さらに一人
踏み込み一つで、一気に相手の懐に届き1人を壁に殴り付け、もう1人の顔面に回し蹴りを入れる。
そうして出来た一瞬の隙に、めぐにゃんを抱えてこちらまで投げ飛ばす。
「きゃっ!?」
短い悲鳴と共に吹っ飛んできためぐにゃんは、真横で受け身を取って俺のことを見る。
「大丈夫ですか。」
まだ、声がだせないので親指を立てる事でそれに代える。
色紙さんが来たなら、大丈夫だと思いたいが、あいつらの装備は異常だ。
「本気で行くから、死にたくないから今すぐ降参して。」
そう宣言した色紙さんの顔面へ、拳が向かう。それを受け止める、そして、腕を掴んだまま肩へ跳び関節を大きく回して外す。
もう1人が蹴り込んできた脚に向かって飛び降り、膝を折る。体勢を崩した隙に、脚を掴み膝を踏みつけ折る。
肩を外された方が壁に体当たりをして無理やりはめ直す。
「あなた達は知らないだろうけど、そのアーマーには弱点がある。」
右手を握り締め、腰を落として構える。
1人が動いたその刹那、鳩尾へ掌底を入れる。あまりの速さに、全く見えなかった。これが色紙さんの本気か。
相手は後ろに倒れ、そのまま動かない。
もう一人は足が動かせず、腕を使い這って逃げようとしている。色紙さんはそいつに向かって吐き捨てるように声を掛ける。
「どんなに性能が良いアーマーも、一定以上の衝撃は無効化出来ない。メーカーの対衝撃実験の上限以上のインパクトを与えれば、アーマーは壊れる。ある程度身体の稼働域を残した構造だから、絶対に綻びはある。」
話を聞いているか分からないそいつを、仰向けに押し返す。
「こんな風にね!」
重い一撃が鳩尾に入る。
そしてそのまま動かなくなる。
こちらを振り返り、少し駆け足気味で近付いてくる。
「大丈夫だった?」
「私は大丈夫です。先輩は…。」
そう言って目線をこちらに向ける。
「何とか大丈夫。」
ようやくまともに息ができるようになった。
「状況説明、めぐにゃんお願い。」
俺を慮ってか、めぐにゃんへ説明を求める。
「セミナー組の1人を逃しました。追いかけてたところで、戦闘員1人と遭遇、両腕を使えなくし、勝ったと慢心したところに2人目が現れました。先輩が吹っ飛ばされて、色紙先輩が来るのがあと1秒遅かったら、私は死んでました。
成る程と呟き、少し思案した表情になる。
「2人ともありがとう。結構想定外が重なってて、」
「私…!」
色紙さんの言葉を遮り、下を向く。
「私…、あの人を本気で殺そうとしました。」
初めて聞く、低いトーンだ。
「それでも殺せなかったでしょ?」
「…はい。」
「殺そうとして殺せなかったんなら、何も気にしなくて良い。こいつを殺したのは私だから。」
めぐにゃんはこちらに目線を向ける。
「先輩は…。」
そこまで言うが、目が次第に潤んでいく。
「最悪を想定していれば、悲しまなくて済む。」
「三城君さぁ。」
色紙さんは呆れた声を出す。付け足すように話出す。
「俺も人を殺した事はない。ただ、俺は死にたくなし、身近な人…、色紙さんや鹿折さんが死ぬのも嫌だ。そのために、色紙さんと協力している。」
そう言ってから、自分が何を言いたいかよく分からなくなってきた。一度黙って、頭の整理をするが、それでもめぐにゃんを納得させる言葉は出てこない。
「まあ、めぐにゃんは人を殺してはいない。」
それで良いだろうと念を押す。
「…はい。」
あまり納得しているようには見えないが、状況を踏まえ私情をしまうことにしたのだろう。
「決意が揺るぐ事はままある。私だって、直ぐにこの仕事に馴染んだわけじゃない。私なりの正義を2年くらい考えて、学んで、体感して、この時代に来た。」
しゃがみ込み、めぐにゃんに目線を合わせて話し続ける。
「それを数ヶ月で出来てしまったのなら、私の葛藤が馬鹿馬鹿しくなるから。三城君だって、迷いはあったし、体験しないと分からないこともある。」
めぐにゃんは小さくはいと言って、目を一度だけ擦る。
「それで、状況なんだけど。」
色紙さんは閑話休題する。
「戦闘要員は3人じゃない。」
「えっ!?じゃあ…。」
めぐにゃんは驚いた声を出す。
「もちろん小菅君が嘘を吐いた可能性もある。」
「それ以外の可能性は…?」
色紙さんがこちらを見る。説明しろと言うことらしい。
「小菅君みたいに、末端の成員や全員に共有されていない事実がある。今回みたいに裏切りや情報漏洩があった場合に備えているんだろう。」
「なるほど。」
「私は5人倒してきた。今のを足せば7人。」
「さすがだね。」
半ば呆れ気味に返す。
「美夜と早坂さんも2人以上居たってさ。」
「どうする?」
敵の数が分からない以上、一旦退散するのも良いかと思うが、ここは色紙さんの判断に委ねる。
「最悪を想定して、追加戦力がいる。」
「追加戦力…、ですか?」
誰か居たかなと思考するが、誰も思い当たらない。
「そう。来てほしくなかったけど、万が一に備えて付近で待機してもらってた。もう現着してる。」
何故か色紙さんは渋そうな顔をしている。
「嫌いな奴か?」
「いや。うーん。まあ、嫌いかな。いや、どうだろう。うーん。好きとは絶対言いたくないけど、嫌いかと言うと…。うーん。」
珍しく歯切れが悪い。
「四季さん、そこは素直に心の声を聞かせて下さい。」
いつの間にか声が一つ増えている。その声の主を見る。小柄で、どこか分からない制服を着ていて、嬉しそうな顔で色紙さんを見ている。




