瞬殺だったようだ。

 少し駆け足で近付いて行くと、その更に先、廊下の曲がり角から男が飛び出して来たのが見えた。最初に逃したセミナーの男だ。

 5人目。美々さんが聞いた音が動いている人間の衣擦れなどであれば、この男は身を隠し、隙を狙っていたのかもしれない。

 銃を構えており、乾いた音が響く。

 それと同時に美々さんは大きく腕を開き、手を叩くように合わせる。パンッと大きな音が響く。

 銃弾を素手で受け止めた?

 合わせた手の平を少し開くと、中から弾頭が落ちる。

 驚愕した顔をしながら、男は次弾を撃とうと構え直す。

 美々さんは手のひらを男に向け、空気を払うよう振り払うと、それに引き寄せられるように男の握った銃が引っ張られ手から離れ、宙を飛び壁に当たり落ちる。男は見えない何かに引っ張られたように体勢を崩しよろめく。その隙を逃さず、懐に駆け込み鳩尾へ掌底を押し込む。

 吹っ飛び壁にぶつかり、座り込む。

 「かなり手加減しましたよ。訓練してないからと言って、内臓破裂まではしてないでしょう。」

 近寄り、顔を脚で小突き目線を合わせさせる。

 非常に苦しそうな顔をし、息が出来ないようで短い息を吐いている。

 「呼吸困難ですか、貧弱ですね。」

 脚を外し、こちらに振り返る。

 「彼が話せるようになったら聞きましょう。」

 予想以上にダメージを与えてしまったらしい。男の貧弱さに少し呆れたように嘆息混じりにそう言った。

 「さっき、弾丸を真剣白刃取りしたんですか?」

 めぐにゃんが驚いた顔で尋ねる。

 「真剣でも白刃でもないですが、似たようなものです。厳密には掴んでないですが。」

 「IAですか?」

 「ええ。IAには色んな種類があります。四季さんから聞いてるとは思いますが、未来の技術を過去へ持ってくることは大きなリスクがあります。そのため、技術を奪われない実力があると認められたPPにだけ与えられるものがIAであり、個々人の趣味嗜好やスタイルなどを配慮され作成してくれます。故にインディビジュアル・アームズです。所有は許されているのは、PPの中でも極僅かなんですよ。」

 頷いて見せるが、色紙さんはそこまで教えてくれただろうか。1分で済む話も面倒がってしないのはもう慣れたが、改めて考えると随分適当だ。

 「私のIAはこれです。」

 そう言って手のひらを見せる。

 「何にもないですけど。」

 めぐにゃんは手のひらをまじまじと見つめた後にそう言った。

 「手のひらの中に機械を埋め込んでいます。磁極を作り出し調整して…、まあ簡単に言えば磁石みたいな機械が埋め込まれています。」

 「それじゃあ、弾丸を手のひらにくっ付けたって事ですか?」

 「いや、それじゃあ手のひらを撃ち抜かれる。」

 めぐにゃんの言葉を否定する。それは分かっても受け止めた原理が分からない。

 「手のひらで包んだというべきですね。こうやって。」

 手のひらを包むように見せる。

 「これで、両手から同じだけの磁力を発生させれば、弾丸は手のひらで両手から引っ張られます。三次元上の二方向から同じ力で引っ張られれば止まります。」

 「待ってください!それじゃあ、弾丸が丁度手のひらで作った空間の両手のど真ん中で捉えたって事ですか!?」

 「そうですね。」

 さも当たり前だという顔をしている。

 少しでも左右どちらかが弾丸に近付いたらそちらに引き寄せられ、手のひらに当たる。

 左右どちらの手も全く同じ速度で近付き、全く同じ距離で包まないと弾丸は引っ張り合い止まらない。

 「私生活困らないですか?」

 「機械自体は私の神経と接続されていますので、オンオフや磁力調整など思いのままです。」

 めぐにゃんは両腕を抱いて、身震いをする。手に機械を埋め込み、神経と接続する。聞いただけでも痛々しい。

 「因みに足の裏にも同じ機械があります。これによって、鉄骨やガードレール、街灯など金属が普遍的にある時代では磁力で体を浮かし立体的に移動出来ます。」

 頭の中でスパイダーマンの動きが過ぎる。

 「話聞くだけならとても便利そうですけど、実際に使うとなると頭の回転や筋力とか必要になりますね。」

 「そうですね。私は四季さんや美夜さんのように肉体を狂態化するのは不向きなようでした。」

 美々さんは腕を組み話出す。

 「お二人には勝てないですけど、上位ではありましたよ。ただ、いくら鍛えても勝てないんです。だから、私の得意分野で勝負します。」

 そう言って、自分の頭を指さす。

 「ここだけは、お二人に勝ってる自信があります。」

 美々さんのIAは発想力や判断力など、筋力だけじゃ扱えない。彼女が適任なのだろう。

 「さて、そろそろ声が出せるようになりましたか?」

 倒れている男に向き直り、見下すように話す。声も数トーン低くなった気がする。

 男は美々さんを睨み返し、口は開かない。

 「ここに居る貴方のお仲間は何人ですか?」

 沈黙。

 「CTTの一派なんですよね?」

 沈黙。

 「困りました。元春さん。四季さんへ連絡お願いします。」

 美々さんの指示を受け、色紙さんへ連絡する。

 「こちら三城。非戦闘員確保しました。美々さんが尋問しようとしてます。」

 「了解。そっちは任せる。何か分かったら教えて。」

 「了解。」

 美々さんの方を見ると、腕を組んだまま男を見下ろし声は発さないでいた。

 めぐにゃんの方を見ると彼女もどうしたものかと目線をちらちらと動かしていた。ばっちりと目が合い、喋り出す。

 「これからどうするのが正解なんでしょう?」

 「俺らは指示に従うだけだ。」

 「思考の放棄ですね。」

 「俺らが考えたことより良い案を美々さんや色紙さん、鹿折さんや早坂さんが出してくれる。俺らが考えることは時間の無駄、労力の無駄。もっとクレバーにいこう。」

 「クレバーなら何か考えてみて下さいよ。」

 言い返されてしまった。

 「この人が口を割るか分からない。何か情報を出しても、真実とは限らない。尋問する時間もない。色紙さんと美々さんがこの人を追ったのは、構成員は殲滅することがメインで、組織の内情を吐かせることが出来るならラッキー程度だったんじゃないか。」

 めぐにゃんは眉間に皺を寄せてたしかにと呟いた。

 「この人を確保して、口は割らないと分かった。なら、ここで時間を掛けるのは奴らの思う壺だ。残りの構成員の逃げる時間を稼がれる。」

 「その通りです。この人は、生かしておきますが、殲滅に変わりはありません。」

 こちらを見ずに、男に目線を向けながら言う。

 「私は優しくないです。最後にもう一度聞きます。お仲間は何人ですか?」

 男は薄らと口角を上げた。

 「さよなら、貴方の人生はここまでです。」

 そう言うと、顎に向かって蹴りを入れる。脳が揺れたらしく、男は気を失った。

 「過去改変行為、PPに対する公務執行妨害。ここまで大きなアクションを起こしたのなら、もう2度と普通の生活は出来ないでしょう。」

 「それでどうしましょうか。」

 「貴方たちは小菅さんと花露辺さんを連れてここから立ち去って下さい。」

 何故かと思い、考えるが何となく分かった。」

 「何でですか?」

 めぐにゃんは、自分で考える事は嫌いなようだ。それか、目の前に答えがあるのであれば考えるのが無駄だと思っておるのかもしれない。

 「未来からPPの応援が来ます。それは戦闘面の増援ではなく、事態の収集に向けての人員の増員です。これだけ大規模に戦闘をしてしまったら、事後処理は私達だけではどうにもなりません。未来人が後処理に来ます。そこに貴方たちが居て関係が怪しまれたら、四季さん達に迷惑です。」

 「美々さんはどうなんですか?」

 「最後に挨拶してから戻ります。」

 「分かりました。ここから離れたら連絡します。」

 「事態収束後も報告があるので、四季さんはしばらくこの時代に戻ってこないと思います。夏休みが幸いしましたね。」

 美々さんはうっすらと笑ってそう言う。

 「この時代が過去なら、報告終わってから任意の時間に戻れば良いじゃないですか。」

 めぐにゃんは不思議そうに言う。

 「例えば、8月5日から再未来に戻って10日間生活して、8月6日に戻る事も出来る。だけど、そうすると1日で10日分を取った事になる。些細な差かもしれないけど、PPはそういった禍根も残さぬよう、過去に溶け込むよう10日後の8月15日に戻るんだと。」

 以前色紙さんから聞いた話をそのまま聞かせる。めぐにゃんはふーんと納得したようなしてないような、気の抜けた返事をする。

 「帰路に会員と会ったら倒しとてください。報告も後程頂ければ。」

 「分かりました。」

 踵を返して階段に向かって歩く。

 「お二人とも。」

 呼び止められて振り返る。

 「ご協力ありがとうございました。」

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