決行
会議室の前では、見据の進開の人達がずっと話を続けている。まともに話は聞いていないが、熱心な姿が目に入る。
小菅君の言った通り、前に出て話をする人が1人、音響などサポートをする人が2人いる。受付には小菅君が待機している。
私達以外に参加者は19人居て、意外と盛況だなと思う。斜め後ろの席にはめぐにゃんが居て、どんな表情で説明を聞いているか分からない。
俺もめぐにゃんも、作戦に備えてずっと目を閉じている。
司会がVRゴーグルをするように指示をする。
色紙さんの説明ではこれを使って洗脳するらしい。
参加者が各々、VRゴーグルに手を伸ばす音がした瞬間、停電する。
目を開ける。
ブラインドを閉めた室内は一気に暗くなり、ノートパソコンに明かりだけが煌々と光っている。
席を立ち、会議室の前に走っていく。
見据の進開の1人の顎を殴る。めぐにゃんがもう1人を殴る。驚くほど簡単に2人は気を失った。
司会をしていた最後の1人も気絶させようとするが、走って部屋を出て行った。
「逃げられましたね。」
めぐにゃんが小声を出す。
指で出口を指し、直ぐに外へ出る。
建物全体が停電している。作戦通りだ。
「あっちに行きました。」
小菅君が指差す方に既に奴の姿はない。
「分かった。ここの人達を頼む。」
「分かりました。」
走って奴を追う。
小菅君の話では、この見据の進開の講演会では講演をメインにする所謂非戦闘員が4人居て、万が一PPが居た場合の戦闘要員が3人いるらしい。
非戦闘員の2人は既に気絶させたし、1人は小菅君で、最後の1人を今追っている。
俺とめぐにゃんの役割は非戦闘員の見据の進会を戦闘不能にさせ、一般人に紛れて逃走すること。
戦闘要員の3人は色紙さんと鹿折さん、早坂さんが相手をする。
この停電は色紙さん達がやった事だ。
花露辺さんは色紙さん達と一緒にいるはずで、小菅君は計画では俺たちと一緒に逃げるはずだった。予想外に1人逃げ足は早くて、若干計画がずれている。
「どうしますか?」
めぐにゃんがこちらを見る。
「この建物に一般人は色紙さん達お陰で講演会の参加者しかいないはずで、その人達も小菅君が付いている。残る1人を探そう。」
「小菅君を信じるんですか?」
「俺かめぐにゃんを会議室に待機するのも良いけど、万が一がある。何かあった際の鍵を掛けて籠城できる会議室は小菅君と一般人に当てる。危険性のある捜索はツーマンセルにすべき。」
目線を外し、思案した後に口を開く。
本当は全員脱出できれば良いが、1人がどこに潜伏しているか分からない状態で、動かせるのは危険だ。
「小菅君1人の時に裏切ったら後でバレて色紙さんに殺されますからね。変な気は起こせないでしょう。」
「そういう事だ。」
頭の回転が速い。
「こちら三城。2人戦闘不能、1人が逃した。会議室に小菅君を残して桃生と捜索する。」
「了解。」
無線で連絡すると、直ぐに鹿折さんから返答がくる。
「戦闘員を見つけた。1階で戦う。」
早坂さんだ。
「IAを投げる。その階で回収して。」
色紙さんからも通信があった。
めぐにゃんと目を合わせ、吹き抜けになっている場所へ走る。
数階下には色紙さんが居て、大きく振りかぶって竹刀ケースを2つ投げる。それをキャッチして中身を出す。
中身は両方も木刀タイプのIAだ。色紙さんがめぐにゃんの分も用意してくれた。
「追いかけよう。」
小走りに通路を進む。
曲がり角からスーツ姿の大柄な男が現れる。風体から戦闘員と察する。
「非戦闘員は未だ捕捉出来ず、戦闘員1人遭遇。」
めぐにゃんが素早く報告する。
「三城君と2人で相手して。2人とも手が空いたら大至急向かうようにお願い。」
「直ぐ向かえるよう努力する。」
「同じく。」
PP勢3人は直ぐには来てくれないようだ。多少時間稼ぎをする必要があるようだ。
戦闘員は3人だったはずだが、まさか4人目か?
木刀を構え、大きく振り被る。
相手がそれを躱そうと体勢が崩れた瞬間、めぐにゃんが瞬発的に踏み込み左脇腹を全力で叩くが、動作の割に音が響かない。
「何かおかしいです!」
戸惑うめぐにゃんに向かって振り上げられた拳の軌道を逸らすべく、木刀で男の腕を叩き、その感触で察する。
「奴は下にアーマーを着てる。」
「あれですか…。」
衝撃を吸収するアーマー、めぐにゃんも察したようだ。これではいくら打ち込んでも効果はない。
「技倆解放。」
鞘を投げ捨て、真剣で挑む。
俺が知っているアーマーであれば刃物に弱い。
左肘から下を切り落とす様に切り払うが、ジャケットを切っただけで肉体には一切傷が入った様子がない。恐らく防刃加工だろう。
追撃する。
刃に熱を込めて、振り下ろすが相手の動きに違和感がある。避けようという気配がない。恐らく耐熱も備えている。
脇腹へ振り下ろした刃を掴み止められる。
その時生まれた隙に、めぐにゃんは大きく踏み込み顔面へ突きを放つ。一切躊躇いのない突きだ。
その突きが、相手の額でピタリと止まる。
これで殺し切ると決めた一撃、めぐにゃんは直ぐに体勢を立て直す事が出来ない。
事態を飲み込むより先に、めぐにゃんの襟を掴み、一緒に後ろへ倒れ込む。めぐにゃんを掴もうとした相手の手は宙を切った。
こいつはなかなか手強い。
「何で刃が止まったの…?」
めぐにゃんはポツリと零す。
「たぶん、顔までアーマーだ。顔に見えているのはホログラムなんだと思う。」
「なるほど。小賢しいですね。」
IAを投げ捨てる。
色紙さんからこういう時の対処法は聞いている。衝撃、斬撃、熱も効かないならもうIAを使う意味はない。
殴りかかってきた腕を掴み、肘を蹴り付け腕を思い切り引く。
嫌な音が響く。だらりと右腕をぶら下げ、数歩下がる。
「次は私もやります。」
めぐにゃんは察したようだ。アーマーは関節の可動域を制限する機能はない。衝撃は吸収しても、絞めなどは無効化できない。骨が折れる程の力が加われば、それに反発するのは自身の腕力のみ。力比べになら、装備の差は関係ない。
めぐにゃんが姿勢を低くし、相手の懐に走り込む。左手でそれを掴もうとするが、スライディングで股を抜ける。相手の振り向き様に、俺はしたように左腕を折る。
両腕が動かないのであれば、闘うことはできないはずだ。
俺らはCCTを殺すことまでは求められていない。課せられた役割は戦闘不能にすることだ。
「1人戦闘不能です。」
全体に無線で連絡する。
そう言った直後、男はこちらに駆け寄ってくる。
咄嗟のことで判断が遅れる。
必死に頭を回転させる。相手が何を考えているのか。腕はもう使い物にならない。足で攻撃をしてくる?それでも2人を相手に出来るか?悪あがき?退路が後ろになかったから、こっちから逃げようとしている?
そこまで考えると、既に踏み込めば手の届く距離にいた。
蹴りを想定して構えを取る。
どうせ悪あがきだと決め、注視し膝を折ろうと前へ出ると、背中に衝撃があった。
そのまま、前方に吹っ飛ばされる。身体に力が入らず、受け身は取れない。意識が朦朧とする中、元いた場所へ目を向けると両腕を折った男のほかにもう1人、男が立っている。
不意に駆け出してきたのは、背後からきた仲間を気付かせないためだったか。
めぐにゃんは2人に囲まれている。
必死に身体を動かそうとするが、思うように動かない。壁に寄り掛かり立ち上がろうとするが、上手くないない。逃げろと声を出したいが、全く出ない。それどころか息がままならない。
めぐにゃんに男の1人が手を伸ばす。必死に躱すが、腕の折れた方にタックルをされ、床に伏せる。
「…。」
まだ、息も出来ない声を出せない。
必死に壁を殴って気をそらせようとする。
床を叩いて気をそらせようとする。
それでも、2人はめぐにゃんに近付く。
「……俺から…。」
俺から殺せ。
「…こっ……。」
小さな息しか出来ず、声も小さい。
「お待たせ。」
声の方、後ろを向くと、色紙さんが立っていた。




